番外編22:『排泄誓約のスクリーニング・ブルー』〜おしっこ愛好以外は至って平凡な男が、靴底を濡らした湯気の起源をカミングアウトし、男女の生体インフラ論で完璧にハックされるまで〜5
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の結婚相談所、および動画・書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての痛烈な風刺・創作であり、特定の生き方や価値観、性別、信仰を誹謗中傷・否定する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、純粋なビター・ドラマとしてお楽しみください。
――シャー……ッ、シャシャシャ……、シャーッ……。
冷え切った砂利と、凍てつくコンクリートの床を激しく穿つ、熱き生体資源の駆動音が、廃車の鉄板をスピーカーにして、高志の鼓膜サーバーへとダイレクトにパージ(出力)された。
(えっ……?!)
高志は息を止めた。
全身の血流が逆流するような、凄まじい衝撃が走る。
音が、あまりにも近かった。鉄板のすぐ向こう側で、あんなに綺麗な、触れることすら許されないような上位世界の象徴である女子高生が、すべてのリーガルチェック(恥じらい)をエラーブレイクさせ、ただ生理的な快感のなかに実存を剥き出しにして、黄金のパケットを排出している。
ジ、ジ、ジ、と、渇いた砂利が熱い液体を吸い込んでいく音。それと同時に、冬の極寒の空気のなかに、ツンとした、しかしどこか甘い、人間の肉体の最深部から出力されたばかりの、圧倒的に濃密な生体データの残香が広がっていく。
それは、お姉さんが「脳(建前)」でどれだけ綺麗事を並べようとも、その身体が決して嘘を吐かずに弾き出した、世界で一番確実な「実存の証明」だった。
「……あ」
しばらくして、駆動音が静かにフェードアウトした。
カサカサと、再び衣服を整える音が響き、ゆっくりとした足取りが聞こえたかと思うと、次の瞬間には、恥ずかしさを全て振り切るようにして、お姉さんの黒髪のポニーテールが、駐車場の入り口の方へ向かってダッシュで消え去っていった。
夕闇のストリートへと走り去る、彼女の後ろ姿。
お姉さんの実存がネットワークからログアウトされたその場所に、11歳の高志は、何が起こったのかも分からないまま、呆然と立ち尽くしていた。
だが、奇妙な、狂おしいほどの興奮が、彼の小さな身体をガタガタと震わせていた。
(あんなに綺麗な女の人でも……僕と同じなんだ。おしっこ、するんだ……!)
その時、高志の視線は、足元へと引き寄せられた。
大型車の車体の下、床下のわずかな隙間を潜り抜けて、反対側の側面から、こちら側に向かって何かが流れてくる。
それは、冬の冷たい空気のなかで、ほんのりと白い湯気を立ち上げながら、高志の靴のすぐ下、コンクリートの表面を濡らしていく、熱い黄金の水膜だった。
「あ……」
高志は吸い寄せられるように、その場所に膝を突いた。
社会のルール、衛生観念、道徳――そんな大人たちの作ったファイヤーウォールが、彼の脳内で音を立てて粉々に更地化していく。
高志は、まだほんのりと生体の温もりを残したまま、冬の冷気に冷まされつつあるその液体に、そっと指先で触れた。
指先を伝ってくる、お姉さんの生命の熱。
そして、彼はその濡れた指先を、自らの唇へと運び、ゆっくりと舐めた。
――少し、しょっぱい感じ。
冷たいアスファルトの上で、湯気とともに鼻腔を抜ける匂いと、舌のプロセッサが感知したリアルな塩分。
その瞬間、高志の脳内報酬系はカンスト(上限突破)し、メルトダウンを起こした。
綺麗な服を着て、スペックの檻で守られた「人間」というバグだらけのシステム。
それが、この車の下から流れてきたわずか数ミリの液体と、塩気という、嘘偽りのない「確定シグナル」に変換された瞬間。
高志は、人間が隠蔽している最深部の裏ログこそが、この世界で唯一信頼できる「純愛のプロトコル」であることを、その全実存で理解してしまったのだ。これが、高志という男の、すべての始まりだった。




