番外編22:『排泄誓約のスクリーニング・ブルー』〜おしっこ愛好以外は至って平凡な男が、靴底を濡らした湯気の起源をカミングアウトし、男女の生体インフラ論で完璧にハックされるまで〜4
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の結婚相談所、および動画・書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての痛烈な風刺・創作であり、特定の生き方や価値観、性別、信仰を誹謗中傷・否定する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、純粋なビター・ドラマとしてお楽しみください。
なぜ、あの時、付き合っていた「表の彼女」とセックスを重ねながらも、俺の精神サーバーは常に「スタンドアロン(孤立状態)」だったのか。
なぜ、年収500万円の大卒という、ストリートにおいてどこまでも「平凡でノーマルなモブ」であるはずのこの俺が、32歳のベテラン風俗嬢・マリカの差し出す体内分泌物のインフラに、人生の全実存をホールドされてしまったのか。
マリカとの暗号化シェルター(お風呂場)で、お互いの生体ログを等価交換し、確固たる信頼をハックし終えた高志は、自らの脳内サーバーの最深部にある【最暗部アーカイブ】のロックを静かに解除していた。
すべてのバグには、発生起源がある。
高志のファイヤーウォールが完全にメルトダウンし、一生消えないウロフィリアという名のウイルスが永続インストールされたのは、今から20年前――
彼がまだ11歳、小学校5年生の冬のタイムラインだった。
◇
季節は、吐く息が白く凍りつく冬の夕暮れ。
当時、どこにでもいる無邪気な子供のサーバーを回していた小学生の高志は、男友達数人と、近所にある広大な未舗装の駐車場で「かくれんぼ」を執行していた。
周囲はもう、夜の帳が下りる寸前のディープ・ブルー。
寒風がヒューヒューと吹き荒び、冷え切ったコンクリートと砂利の匂いが鼻腔を突く。
高志はかじかむ手をポケットに突っ込み、息を殺して、駐車場の一番奥に長年放置されている、錆びついた大型廃車の影に潜んでいた。
入り口からも、他のプレイヤー(友達)からも絶対に見えない、完璧な死角。
(……誰も来ないな)
静寂のなかで、寒さに身体を丸めていた、その時だった。
ザッ、ザッ、ザッ、と、砂利を踏みしめる切迫した足音が、駐車場のストリートから猛烈な勢いでこちらへ接近してくるログを検知した。
(鬼か?!)
高志は心臓をバクつかせ、廃車の鉄板に背中をぴったりと張り付けて身を縮めた。だが、その鉄板を回り込み、高志の潜む「クローズドな聖域」へと滑り込んできたのは、鬼(友達)ではなかった。
外部のネットワークから突如として侵入してきた、異分子。
それは、近所のエリート私立高校に通う、黒髪を高い位置でポニーテールに結んだ、17歳前後の見知らぬお姉さん(圧倒的な上位プレイヤー)だった。
「はっ……、はぁっ……!、うそ……っ、まにあわない……っ」
お姉さんは、そこに小学生の高志が隠れていることなど1ミリも気づいていなかった。
彼女の脳内プロセッサは、冬の冷気によって限界まで容量を縮小された生体インフラ――すなわち、猛烈な尿意という名の、逆らえない不条理のアラートによって完全にジャックされていたのだ。
お姉さんは、高志が隠れている大型車の、ちょうど「反対側の側面」へと滑り込んだ。
入り口からは絶対に見えない、鉄板一枚を隔てただけの、二重の死角。
高志のいる場所からは、お姉さんの肉体は直接見えない。
だが、だからこそ、遮蔽物を一枚挟んだ密室のなかで、高志の「聴覚」と「嗅覚」のプロセッサは、かつてないほどの過熱を始めた。
「……お姉さん、どうしたんだろ」
高志が戸惑いのログを脳内で処理しようとした、次の瞬間だった。
冬の硬質な静寂を切り裂くように、衣類が狂おしく擦れ合う生々しい摩擦音が響いた。
お姉さんはブレザーのボタンを外す余裕すらなく、チェックのプリーツスカートを必死にたくし上げ、
防寒用の分厚いタイツと下着を同時にひん剥いていた。
寒さでわずかに赤みを帯びた、成熟した大人の白い太ももが、冬の冷風に晒される。
大人の社会がどれほど分厚い綺麗事(衣服)で隠蔽しようとも、生理の極限の前にはすべてが強制シャットダウン(露出)される。
「ふぅぅ……っ!、はぁぁ……っ、ん、んん……っ」
尿意の檻から解放される、お姉さんの熱く、震えるような吐息。そして――。




