第6話 :真美(まみ)という名の北極星 〜14歳の邂逅と、固定電話越しの死闘〜1
前回のあらすじ:恋愛ビジネスが消滅した後に訪れたのは、本物の強者だけが生き残り、弱者は一瞬で淘汰される「恋愛の超・弱肉強食時代」だった。大岩山の山頂から世界を見下ろすひややっこの脳裏に、30年前――インターネットもスマホもない時代、自身の人間性のすべての源流となった一人の女性の記憶がよみがえる。彼女の名前は、真美――。
時間を、30年の彼方へと巻き戻そう。
47歳の俺が、アローズの鎧をまとい、大岩山の頂上から世界を絶望のシステムでチェックメイトする 、その遥か昔。
1990年代――インターネットもスマホもなく、街にポケベルの電子音と公衆電話の列が溢れていた、あの時代。
俺の、そして主人公・ひややっこの人間性のすべての源流であり、この物語の「本当の北極星」となった一人の女性の記録だ。
彼女の名前は、真美。真実の真に、美しいと書く。
当時、14歳だった俺は、暗闇の中にいた。小学校、中学校と続く陰湿で強烈ないじめ。
地元での完全なる孤立無縁。世界中のすべてが敵に見え、毎日「死んでしまいたい」という言い場のない孤独に、胸をかきむしられていた。
そんな1992年のある日、中学校の正門前で、彼女は立っていた。
当時、29歳。いい大学を出ているにもかかわらず、世間の綺麗事の就職レースをすべて蹴り飛ばし、自分の腕一本で、小さな個人塾を立ち上げたばかりの女性。
「学校の成績や、みんなと同じ集団でいることが、必ずしも正しいとは限らないよ」
中学校の前で、自分の塾のチラシを配っていた29歳の真美さんは、いじめられてうつむいていた14歳の俺の目を真っ直ぐに見つめて、そう言った。
「ひややっこくん。みんなが赤信号を渡っていてもね、自分がこれが本当に好きだ、これが正しいと思った青信号を大切にして、そこから自分の道を自分で実現していく大人になってほしい。
私は、そんなあなたを人一倍、全力で応援するから」
その声の温かい体温に、俺の凍りついていた魂は一瞬で救い上げられた。
世間から爪弾きにされた俺を、彼女だけは100%全肯定してくれたのだ。
彼女の塾に通い、俺は自分の「本当に好きなこと」
――漫画を描くこと、アニメーションの技術を磨くことに、初めて真っ直ぐに向き合うことができた。
後年、俺がアニメーターとしての経験を積むことができたのも、
そしてさらに幾星霜の年月を経た現在、
今、この作品を手に取ってくださっている皆々様に無数の
支持を頂ける機会を得たこの今という時間の瞬間も、すべてはこの29歳の彼女が手紙に遺してくれた、魂の青信号があったからだ 。
だが、14歳の子供だった俺は、まだ知らなかった。
俺をそこまでの包容力で包み込んでくれた真美さん自身もまた、その29歳の身体の中に、誰にも言えない「底なしの理不尽と孤独」を抱えて戦っていたということを。




