番外編16:『終焉のツィゴイネルワイゼン(完全チェックメイト) 〜灰滅する京都タワー(ソドム)と、比叡山頂の聖域で“生体家具(器物)”に転生した全能ナンパ師の純愛〜』4
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の宗教団体、結婚相談所、および書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の生き方や価値観、信仰を誹謗中傷する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、エンターテインメントとしてお楽しみください。
四、 夜の聖域 ── 合意の純愛
「大きな家には、金や銀の器だけでなく、木や土の器もあります。また、あるものは貴いことに、あるものは卑しいことに使われます。ですから、だれでも自分自身をきよめて、これらのものから離れるなら、その人は貴いことに使われる器となります。すなわち、聖なるものとされ、主人にとって役に立ち、あらゆる良いわざに間に合うものとなるのです。」── テモテへの手紙二 2章20〜21節より
しかし ── 夜の帳が比叡山を包み込み、お堂の奥の暗闇がすべてを支配する時間になると、二人のチェス盤は、世俗の男女が一度も見たことがない究極の「合意のシステム(愛)」へと反転する。
優れた異性として常に主導権を握ってきた神崎理央が、この暗闇の中で選択するのは、自らの全人格とプライドを完全にロスカットした「物(家具)」への完全な同化だった。
生まれた時から『神の抑圧(環境の檻)』にハメられ、清らかな聖女として徹底的に脳細胞をプログラミングされて生きてきたメグミ。
電波の檻が完全に消滅したこの更地だからこそ、彼女の深層心理の最深部に眠っていた、自分でも気づいていなかった「真の無意識の欲求(支配のサディズム)」が、剥き出しのリアルとなって覚醒するのだ。
夜のしじまの中、理央は全裸に特殊な防護シリコンを塗られたかのように身を硬くし、四つん這いに這いつくばって背中を平らに広げ、あるいは仰向けになって四肢を固定し、メグミが日々の過酷な労働の疲れを癒やすための「人間チェア(椅子)」や「ローテーブル(机)」になりきっていた。
「妻は自分の体を自由に権利を持たず、夫がそれを持っています。同じように、夫も自分の体を自由に権利を持たず、妻がそれを持っています。」── コリント人への手紙一 7章4節
「ただ、その自由を、肉の欲を満たす機会とせず、愛によって互いに仕え合いなさい(奴隷になりなさい)。」── ガラテヤ人への手紙 5章13節より
アローズの鎧を脱ぎ捨てた理央の生身の肉体は、メグミの体重の質量をただ無言で、じっとその骨と筋肉だけで支え続ける「動かない道具」として機能する。
メグミはタバコなど吸わない。だから灰皿になる必要はない。
彼女にとってプライドが完全に解放されるこの夜の時間は、日中も肌身離さず持ち歩いている大事な『聖書』を取り出し、静かに読み耽るための聖なる書斎だった。
理央が完璧に水平を保って固定した背中の上、あるいは胸の上に、メグミは愛用の聖書をそっと置く。
そして、お堂の限られた備蓄から丁寧に入れた温かいコーヒーと、素朴なお茶菓子をその「生身のローテーブル」の上へと並べた。
カタ、とカップが理央の肌の上で小さな音を立てる。
コーヒーの熱量とメグミがページをめくる規則的なメロディが、理央の肉体を通じてじわじわと脳細胞へ伝わってくる。
理央はただ、彼女の信仰を、彼女の最も純粋なプライベートのすべてを物理的に支えるための「透明な家具」として機能していた。
都会の頂点にいた頃には1ミリも得られなかった強烈な救済(体温)が、その絶対的な受動の檻の中で理央の魂をドロドロに融かしていく。
しばらくの間、静かに聖書を読み進めていたメグミだったが、突如としてその素朴な身体をプルッと小さく、繊細に震わせた。
静寂な空間に、彼女の脳内アラームが内側でかすかに弾む気配が伝わってくる。
昼間の畑仕事で冷えた身体に温かいコーヒーを流し込んだせいか ── 彼女の生体が、耐え難い「生理的な欲求」を突如として催したのだ。
メグミは、自らを支える人間家具の肉体を見下ろしながら、抑圧を完璧に叩き割った無意識の本音(女王の命令)を、かすれた声で宣告した。
「……理央。私、おしっこがしたい」




