番外編16:『終焉のツィゴイネルワイゼン(完全チェックメイト) 〜灰滅する京都タワー(ソドム)と、比叡山頂の聖域で“生体家具(器物)”に転生した全能ナンパ師の純愛〜』1
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の宗教団体、結婚相談所、および書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の生き方や価値観、信仰を誹謗中傷する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、エンターテインメントとしてお楽しみください。
一、 霊峰のバグ ── 予兆の空気感
「……神崎、メグミ。スマートフォンなどという世俗の薄っぺらいハリボテの液晶を見るな」
大岩山の頂上から世界を完全チェックメイトする悪魔の電磁波ウイルスが放たれた、まさにその運命の当日の朝。
比叡山無動寺明王堂の静寂な一室に、千日回峰行という生と死の境界線をくぐり抜けて生き神(大行満阿闍梨)となった高僧・一真(一心)の、地響きのような声が厳然として響き渡った。
小僧がパニックを起こして部屋に飛び込んでくる、まさに数秒前のことだった。
一真は数珠を握り締めたまま、自らの超人的な五感と野生の覇気(霊性)によって、比叡山を包み込む大気そのものが底冷えするような不気味な高周波(ウイルスの電磁波)によってドロドロに歪み、濁っていくのを細胞レベルで感知していた。
深夜の暗黒の山々を歩き続け、草木の息遣いや目に見えない神仏の気配(縁)を読み取ってきた一真からすれば、デジタル電波の崩壊に伴って地上(ソドムの街)から一斉に立ち上った何千万もの人間の「絶望、恐怖、怨念の濁流」が、比叡山の空気を一瞬にして黒く染め上げたのが分かったのだ。
「一真様……大変です!! 街が……機械が、大変なことになっています!!」
バタン──!! と、明王堂の静寂を引き裂く激しい音を立てて、一人の若い小僧が息を切らせて部屋に飛び込んできた。
その顔は恐怖で完全に引き攣り、脳内アラームが限界値を超えてパニックを起こしていた。
小僧はガタガタと震える手で、自らのスマートフォンを差し出した。
「東京も、京都も、日本中の全ての通信が……大パニックになっています!! ネットの裏の、ありとあらゆる人間の悪口や、隠していた恥ずかしい性癖、不都合なデータが……全部、強制的に表へ大開帳されて、のたうち回る人たちで溢れかえっているんです……!!」
「何だと……!?」
神崎理央(31歳)とメグミは、フッと小僧の差し出す液晶画面の向こう側のファクトへと目を奪われた。
そこには、かつて理央が所属していた都会のハック経済(ヤリチン工学)の頂点である東京の霞ヶ関のグループLINEや、
メグミがいたキリスト教結婚相談所のタイムラインの裏ログが、ドロドロの汚物のように全世界へ強制配信されている凄惨な地獄絵図が映し出されていた。
しかし、一真は画面を見ようともせず、山の下のストリート(地上)を冷徹に睨みつけながら静かに呟いた。
「小僧、騒ぐな。スマートフォンなど見ずとも、この山の空気が、地上の『欺瞞の崩壊』を告げている。人間たちが嘘の綺麗事で飾り立てていたハリボテの檻(中央システム)が、今、何者かの絶対的な大義名分によって完跡にチェックメイトされたのだ。
地上のメディアや、お前たちの持つ機械の向こうでは、これを国家規模の大規模なサイバーテロだの、未知のハッカー集団によるシステムバグだのと処理しようとしているだろう。
だが、違う!!」
一真は鋭いトゲのような視線を、理央へと突き刺した。
「神崎、お前たち世俗の人間には到底信じられないかもしれないが、これはサイバーテロだのハッキングだのという、生温い科学のマニュアル(数式)で起きているバグではない。
これは──【超常現象(怪異)】だ。この世界のシステムそのものを完跡に更地にしようとする、絶対的な怨念の大義名分が引き起こした、目に見えない神仏の領域のパージ(処刑)なのだよ」
「超常現象……」
理央の脳細胞に強烈なシステムエラーのアラームが鳴り響いた。
テロやバグであれば、自分が培ってきた合理主義の知性や、昨夜モデルの愛人に手切れ金として渡した「1億円」の資産価値で対処できる可能性が1ミリでも残るが、世界の理そのものがバグを起こした怪異であるならば、その1億円も、最高級タワマンも、今この瞬間にただのゴミクズ(紙切れ)に損切り(ロスカット)されたことを意味するからだ。




