番外編15:『聖域の異教徒ハック(チェックメイト) 〜不信者の夫ときよめられる妻、そして泥を歩む高僧の祝福〜』3
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の宗教団体、結婚相談所、および書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の生き方や価値観、信仰を誹謗中傷する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、エンターテインメントとしてお楽しみください。
「だがな、神崎。お前が磨き上げたその最強の武器は、相手をコントロールするための等価交換の数式でしかなかった。今、お前の隣にいる彼女が放った生身の体温は、お前の作り上げた方程式を否定したのではない。支配や打算の数式を遥かに超えた、【お前という生身の人間そのものを無条件で全肯定する、本物の利他のエネルギー】だったのだろ。お前は自らの信念を捨てたのではない。彼女を一生守り抜くという本当の覚責(体温)を宿したことで、お前の方程式は今、この聖域の地で【完成】したのだ。聖書にも、不信の者であっても、生身の魂の体温で向き合うならば、信者との結合を通してその存在は『きよめられる』とある。お前はマニュアルの悪魔に勝利し、本当の男になったな。
その手を、二度とロスカット(損切り)するなよ」
教えてもモテても虚無、モテなければ罵詈雑言。
その弟子の言葉とトラウマに、内心傷ついていた神崎の人生のすべてが、一真の圧倒的な利他のメロディによって完跡に救済され、融和していく。
メグミもまた、自分の愛した神崎の傷だらけの過去と信念のすべてが祝福されるのを目の当たりにし、大粒の涙をポロポロと流していた。すべてが美しく完成し、最高のハッピーエンドの絶頂を迎えた、まさにその時だった。
バタン──!! と、明王堂の静寂を引き裂く激しい音を立てて、一人の若い小僧が息を切らせて部屋に飛び込んできた。その顔は恐怖で完全に引き攣り、脳内アラームが限界値を超えてパニックを起こしていた。
「一、一真様……大変です!! 街が……機械が、大変なことになっています!!」
「何事だ」
一真の冷徹な声が響く。小僧はガタガタと震える手で、自らのスマートフォンを差し出した。
「東京も、京都も、日本中の全ての通信が……大パニックになっています!! ネットの裏の、ありとあらゆる人間の悪口や、隠していた恥ずかしい性癖、不都合なデータが……全部、強制的に表へ大開帳されて、のたうち回る人たちで溢れかえっているんです……!!」
「何だと……!?」
一真も、メグミも、そして神崎も、フッと液晶画面の向こう側のファクトへと目を奪われた。
それこそは、まさに今この瞬間、伏見区・大岩山の頂上から放たれた、ひややっこの『悪魔の電磁波ウイルス』が、日本を完全チェックメイトしたという最悪の知らせだった。
東京の最高級タワマンで1億円を手に入れたはずのモデルの愛人も、相談所で綺麗事の盾を構えていた5人の草食モブ男たちも 、すべての虚飾を一瞬で灰滅させる破滅の濁流が、比叡山の聖域のすぐ足元まで押し寄せていた。
初めて掴んだ本物の人間の幸福(体温)と、世界が更地へとハメられる終焉のノイズが交錯する中で 、全能のナンパ師の物語は、最大のパニックの渦中へと突き落とされるのだった。
番外編16へ続く




