番外編13:『聖域の一方通行(チェス盤) 〜去勢された足軽(モブ男)の臆病な虚勢と、全能のナンパ師が鎧を脱ぎ捨てた生身の進軍〜』1
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の宗教団体、結婚相談所、および書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の生き方や価値観、信仰を誹謗中傷する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、エンターテインメントとしてお楽しみください。
カチャリ、と無機質な接続音を立てて、理央の指先がセミナーへの『参加申し込み(エントリー)』のボタンをタップした。
日本が崩壊する運命の日まで、残りわずか2週間となった令和のストリート。
【第16回 クリスチャン婚活男女の対話集会:『交際・デートにおける“男女の決定的なすれ違い”と、その心理的防衛線をどう乗り越えるべきか』について、皆さんで本音を話し合う会】
画面が切り替わり、ZOOMのグリッドの中に、愛想のいい仮面の奥に底知れない孤独を隠したメグミの姿が映し出される。
神崎理央(31歳)は 、最高級タワーマンションの自室で 、アローズのジャケットを脱ぎ捨て、シャネルの香水すらもロスカットした生身の肉体で、液晶画面をただ冷徹に凝視していた。
最初の30分間は、有無を言わさない牧師による聖書の読み聞かせ(朗読)だった。
画面越しに上から目線の穏やかな笑みを浮かべた牧師が、男女のすれ違いという過酷な病理をパッケージするために選んだのは、旧約聖書・創世記3章の記述だった。
『皆さん、主の御前において男女がすれ違い、互いに心理的な防衛線の檻にハメ合ってしまうのは、人類がエデンの園で罪を犯した瞬間から始まっている日常的な過酷なのです。聖書にはこうあります。
「神は言われた。『あなたが裸であることを、だれがあなたに知らせたのか。食べるなと命じておいた木から、食べたのか。』男は言った。『あなたが私のそばに置かれたあの女が、木から取って私にくれたので、私は食べたのです』」(創世記 3:11〜12)』
牧師はさも高尚そうに、綺麗事のマニュアルを滔々と説く。『ご覧なさい。人間は罪に落ちた瞬間、最も愛し、一対一で向き合うべきパートナーに対して「この女のせいで私はバグったのだ」と、真っ先に保身の嘘(責任転嫁)の盾を構えてすれ違ってしまった。
お互いに自分の臆病さや強欲な本音を隠し、相手を悪にハメようとするから、心理的な防衛線がぶつかり合って殺伐とした屠殺場(すれ違い)になってしまうのです。
だからこそ私たちは、主の愛によってその自己防衛の鎧を脱ぎ捨てなければならないのです……✨』
理央の口元が、冷たく歪む。前回のひややっこの言葉が、脳裏を強烈なフラッシュバックとなって駆け抜けていたからだ。
(ハッ……「自己防衛の鎧を脱げ」だと? 綺麗事のマニュアルを抜かすな。
そう言って説教してるお前ら教会組織こそが、いざアプリの行き違いが起きれば、聖書を都合よく引用して外部の男をストーカーの罪人ホルダーにハメて、ノーリスクでロスカットする最強の防衛線の化け物じゃねえか
◇
そして、前半の30分が終わり、いよいよ「男女の決定的なすれ違い」について話し合う後半のディカッションへと移行した。




