番外編12:『聖域の一方通行(チェス盤) 〜頂点のナンパ師が宿したバグと、清楚女子が秘める冷徹な絶望〜』3
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の宗教団体、結婚相談所、および書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の生き方や価値観、信仰を誹謗中傷する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、エンターテインメントとしてお楽しみください。
これまでのハイスペモデルをベッドに沈める「消費のゲーム」ではない。
ひややっこから『お前の方程式そのものが、彼女を傷つける最大の罪悪(凶器)になる』と警告された通り、いつものスマートなナンパのセリフを滑り込ませた瞬間、メグミの脳内アラームは敵意を鳴らし、自分は一瞬でロスカット(排除)されるだろう。
なら、どうする。あの一真の言う通り、これまで磨き上げてきた傲慢な恋愛工学の鎧をすべてゴミ箱に捨て、
あの去勢されたモブ男たちのように大義名分の盾に逃げ込むのではなく、ただの一人の無力な生身の男として、泥にまみれて彼女の孤独の体温に寄り添うしかないのではないか。
一方通行だからこそ、これは俺の人生で初めての、本当の『命を賭けた進軍(恋)』なのだと、全能のナンパ師は自らの敗北と、新たな時代の幕開けを確信していた。
◇
それから半月後──。世界が完全チェックメイトされる運命の日まで、残り2週間となった令和のストリート。
あのキリスト教特化型結婚相談所から、新たなオンラインセミナーの案内ログ(シグナル)が端末に配信されてきたのだ。
今回のテーマは、前回の『割り勘』や『LINEの既読スルー』の次元を遥かに超えて、より生々しい人間のバグを突く大題だった。
【第16回 クリスチャン婚活男女の対話集会:『交際・デートにおける“男女の決定的なすれ違い”と、その心理的防衛線をどう乗り越えるべきか』について、皆さんで本音を話し合う会】
お互いに良かれと思って放った配慮の言葉が、なぜ相手の脳内アラームを爆音で鳴らしてしまうのか。
なぜ真面目に向き合おうとするほど、内輪の力(環境の檻)によってロスカットが横行してしまうのか 。まさに、現代のシステム化された出会いが人間のらしい感情を奪い、家畜化しているという、精神医学者たちの指摘そのもののような、過酷ですれ違う男女のリアルな病理をみんなで検証し、話し合おうという会だった。
最高級タワーマンションのデスクの前、アローズのジャケットを脱ぎ捨て、ブルーシャネルの香水すらもロスカットした生身の神崎理央は、液晶画面を見つめていた。
「ここが、俺の主導権ゼロの進軍のスタートラインだ」画面の向こうには、必ずあの、愛想のいい仮面の奥に圧倒的な孤独を隠したメグミが、一人の生身の人間として座っているはずだ。
理央はもう、彼女をハックするための『嘘のスクリーニングマニュアル』など構えていなかった。一真の放った本物の利他のメロディを胸に溶かし、彼女の冷徹な絶望(防衛線)のすべてを等身大の自分で受け止める覚悟だけを宿していた。
カタ、と静かな音を立てて、理央の指先がセミナーへの『参加申し込み(エントリー)』のボタンをタップした。世界が崩壊するわずか半月前の静寂の中、全能のナンパ師のプライドの檻を完全に更地にした男は、聖域の果てに佇む本物の体温の海へと、静かに、しかし燃え上がるような情念の覇気をまとって、最初の一歩を踏み出すのだった。
番外編13へ続く




