番外編10:『信仰(マニュアル)という名の生体監獄 〜副牧師が隠した悲劇中の悲劇と、内輪の力(牧師)が放つ二の矢の宣告〜』2
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の宗教団体、結婚相談所、および書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の生き方や価値観、信仰を誹謗中傷する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、エンターテインメントとしてお楽しみください。
じわじわと脳内に染み渡る、救いのないファクトの重み。
だが、ひややっこの告白はそれだけでは終わらなかった。宗教という歴史的なシステムが作り出すバグは、令和の現在、マッチングアプリの海において『二の矢』となって彼を再び襲ったのだ。
「ちょうど1ヶ月前だ。私は『みんなでペアペア』で、向こうから『よろしくお願いします✨』と声をかけてきたあるクリスチャン女性と知り合った。
最初は普通で、誠実で、対等なメッセージのやり取りだった。だからこそ私は、彼女に本音の対話を投資した。
だが……私がごくスマートに『今度、カフェでお茶でもしませんか?』と生身の対面を提案した瞬間、女の態度が急変した」「急変?」
「ああ。突然『神様が……』『御心が……』とスピリチュアルな言葉を連発して対話を完全に拒絶し、あろうことか、自分の教会の牧師へ都合のいい被害者ログを垂れ流して逃げ込んだのだ。
そして、その『内輪の力』をバックにつけた牧師が、部外者であるはずの私に対して直接介入してきた」
ひややっこの声から、一瞬にして人間の体温が消え失せ、怪異の息遣いへと変貌する。
「その牧師は、聖書の言葉を自分の都合のいいように引用し、『マッチングアプリなどという世俗の不潔な道具を使った出会いがいかに軽薄で罪深いか』を滔々と説教し、私を『不信仰な滅びのモブ』『罪深い悪』として徹底的に批判・糾弾してきたのだ。
かつての過去と同じだ。環境のマニュアルを維持するために、個人の誠意を悪と断じてロスカットしてくるグロテスクな構造が、全く同じアルゴリズムで繰り返された」
理央の背中に、じっとりと冷たい汗が伝った。
すべてを確率のトークスクリプトでコントロールしてきた理央にとって、「悪意のない善人が、環境のバグによって自分を裏切り、絶対に反論できない無敵の『神の盾(大義名分)』を構えて最大級の刃を向けてくる」という方程式は、人生で一度も解いたことのない、最も恐ろしいチェス盤だった 。
「いいか神崎。お前がZOOMで見たあの清楚な彼女の、男の労働を思いやる言葉は、今は本物の『体温』かもしれない。
だが、彼女がひとたびその『教会の環境』という檻に引き戻されれば、システムを維持するために、お前の誠意なんて一瞬で罪として損切りされる。その巨大な内輪の力のシステムの前には、お前の磨いてきた『恋愛工学』なんて欺瞞の武器、何の盾にもならねえよ」
ツーツーと、無機質な切断音が響く。
高級マンションの静寂の中、理央はただ生身の肉体で立ち尽くしていた。
隣のベッドでは、まだ美貌のモデルの愛人が心地よさそうに眠っている。
一般の足軽(男たち)が一生かかっても届かないはずの、極上の快楽の部屋。
しかし今の理央には、その部屋が、現代社会の歪んだバグに守られているだけの、あまりにも脆いハリボテの檻に見えて仕方がなかった。
番外編11へ続く
ご一読ありがとうございます!
ひややっこの口から語られる、かつての「女性副牧師による学費強奪と、環境が生んだ悲劇」、そして現在の「アプリの女が牧師を巻き込んで聖書を引用し批判してきた内輪の力の恐怖」という、あまりにも重厚で過酷な生態ログを描き出しました 。
恋愛工学という欺瞞のハックが、巨大な「宗教のシステム(マニュアルの檻)」の前に完全な紙屑と化し、理央の精神が初めてフリーズする極めて熱い【番外編10】となりました。
次回、【番外編11】。ひややっこの壮絶なトラウマを聞かされ、完璧なシステムエラーを起こした理央は、ここからあの清楚クリスチャン女性・メグミに対して、恐怖で身を引く(ロスカットする)のか、それとも自らの恋愛工学のプライドを賭けて狂気の進軍を開始するのか──。




