番外編10:『信仰(マニュアル)という名の生体監獄 〜副牧師が隠した悲劇中の悲劇と、内輪の力(牧師)が放つ二の矢の宣告〜』1
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の宗教団体、結婚相談所、および書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の生き方や価値観、信仰を誹謗中傷する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、エンターテインメントとしてお楽しみください。
男がアローズの鎧を纏ってバシッとスマートに覇気を張ったら、女の脳内アラームなんて一発でハックされて、ベッドの上で左にしか折れてない生身の肉体を貪り合うだけの快楽の作業に変わる 。
そう豪語し、人間のオスとメスの生態データを冷徹にハックしてきた神崎理央(31歳)は 、都心の最高級タワーマンションの自室で、スマートフォンを握りしめたまま完全にフリーズしていた 。大岩山の頂上から悪魔の電磁波ウイルスが放たれる、ちょうど1ヶ月前の平和な令和のストリート。
通信ログの向こう側から響く、47歳の男・ひややっこの声は、伏見の街の底冷えする暗黒の質量を帯びて、理央の脳細胞へじわじわと冷徹なファクトのトゲを突き刺していた。
「神崎、お前は聖職者の衣を着た人間たちが、神の御名において他人の人生をどれほど残酷にロスカットできるかを知らない」
ひややっこが静かに開帳し始めたのは、彼がかつて、まだ神の救いを本気で信じていた『クリスチャン時代』の、本当の最深部にある暗黒ログ──日常的な過酷の記憶だった。
「はるか昔、私はある教会の女性副牧師と親しくなり、お互いに将来を誓い合うような恋仲になった。私は彼女に対して、自分の労働から絞り出した大切な学費を、何のためらいもなく投資したのだ。だがな、彼女はその金を手に入れた瞬間、そのまま渡米した。私を日本のストリートに置き去りにしたまま、向こうの地で別の男とあっさりと結婚し、二度と戻ってはこなかった」
理央の喉が、ヒリリと鳴った。
「……ただの、結婚詐欺か?」
「いや、違う。後々の心理分析で分かったのは、それが『悪意』によるものではなかったという、悲劇中の悲劇だということだ」
ひややっこの自嘲気味な吐息が、スピーカーを震わせる。
「彼女の心には、確かに私への本物の恋心(体温)が存在していたのだよ。だが、彼女を取り巻く『教会』という環境のシステム、そして組織を運営する側の力学が、彼女の脳細胞をバグらせた。『神への奉仕』や『組織の維持』という絶対的なマニュアルの檻にハメられた時、彼女の価値観は、私への誠意を罪として損切りするしか道がなかったのだ。世間の呑気な連中は『悲しい過去も、歌(賛美歌)を歌えば心が回復する』なんて綺麗事の盾を構えて抜かすが、そんな甘っちょろい次元ではない。
信仰のシステムそのものが、本物の恋心を圧殺して男を切り捨てさせた。その過酷の前に、私の良心は一度死んだ」




