番外編8:聖域の割り勘論争(格付け) 〜去勢された草食足軽の食事会(ナンパ)と、脳細胞を貫く生身の体温〜2
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の人物、地名、特定の宗教団体、結婚相談所、および書籍・マッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の生き方や価値観、信仰を誹謗中傷する意図は一切ございません。あらかじめご了承の上、エンターテインメントとしてお楽しみください。
続いて、議論は「割り勘問題」へと移行する。
案の定、世俗のマッチングアプリ『みんなでペアペア』の海にいる強欲な売れ残り女子たちと同様に、聖職者ラベルの女たちからも、都合の良い綺麗な言い訳が飛び交い始める。
『聖書には「受けるよりは与える方が幸いである」とありますから、やはり男性がリーダーシップと神の愛を示して、デート代を全額負担してくださるのが自然だと感じます✨』
男の経済力を「神の愛」という耳障りの良い言葉の盾でタダで吸い尽くそうとする、大嘘の聖女ポジション。
だが、そんな欺瞞の濁流の中で、マイクを通して真っ直ぐに放たれた、一人の清楚な女性クリスチャンの声が、理央の脳細胞をフリーズさせた。
「……でも、私は、やっぱり男の人にばっかりお財布を出させたら悪いって本気で思うんです」
その声には、世俗の女たちが使う「出す出す詐欺(財布を出すフリだけして、クレジットカードですっと払われたらありがとうで終わらせるあざとい方程式)」の気配が、1ミリも混じっていなかった。
「だって、そのお金だって、その男性が毎日一生懸命に働いて、自分の命の時間を削って得た大切な体温じゃないですか。だから、もし相手がスマートに払ってくださろうとしても、私は『それは違います。私も自分の分はちゃんと出させてください』って、絶対に真っ直ぐお渡しします。お互いに対等な、生身の人間として向き合いたいですから……」
ZOOMのチャット欄をスクロールしていた理央の指先が、完全にぴたりと止まった。
(……な、んだと……?)
これまで独自の恋愛工学マニュアルで何百人ものメスをスクリーニングし、ハックしてきた理央。
彼の前にいたのは、男の優しさをタダで吸い尽くす脳みそ空っぽのセフレホルダーか、処女を装って高スペック男を釣ろうとする、記号だけで着飾ったハリボテの女ばかりだった。
だが、今、画面の向こうで真っ直ぐな瞳をして語っているその女性には、男を財布扱いする打算も、自分を高く売りつけようとする傲慢な檻も存在しない。
男の労働を、命の体温として本気で尊重し、対等に向き合おうとしている。
「女性クリスチャンには……こんな、しっかりした本物がいるのか……」
『愛って何ですか?』。かつて自分の弟子から投げつけられ、ずっと脳内のブラックボックスに閉じ込めていたあの言葉が、激しいフラッシュバックとなって理央の胸の防衛線をチクリと刺した。
こんな女性は、今までの俺のマーケット(世界)には一人も存在しなかった。
理央は冷え切った高級コーヒーのカップを握りしめたまま、無言で、その発言をした清楚な女性クリスチャンのプロフィール画面をじっと見つめ、自らのチェス盤の進展を冷徹に、しかし確かに、その心に深く刻み込むのだった。
番外編9へ続く




