番外編6:聖職者たちの選別アルゴリズム、そして袈裟の下の品定め2
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の寺社、教会、特定の宗教団体、結婚相談所、およびマッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の信仰や職業を誹謗中傷する意図は一切ございません。
「……結局、何も変わらないじゃないか」
京都の末寺で、仏壇の前に正座しながらスマホを握りしめていた若手僧侶・道雄(どうゆう・32歳)は、暗い本堂の中で乾いたため息を漏らした。
檀家や参拝者には、穏やかな笑顔で説法を垂れている。
「皆様、目に見える形あるものに執着してはなりません。人の価値は財産や容貌ではなく、他者を思いやる慈悲の心にあるのです」
だが、夜になって自室に戻り、袈裟を脱ぎ捨ててスウェットに着替えた道雄がやっていることといえば、アプリの画面を凝視しながら、「この子、写真は可愛いけど『寺の仕事は手伝いたくない』って書いてあるな、減点だな」「こっちは28歳か。でもプロフィールの文章が軽すぎる、足軽だな」と、世俗のナンパ師・神崎理央と1ミリも変わらない【 減点方式のスクリーニング ( 品定め ) 】だった。
さらに道雄を苛ませていたのは、自分が差し出した「誠意」に対する理不尽な無視だった。
先週マッチングした、寺院巡りが趣味だという清楚な29歳の女性。道雄はお寺の歴史や相手の好きな仏像の話題を丁寧に拾い、相手を不快にさせないよう、これ以上ないほど気を使って長文のメッセージを送った。
『返信はお時間のある時で結構ですからね。朝晩冷え込みますので、お身体ご自愛ください』相手を気遣う、完璧な利他のメッセージ。
しかし、既読がついたまま、画面は1週間沈黙した。
「……なんで返事が来ないんだ? あんなに丁寧に書いたのに」仏教の教えでは「怒りは身を焦がす炎」であり、「思い通りにならないこと(一切皆苦)を受け入れるのが修行」のはずだった。
だが、スマホの画面に冷たく光る「既読」の二文字を見つめる道雄の胸の奥で渦巻いていたのは、慈悲でも諦観でもない。「あいつ、人の善意をタダで受け取っておいて、挨拶ひとつ返せないのか?」「人を値踏みして、もっと条件の良い寺の坊主と天秤にかけてるんじゃないだろうな?」という、どす黒い怒りと、男としての惨めさ(煩悩)だった。




