番外編6:聖職者たちの選別アルゴリズム、そして袈裟の下の品定め1
【読者の皆様へ(免責事項)】この物語は完全なフィクションであり、実在の寺社、教会、特定の宗教団体、結婚相談所、およびマッチングアプリ等とは一切関係ありません。作中の宗教婚活事情や心理描写はエンターテインメントとしての創作・風刺であり、特定の信仰や職業を誹謗中傷する意図は一切ございません。
大岩山の電波塔から、あの悪魔の赤黒いノイズが日本中をチェックメイトする直前。令和の婚活市場の片隅では、世間には決して大々的に語られることのない、奇妙でグロテスクな「もうひとつのデータ監獄」が急速に増殖していた。
それは、お寺やキリスト教会、さらには各宗派が独自に囲い込みを始めた「宗教特化型マッチングアプリ」や「寺社専門の結婚相談ネットワーク」の台頭である。
かつて、一般的な大手結婚相談所やマッチングアプリのプロフィールには「宗教の有無」を明記する欄が存在していた。しかし、個人情報保護の厳格化や差別防止のガイドラインにより、2020年代初頭から大手プラットフォームの多くで「宗教欄」が一斉に削除された。
これが、聖職者たちにとって最悪のパルプンテを引き起こした。
一般のアプリ『みんなでペアペア』の海に放り出された若き僧侶や敬虔な信者たちは、何ヶ月もメッセージを交わし、ようやく真剣交際に進む土壇場になって「実は実家がお寺でして……」「毎週日曜はミサがあって……」と打ち明けた瞬間、相手の女性の表情が凍りつき、1秒で完全ロスカット(音信不通)されるという悲劇を何千回と繰り返したのである。
檀家付き合い、年中無休の法事、義父母との同居という「泥臭い現実」は、都会のアプリ女子が求める「自由で気楽なハイスペック生活」の真逆をいく地獄のペナルティだったからだ。
「一般のアプリでは、宗教を持っているだけで自動的に弾かれる」
その恐怖と、寺の跡継ぎ不足という切実な存亡の危機が合致した結果、2024年から2026年にかけて生まれたのが、各宗派の息がかかった「聖域専門の選別アプリ」だった。
「最初から信仰やお寺に理解のある女性だけが集まる場所」「ご縁を大切にする、安心で清らかな出会い」
パンフレットには、いかにも仏教らしい「利他」や「結び」といった耳障りの良い綺麗事が並んでいた。
だが、そのシステムを開いた先に広がっていた光景は、世俗の『みんなでペアペア』となんら変わらない、剥き出しの「品定めと格付けの檻」そのものだったのだ。
ログインした僧侶たちが見せつけられるのは、白装束でも袈裟でもない。
「年収:寺院収入500万+副業」「宗派:浄土真宗」「寺の規模:檀家数300軒」「同居:敷地内別居希望」――。
神仏の教えなどどこ吹く風。画面に並ぶのは、寺の資産価値という名の生々しい【 スペック ( 換算レート ) 】だった。
そして、登録している女性たちもまた「心穏やかなお坊さんとの丁寧な暮らし」を夢見る一方で、プロフィール写真の顔面偏差値を冷徹にスワイプし、檀家数が少ない貧乏寺の跡取りを容赦なく左へフリック(ゴミ箱行き)していた。




