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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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69/70

69 私は……

今回は結梨視点になります。

 真冬にしては温かい日差しが降り注ぐ土曜日、私、野上結梨のがみ ゆうりは親戚である静香姉さんの結婚式に参列した。

 彼女に一通り挨拶を済ませた後、新郎新婦の親族が使用する待合室に案内された。

 両親は親戚と話をしている最中だ。私の周りには静香姉さん以外年齢の近い親戚がいなかった。だから、この場で話す相手がいなくて退屈だった。

 式が始まるまでどうしようかと考えていた時のことだ。待合室に1人の学生服を着た男の子を見つけた。

 私と同じ歳ぐらいの彼は椅子に座っていて、手持ち無沙汰なのかスマホを眺めていた。

 そして、彼の顔を見ている内にあることに気づいた。私は彼の元へと駆け寄った。

 

「あれ? 菅田君?」

 

 私に声をかけられた彼はスマホから顔を上げる。彼の名前は菅田君。クラスメイトの男の子だ。

 

「野上か? どうしてここに?」

「それは私のセリフよ。隣に座ってもいい?」

「ああ、いいぞ」

 

 菅田君の隣の席に腰掛ける。見知った顔がいたため、思わず声をかけてしまったが、私と彼は親しい間柄ではない。

 同じクラスといっても、行事や連絡事項以外で話したことはない。こうしてプライベートで会うのも初めてだ。

 けれど、せっかくの機会だから。そう軽い気持ちで菅田君との会話を続ける。

 

「さっき、静香姉さんと会って話したけれど幸せそうだったわ」


 この待合室に来る前のことを思い出す。静香姉さんは綺麗なウェディングドレスを着て、満開の花を思わせる笑顔を浮かべていた。

 

「私もいつかああなりたいわ」

 

 そう自然と言葉が口から漏れていた。ふと隣に目を向けると、何故か菅田君が口をポカンと開けてこちらを見ていた。

 

「どうかしたかしら?」

「な、何でもないぞ」


 私の問いかけに対して、彼は顔を逸らすことで回答を避けた。先程の顔といい今の態度といい、何やら隠しているように思える。

 その瞬間、私は悟った。

 

「もしかして意外に思っているの?」

「え?」

「ほら、私が女の子っぽいことに憧れを持っているなんて想像つかないでしょう?」

 

 自分で言うことでもないが、私はクラスの人達から慕われている。それ自体は悪いことではないし、無言で期待してくる両親に比べれば、なんてことない。

 それでも、たまに意外な顔をされる時がある。どうやら人それぞれの中で私に対するイメージがあるようだ。だから、そのイメージと違うことをすると、相手に裏切られた顔をされる。

 それは少し窮屈に感じた。

 

「別にそんなことはないと思うぞ」

「え?」

 

 菅田君の声が耳に届く。今度は私が彼の顔を見つめた。

 

「好きなものなんて人それぞれだ。俺は気にしないよ」

 

 菅田君は何でもないようにそう言った。彼から言われた言葉に私は衝撃を受けていた。

 菅田君は私の事情や心中なんて知らないはずだ。それなのに、私の心は軽くなったような気がした。体の外側を覆っていた何かが取り払われた気持ちなる。

 その時、私は菅田君に興味を抱いた。彼のことをもっと知りたいと思うようになった。

 けれど、私と彼はただのクラスメイトだ。中々接点が生まれにくい。それならどうするべきか。

 ……いや、違う。私と彼の接点はまさに今日できた。その時、私の中である閃きが生まれた。

 

 

***

 

 

 「菅田君の誕生日はいつかしら?」

 

 静香姉さん達の結婚式が終わった後、再び菅田君に話しかけた。これから話をすることはとても重要なことだ。今後の私の人生を左右するといってもいい。

 

「さ、3月6日生まれだ」

 

 だから、菅田君の口からその言葉が飛び出してきた時、私の中で歓喜と喜びに満ち溢れた。

 昔から静香姉さんに憧れていた。私も彼女のように頼れるお姉さんになりたいと思っていた。

 だから、弟が欲しかった。私が存分にお姉ちゃんできる弟が。

 

「それじゃあ、今日から私がお姉ちゃんね」

 

 そう私が言った時の菅田君の顔はとても印象に残った。

 

 

***

 

 

 同級生と姉弟になってから、私の日常は変わった。最初は戸惑ってばかりだった菅田君、改め和哉君も姉さんと呼んでくれたし、私のことを下の名前で呼ぶようにもなった。

 弟とはいえ、男の子から名前で呼ばれるのは初めてのことだ。けれど、彼の口から「結梨姉さん」と呼ばれると喜びが溢れ出そうになる。

 和哉君との会話はとても楽しい。私の言うことに色々な反応を返してくれるし、恥ずかしながらも最終的には私のお願いを聞いてくれる。 

 同い年の弟との日々はとても面白く、楽しく、新鮮だった。

 

「それは俺が作ったんだ。俺の手作りだよ」

 

 和哉君が手芸のことを私に打ち明けた時、またしても私の中で衝撃が走った。

 彼曰く手芸のことは彼の両親以外誰にも話したことはないという。私に話したのは、私なら話しても大丈夫だと和哉君が判断したからだ。

 弟である彼から信頼を寄せられたことはもちろん喜びに値する。感激のあまり涙が溢れたのは彼には秘密だ。

 けれど、それ以上の衝撃だったのが秘密を打ち明ける彼の姿が眩しすぎたことだ。思わず和哉君を抱きしめてしまったのも無理はない。

 

「私に秘密を打ち明けるまで貴方がどれだけ悩んで躊躇して、決断してくれたのか。さっきまでの和哉君の様子を見ていれば分かるわ」

「けれど、それは結梨姉さんだからで」 

 

 なおも彼は私のお陰だと言う。それ自体はとても嬉しいことだけれど、そんなことで彼の尊敬されるべき部分は変わらない。

 

「人に自分の大切なことを話すのってとても勇気が要ることだと思うの」

 

 未だ私は両親と向き合えていない。2人に将来の夢を話していない。

 それは怖いからだ。両親の期待を裏切ることを恐れているからだ。

 きっと和哉君も私と同じような思いを抱えていたのかもしれない。それでも、彼はそれを乗り越えて、私に話してくれた。

 

「だから、よく頑張りました。お姉ちゃんを信じてくれてありがとう」

 

 臆病な私と違って、勇気を出した弟に対して、私は心の底から賛辞と尊敬を送った。

 

 

***

 

 

 私と和哉君の関係は静香姉さんの結婚式から変わった。ただのクラスメイトから姉弟へ。それもお互いを想い合う姉弟へと変わった。

 そう気づいたのは和哉君に私の将来なりたい職業を打ち明けたいと考えて始めた時だ。

 私は保育士になりたい。子供の頃からずっと変わらない夢だ。両親に反対されるのが怖くて、誰かを失望させるのが怖くて、誰にも話したことがない秘密だ。

 

「貴方に話したいことがあるの」

 

 そんな秘密を和哉君に打ち明ける。かつてないほど私の心臓は激しく鼓動している。

 

「私はね、保育士になりたいのよ」

 

 一体和哉君はどういう反応をするだろうか。驚くだろうか、それとも失望するだろうか。弟である和哉君の反応を待った。

 

「けれど、保育士も姉さんに合っていると思う」

 

 和哉君から言われた言葉に新たな衝撃を受ける。それはくすぐったいような胸が高鳴るような明るい気分になるものだ。

 その後、和哉君は私のどんなところが保育士に合っているか挙げていった。彼の声を聞くだけで、心が穏やかになる自分がいた。そして、極め付けは。

 

「結梨姉さんはきっと良い保育士になるよ」

 

 そう大切な弟から贈られた一言に私は自分でもどうしようもないほど喜びや幸せ、驚きや照れなどの感情に満ち溢れていた。

 きっと自分の頬は緩み切っているのだろう。顔もトマトぐらい真っ赤に染まっているに違いない。

 そんな顔を彼に見られたくなくて、腕で覆ったほどだ。

 自分のやりたいことを、してみたいことを受け入れてくれた。肯定してくれた。これほど嬉しいことは世の中にないだろう。

 

 

***

 

 

 「姉さんの将来の夢を両親に伝えよう」

 

 彼からそう告げられた時真っ先に考えたのは強い拒絶だった。両親に打ち明けることなんて考えたこともなかった。和哉君と違って、絶対に受け入れてくれないからだ。

 2人の冷たい視線を向けられると、心が萎縮してしまう。体が言うことを聞かなくなってしまう。

 和哉君に秘密を打ち明けることができたが、結局私は臆病なままだった。

 

「俺が一緒にいる。結梨が怖いんだったら、俺がそばにいる。隣にいるよ」

 

 和哉君に抱きしめられた時、自分の体と心が熱くなっていくのを感じた。まるで彼から力と勇気をもらっているみたいだ。

 

「和哉君がそこまでしなくても……」

「俺がしたいことなんだ。結梨には笑顔でいて欲しい。いつものように明るく無邪気に笑っていて欲しい」

 

 そう言って笑う和哉君を見て、私の中で更なる衝撃が走る。彼の笑顔を見ると、心が落ち着く。と同時に胸が高鳴っていくのを感じる。

 両親に話すをするのはまだ怖い。だから。

 

「私と一緒にいて。私が両親に伝えられるよう、貴方にいて欲しいの」

「ああ、分かった」

 

 私のお願いに快く応じてくれた和哉君は誰よりも輝いて見えた。

 

 

***

 

 

 和哉君がいてくれたお陰で両親に将来の夢を伝えることができた。それのみならず、両親とのわだかまりが解けて、2人と仲良く話をするようになった。

 これも全て和哉君のお陰だ。彼と会いたがる両親に少しだけ不満を覚えるが、それよりも2人が彼を受け入れてくれたことが何よりも嬉しい。

 そんな私にある変化が起こった。私の外見ではなく、中身の話だ。

 何故だが分からないけど、和哉君と一緒にいたいと考えるようになった。これまでよりももっとずっと一緒にいたいと思うようになった。

 私の隣に彼がいて欲しい。和哉君と手を繋ぎたい。彼と話がしたい。

 果たしてこれは弟に向ける気持ちなのだろうか。生憎私は姉初心者のため、何も分からない。

 それならば、友達に聞いた方がいい。幸い私にはぴったりの相談相手がいる。

 

「沙優、最近考えていることがあるのだけれど」

 

 放課後、たまたま会った沙優に相談を持ちかけた。自分が考えていることを一通り話すと、彼女はとても驚いた表情を浮かべた後、明るく笑ってこう言った。

 

「今度の日曜日、私と学、結梨と菅田の4人で遊園地に行こう! 約束だよ!」

「え? ええ、分かった」

 

 相談したはずが、何故だが遊びに行く約束を交わしていた。

 

「最後は観覧車に乗ろう」

 

 それは遊園地のアトラクションに乗るために並んでいる時だった。

 和哉君と田口君が休憩に入り、私と沙優だけで他のアトラクションを回っていた。そして、待列に並んでいる時に沙優が私にそう告げた。

 

「分かったわ。4人で乗るのかしら?」

「ううん、2人で分かれて乗った方がいいよ」

「え?」

 

 沙優は私の提案を否定した。それ自体は特に問題ないが、気になったのはそう答えた彼女の表情だ。

 

「そうすれば、この前結梨が言っていたことが分かるよ」

 

 沙優の目は真剣味があった。普段明るい彼女にしては落ち着いた声だった。

 

 

***

 

 

 「俺は1人の女子として結梨のことが好きだ。だから、俺と付き合ってください」

 

 和哉君から告白された時、私の体に衝撃が走る。まさか弟に告白されるとは思わなかった。初めその衝撃は驚きからくるものだと思っていた。

 私は自分の手へ視線を向ける。そこには和哉君と繋がれた自分の手があった。手を通じて彼の体温が伝わってくる。

 自分の内面と向き合う。彼から想いを告げられた時の衝撃とは何なのか。

 そう考えた時に浮かんでくるのは和哉君との思い出だった。

 彼と出かけた時、一緒にご飯を食べた時、彼から秘密を聞かされた時、彼に秘密を打ち明けた時、そして、彼と一緒に両親と向き合った時。

 私の頭の中は彼との思い出で一杯だ。これではまるで……。

 その時、私はようやく自分の気持ちを理解した。そして、沙優が伝えたいことにも理解した。

 

「私は」

 

 私が口を開くと、和哉君は表情を引き締めた。真面目な話をする時浮かべる表情だ。そんなところも私は……。

 

「私も貴方のことが好きよ」

「え?」

「もちろん男の子として好きよ」

 

 今やっと自覚した自分の気持ちを彼に伝える。そうすると、私の中でしっくりきた。ジグソーパズルの最後のピースが嵌め込まれたようだ。

 

「え? マジか? 夢じゃないよな!?」

 

 和哉君は驚きと喜びと困惑が入り混じった顔をしていた。色々な反応を返してくれる彼らしく、愛おしい表情である。

 

「夢じゃないわ。私と付き合ってください」

 

 そう言って、和哉君を、恋人となった彼のことを抱きしめる。そうしたら、とても幸せな気持ちに包まれた。

次回、最終話です。

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