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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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68/70

68 貴方と出会えて良かったわ

「こうしていると、前に乗った時のことを思い出すわね」

 

 観覧車のゴンドラは夕日に照らされていた。その中で明るいベージュ色の髪の彼女は柔らかく笑った。

 

「あの時も最後は観覧車に乗ったな」

「ええ、高いところを怖がっていた和哉君は可愛かったわ」

「存在しない記憶を生み出すのはやめてくれないか!?」

 

 俺のツッコミに結梨は「冗談よ」と楽しそうに微笑む。

 ゴンドラの狭い中で俺と結梨は2人きりだ。学と西村は別のゴンドラに乗っている。

 2人が気を利かせてくれたお陰で結梨と一緒に観覧車に乗ることができた。本当に感謝してもしきれない。

 

「私の隣に来なくても大丈夫かしら?」

 

 そう言って、結梨は自分の隣の席をポンポン叩いた。そういえば、前回は結梨と隣同士に座っていたことを思い出した。

 

「このままで大丈夫だ。たまには向かい合うのもいいだろ」

 

 今回は俺と結梨は向かい合って座っている。そのお陰で彼女とこうして真正面に向き合える。告白するには、絶好のシチュエーションではないだろうか。

 しかし、俺にとって誤算があった。

 

「確かにそうね。夕日に照らされた和哉君を眺めるのは乙よ」

「それは本当に乙なのか? というか、席を交換してもいいんだぞ」

 

 座る位置を間違ってしまい、その結果、俺が夕日に当たることになってしまった。

 夕日に照らされた結梨の姿を拝めなくて、残念な気分である。その時の彼女はきっと綺麗に違いない。

 

「私はこのままで大丈夫よ」

「……まあ、結梨姉さんが良いならいいか」

 

 けれど、そんな自分の気持ちも結梨の楽しそうな顔を見ていると、どうでもいいことだと感じてしまう。

 ふと結梨が腕を伸ばして、俺の手を握りしめた。俺の手を両手で包み込んだ。

 

「和哉君、ありがとうね」

「俺もだよ。今日は楽しかった。まあ、色々アトラクションを乗って少し疲れもしたけどな」

 

 結梨と西村に振り回されながら、遊園地を回るのは間違いなく楽しかった。時間があっという間に過ぎてしまうほど充実した1日だ。

 

「それもあるけど、私が言いたいのはそれだけじゃないわ」

 

 俺の感想に結梨は首を横に振った。では、一体どういうことなのかと不思議に思っていると、ふと体を引き寄せられた。

 あっと思った瞬間、結梨に抱きしめられていたことに気づいた。

 

「ゆ、結梨?」

「貴方と姉弟になって、貴方と出会えたからのことよ」

 

 結梨の優しい声が耳元で囁かれる。そうされると、天にも昇る心地になってしまう。

 

「和哉君と仲良くなってから色々なことがあったわ。2人で色んなところに出かけたし、様々なこともやったわ」

 

 結梨の体温を間近で感じる。その温かさと声の優しさで俺の頭の中でこれまでのことが走馬灯のように駆け巡る。

 

「何より両親に将来の夢を伝えることができたわ。それに2人と打ち解けることもできた」

 

 結梨は体を動かして、俺と正面で向き合う。彼女の綺麗な瞳が俺を捉えていた。

 

「全部和哉君がいたお陰よ。貴方と出会えて良かったわ」

 

 そう言って、結梨は優しく微笑んだ。その笑顔を向けられただけで、彼女の愛情が感じられる。

 

「それは俺も同じだよ」

 

 万感の想いを込めて、俺は言葉を紡ぐ。今ここしかない。そう思い始めていた。

 

「最初は同級生の女子と姉弟になるなんて戸惑っているばかりだった。同い年なのに姉を名乗るはおかしいと思っていたさ」

「ふふっ、そういえば、中々『お姉ちゃん』と呼んでくれなかったわね」

「今も『お姉ちゃん』とは呼んでないぞ。まあ、それは置いといてだ」

 

 今度は俺が結梨の手を包み込んだ。そして、彼女を真っ直ぐに見つめる。

 

「今は立派で尊敬できる姉だよ。誰にでもどこにでも自慢できる姉だ」

「和哉君……」

 

 結梨の瞳は潤んでいるように見えた。俺がここまで素直に結梨を賞賛するのは初めてだろう。そのせいか感激しているのかもしれない。

 

「それに俺の趣味を、手芸を受け入れてくれた。それが何よりも嬉しかった」

 

 俺が自分の秘密を告白した時のことを、何でもないように受け入れた結梨の姿はこの目に焼き付いて離れない。まさしく俺の世界が変わった瞬間だ。

 

「結梨姉さん、ありがとう。俺の趣味を受け入れてくれて。俺に色々なところに連れて行ってくれて。俺と一緒にいてくれて、ありがとう」

 

 これまでの感謝をただ1人の大切な姉に伝える。俺の気持ちが少しでも彼女に届くように。

 

「俺も結梨に、君に出会えて良かった。俺と姉弟になってくれてありがとう」

「そんなことを言ってくれて、お姉ちゃんは嬉しいわ」

 

 結梨の瞳から涙が一筋流れていた。その姿は絵画になるほど美しいものだった。

 弟としての想いは伝えることができた。けれど、俺が抱く想いはこれだけではない。

 

「けど、それだけではないんだ」

「え?」

 

 俺の続きの言葉を聞いて、結梨は呆気に取られた。不思議そうに首を傾げている。その可愛らしい仕草に思わず抱きしめてしまいそうになる。

 

「初めは確かに姉へ向ける気持ちだけがあった。けれど、結梨姉さんと、結梨と過ごしていくうちに、俺の中で別の想いが芽生えていった」

 

 俺は結梨を真っ直ぐに見つめた。彼女はきっとこの唯ならぬ雰囲気が何か知っているのだろう。多くの男子から告白されてきた結梨なら。

 

「姉に抱いてはいけない感情だと思う。君が望んでいないことかもしれない。それでも俺は」

 

 観覧車はまもなく頂上に達する。そして、ゴンドラの中は夕日の光でいっぱいになった。俺だけでなく、目の前にいる結梨もまた夕日に照らされた。

 その姿は俺が思い描いていたよりも遥かに美しいものだった。

 

「俺は1人の女子として結梨のことが好きだ。だから、俺と付き合ってください」

 

 俺の口から出てきた想いは確かに言葉となって飛び出した。間違いなく結梨に伝わったはずだ。

 俺から、弟からの告白を聞いた結梨は目を見開いていた。そして、何やら考え込んでいる表情へと変わった。

 俺の想いは伝えた。あとは彼女がどう答えるかだ。正直どうなるか分からない。不安や緊張で胸がドキドキしっぱなしだ。

 永遠に続くかと思われた沈黙は突如として破られた。

 

「私は」

 

 やがてゆっくりと結梨は口を開いた。

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