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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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67 行きましょう、和哉君

「ほらほら、早く行こうよ」

「沙優、走ると危ないぞ」

「だって、せっかくの遊園地なんだもん! たくさんアトラクションに乗らないと損だよ!」

 

 西村が騒がしくて、それを学が諌める。いつも通りの2人である。そんな仲の良い友達を俺は後ろから眺めていた。

 

「2人とも元気ね」


 隣にいる結梨がそう呟いた。どうやら彼女も同じことを思っていたようだ。

 

「2人の方が良かったか?」

「賑やかなのは大歓迎よ」

 

 俺の問いかけに結梨は嬉しそうに微笑む。そんな彼女の姿を見ていると、こちらまで幸せになってしまう。

  

「おーい、2人とも」

 

 ふと正面を向くと、いつの間にやら学や西村との距離が遠くなっていた。

 

「早くこっちにおいでよ! ジェットコースターが行列になっちゃうよ!」 

 

 西村は声を張り上げていた。そのお陰で周囲の人からの視線が集まってしまう。まあ、結梨の容姿から元々注目の的になっていたから今更ではあるが。

 

「私達も行きましょう」

 

 そう言って、結梨は俺の手を握った。そして、そのまま、俺の手を引いて、歩き出していく。

 以前だったら、結梨に引っ張られるまま彼女の後を追いかけていたが、今は違う。

 

「ああ、分かった」

 

 早足で結梨の隣へと移動する。そうすると俺と結梨は横並びになった。

 

「和哉君?」

「一緒にいるって言っただろ?」

 

 結梨の問いかける眼差しに格好付けてそう答えてしまった。あの時の約束は結梨の両親と向き合う時だけのはずだ。

 だから、今更そんなことを言われても疑問に思うだろう。けれど、結梨は。

 

「ええ、そうだったわね」

 

 隣の彼女は花が咲いたように笑った。そして、2人で手を繋いで、学たちの元へと歩いていく。

 7月のある日曜日、俺達は遊園地へ来ていた。

 

 

***

 

 

 結梨の両親と話をした次の日から、彼女は変わった。といっても、彼女の見た目は何も変わっていない。

 相変わらず堂々としていて、俺に対して姉として接しているし、楽しそうに笑っている。

 

「お父さん達が和哉君は次いつ来るのかって言っていたわ」

「え?」

 

 学校から駅へ向かっている時だ。結梨の口から両親のことが自然と出てきている。家族のことを話したがらない以前の姿と大違いだ。

 

「2人とも『私の弟なら、私達の息子でもある』と言っているわ」

「待て待て待て、理解が追いつかないんだが」

 

 結梨と両親が仲良く話をしていること自体は喜ばしい。俺が話題になっていることを除けば。

 

「全くあんなに色々あったのに、もう和哉君のことを身内扱いしているなんて。一体どういう距離感なのかしら?」

「……俺は結梨姉さんの両親らしいと実感しているよ」

 

 結梨と姉弟になってからの怒涛の日々を考えると然もありなんという感想だ。改めて結梨は両親に良く似ていると思ってしまう。

 

「それでいつが良いかしら? 和哉君さえよければ、今夜でも構わないそうよ」

「いや、それは流石に急過ぎないか!?」

 

 距離感の詰め方が実に娘とそっくりである。ここで頷いてしまえば、俺はこのまま結梨の家へと連れていかれてしまうのだろうか。

 

「それはまあ、また今度でお願いするよ」

「分かったわ。2人に伝えておくわ」


 結梨の言葉に胸を撫で下ろした。別に慎也さんや知里さんのことを苦手だと思っていないが、流石に今すぐ和気藹々と接するのはまだ難しい。

 いずれはそうなる必要があるけれど。

 

「それで、姉さん」

「何かしら?」

「えっと、このまま手を繋いでいていいのか?」

 

 そう言って、結梨と繋いでいる方の手を持ち上げる。そうすると、彼女の手も自然とついてくる。

 学校から出て今のいままでずっとこの状態である。どちらが言い始めたのか定かではないが、気が付けば手を繋いでいた。

 

「別に大丈夫よ。今は周りに人がいないのだから」

「まあ、今はいいけど、駅の近くまで行ったら、人が多いと思うぞ」

「別に大丈夫よ。人が多いなら、私達のことなんて気にしないわ」

「これはどうあっても手を繋いだままか!?」

 

 そう嬉しい悲鳴を叫んでしまうが、結梨はそれでいいのだろうか。流石に手を繋いで一緒に帰れば、何かしら噂されるに違いないだろう。

 

「和哉君が心配しなくても大丈夫よ。このまま行きましょう」

「まあ、結梨姉さんがいいならいいんだけど」

 

 結梨は確かに変わった。人目を気にせず、俺と手を繋いだりするし、いくら俺が言ってもやめようとしない。

 彼女の中でどんな変化があったのか分からない。けれど、その変化を嬉しく思っている自分がいた。

 

「そういえば、今日帰る時に学から言われたんだけど」

「ああ、私も沙優から聞いたわ。"例の件"でしょう?」

「そう言われると、怪しげな話に聞こえるな」

 

 実際はただの遊びの誘いである。結梨もそれを分かっていて、冗談で言っているのだろう。

 

「テストを無事に乗り切った記念に、4人で遊園地に行こうって話だったな。まあ、学と西村もテスト勉強を頑張っていたからな」

「もちろん和哉君も頑張っていたわ。お姉ちゃんが褒めてあげる」

「へいへい」

 

 俺が少し屈むと、結梨が腕を伸ばして、俺の頭を撫でる。我ながら撫でられるのも板がついてきてしまった。

 

「テスト勉強を頑張れたのも結梨姉さんのお陰だよ。そのご褒美というのが遊園地に行くみたいだ」

「前に私と和哉君で行ったところね。貴方から初めて遊びに誘われたから、お姉ちゃんはよく覚えているわ」 

 

 結梨は何故か得意気な表情を浮かべていた。

 

「あの時のことは俺も覚えているよ。楽しかったな」

「それで今度は4人で行こうということね」

「ああ、その通りだ。どうする?」

「もちろん行くわ」

 

 そう言って、結梨は楽しそうに笑った。それは遠足を前にした子供のように無邪気だった。

 

 

***

 

 

 そして、結梨や学、西村と遊園地に来て思ったのは女子というものは好きなものを目にすると、体力が無限になるということだ。

 結梨はもちろんのこと西村も絶叫系のアトラクションが好きらしく、片っ端から乗っていった。

 まるで今日でこのアトラクションを制覇する勢いである。……こんなことは前もあった気がする。

 

「和哉、大丈夫か? 少し休憩でもしようか」

「俺はまだ大丈夫だ」

「そう言っている顔は大丈夫に見えないよ」

 

 ベンチに座っていると、隣にいる学から声をかけられた。結梨と西村は別のアトラクションに乗っているところだ。

 

「調子はどう?」

「色々乗って疲れたぞ。お前の彼女は疲れ知らずか?」

「元気いっぱいなのが沙優の良いところだからね。俺が聞いているのはそっちじゃないよ」

 

 俺の返事に学は苦笑する。彼が俺に定期的に確認してくるとしたら、あのことだろう。

 

「そっちの方も色々あったぞ。とりあえず、この前相談したことなら、無事に解決した」

「それは良かったね。そのお陰で何かしらの変化があったっていうことかな?」

 

 学は何かを見透かしたように笑う。彼も結梨に起こった何かしらの変化を感じ取っているようだ。

 

「まさか野上さんと手を繋いで来るとは思わなかったよ」

「まあ、俺自身も驚いているよ」

「和哉の望み通りの方向に向かっているのかな?」

「それはどうだろうな」

 

 正直今の結梨の内心がどうなのか全く分からない。突然弟になった男子を下の名前で呼ぶ彼女だ。結梨の中の距離感というものは常識では計り知れない。

 

「それだったら、もう少し様子見をするつもり?」

「いや、それはない」


 俺がきっぱりと否定すると、学は驚いた顔でこちらを見ていた。

 

「和哉、まさか……」

「あと1ヶ月足らずで夏休みだ。夏休みに入れば、結梨とあまりいられなくなる」

 

 もちろん連絡を取り合えば、会うこと自体はできる。けれど、結梨にも色々と予定がある。俺とばかりいられないだろう。

 それだったら。俺は顔の前で手のひらを広げる。そして、拳を握りしめる。

 

「俺は今日結梨に告白するよ」

「そうだったんだね」

 

 俺の唐突な宣言に学は温かい視線を向けていた。そして、俺の肩に手を置いた。

 

「頑張れよ、和哉。大丈夫、俺の目から見ても勝算はあるよ

「そう言ってくれて、ありがとう。色々と相談に乗ってくれてありがとうな」

 

 結梨との関係を進められたのは、学がいたからである。だから、今一度彼にお礼を伝えた。

 

「もし、野上さんと付き合えたら、また一緒に遊びに行こう」

 

 そう言って、学は爽やかに笑った。

 

 

***

 

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎて、日は傾き始めた。そろそろ帰る時間が訪れる。

 

「次に乗るのが最後のアトラクションだね。どれにする?」

「それなら、もちろんあれだよ!」

 

 西村が勢いよく指を差したのは観覧車である。前回結梨と来た時に乗ったものだ。

 

「良いわね。4人で一緒に乗りましょう」

「それもいいけどさ、せっかくだからね」

 

 結梨の言葉に西村は悪戯っぽく笑う。西村、そして、学から妙に視線を感じる。

 ……、これはまあ、そういうことだろう。友達思いの彼らのことを改めて有り難く感じた。

 

「2人一組で分かれて乗ろうよ!」

 

 西村の明るい声が耳の奥底まで届いた。

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