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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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66 俺達は姉弟です

「結梨がまだ小さい時の話だ」

 

 慎也さんが静かに語り始めた。リビングにいる俺も結梨も知里さんですらも彼の話に耳を傾けていた。

 

「結梨は子供の時から何でも出来る子でね、勉強も運動も友達と仲良くすることも家のことも何でもだ。私達にとって、自慢の娘だよ」

 

 そう言った慎也さんは表情は柔らかく笑っているように見える。けれど、次の瞬間、その顔は引き締まってしまう。

 

「そんな娘を私と知里は何度も褒めた。親バカもいいところかもしれないが、それぐらい結梨はよく出来た子だ」

「そんな時、ある出来事があったわ」

 

 慎也さんに続いて、今度は知里さんが話し始めた。両親が話す姿を結梨は腕を組んで眺めていた。

 

「頑張り過ぎた結梨が体調を崩してしまったのよ。ただの風邪にしては高熱で長引いていたから、保育園を何日も休んだわ」

 

 当時のことを思い出したのか知里さんは目を伏せていた。隣にいる慎也さんも悔やみきれない表情を浮かべていた。。

 子供が何日もずっと体調を崩している。親の気持ちからすると、不安で一杯だったのだろう。

 

「それでも、結梨は起きあがろうとした。保育園に行こうとしたし、机に向かおうとし、家事を手伝おうともした」

「……そんなことは覚えていないわ」

 

 慎也さんの話に対して結梨は静かにそう告げた。

 

「結梨が子供の頃の話よ。覚えてないのも無理はないわ」

 

 そんな娘の言葉を知里さんは優しく諭した。

 

「私も慎也も止めようとしたわ。けれど、結梨は聞かなかった。何回も休んでとお願いした私達に対して結梨はこう言ったわ。『頑張ればお父さんとお母さんに褒めてもらえるから』と」

 

 知里さんの言葉に結梨は愕然とした顔を浮かべていた。結梨の頑固なところは昔からのようだ。

 そう考えた時、前に静香さんから聞いた結梨の子供の頃の話を思い出した。

 

「その後、なんとか結梨は元気を取り戻したわ。それを安堵した気持ちもあったけど、同時に固く決意したわ」

「それはどんなことなの?」

「娘のことを過度に褒めないようにしようということだ」

 

 結梨の投げかけた疑問を慎也さんが答えた。

 

「そうすれば結梨も頑張り過ぎないで済む。元気に過ごしてくれるとばかり思っていた」

「私達は怖かったのよ。また結梨が倒れてしまうかもしれない。無理を押してでも動こうとするかもしれないと考えてしまったの」

「その結果、ああいう態度になってしまったということね?」

 

 慎也さんと知里さんに対して、結梨はそう言い放った。彼女はまだ腕を組んだままだった。

 

「その通りよ。結梨のためを思ってそう決めたのに、貴女を苦しめていたことになっていたのね。本当にごめんなさい」

「言い訳はしない。すまなかった」

 

 結梨の両親は揃って頭を下げた。そんな2人に対して、結梨は一体何を言うのか。何を告げるというのか。

 隣にいる彼女は黙って両親を見ていた。その顔から何かを読み取るのは難しかった。

 

「結梨」

 

 俺は結梨の手を取った。何故そうしたのか自分でも分からなかった。それでも、彼女の手を握った。

 

「和哉君」

「その、大丈夫か?」

 

 俺の問いかけに結梨は一瞬だけ目を見開いた。やがて、俺に向かって優しく微笑んだ。

 

「ええ、大丈夫よ。安心してちょうだい」

 

 そう言った後、結梨は頭を下げている両親に向き合った。未だ俺と手は繋いだままだった。

 

「2人とも顔を上げてちょうだい」

  

 結梨の言葉に反応して、慎也さんと知里さんは顔を上げた。結梨の両親は重苦しい顔を浮かべていた。

 

「お父さんとお母さんから褒められなくなって、私は悩んだこともあったわ。期待に応えなくちゃと苦しんだこともあった。そうなったのは、2人に原因はあると思うわ。でもね」

 

 結梨は一旦言葉を区切った。そして、俺の手を握る力が強くなった。

 

「私にも原因はあるわ。ウジウジと1人で悩まず、もっと早くお父さん達に話すべきだったとも思っているわ。だから、私からもごめんなさい。向き合うことから逃げてごめんなさい」

 

 そう言って、結梨は頭を下げた。

 

「結梨……」

 

 慎也さんはそう呟いた。知里さんは口元を手で押さえていた。

 結梨は顔を上げる。顔を上げた彼女は笑っていた。俺といる時の、子供のように無邪気に笑っていた。

 

「もう頑張り過ぎないようにするから、これからはちゃんと褒めて欲しいわ」

「ああ、もちろんだ」

「ええ、そうするつもりよ」

 

 そう言って、野上家の3人は笑い合った。慎也さんと知里さんの笑顔は結梨のそれとよく似ていた。

 結梨の家のリビングは柔らかい笑い声が響き渡った。

 

 

***

 

 

「そういえば、どうして、今日になって、私達に話そうとしたんだ?」

「それは和哉君のお陰よ」

 

 慎也さんの問いかけに結梨は胸に手を当てて、誇らしそうにしていた。俺といる時の普段の彼女である。

 

「和哉君が私の背中を押してくれたのよ。お父さん達とちゃんと話をした方がいいってね」

「そうだったのね。ありがとう、和哉君」

 

 そう言って、知里さんは俺に優しい笑顔を向けてきた。

 

「いえ、俺はただ結梨の隣にいただけですよ」

 

 実際両親と向き合おうと決めたのは結梨だし、話をしたのも彼女だ。俺はただそれに立ち会っただけだ。

 

「しかし、君が結梨にそう言ったお陰で、私達家族はこうして話すことができたの間違いないだろう。ありがとう、和哉君」

 

 慎也さんからもお礼を言われてしまった。今まで大人2人から感謝を伝えられる機会がなく、少しだけ気恥ずかしい気持ちになった。

 いつの間にか結梨の両親から名前で呼ばれていることに気づいた。

 

「それで、その、差し支えなければ、だが」

 

 慎也さんがやけに咳払いをしながら、俺と結梨を交互に見てくる。隣にいる知里さんは何故か微笑ましいものを見たような顔をしていた。

 

「改めて聞くが、君はウチの結梨とどういう関係だろうか?」

 

 慎也さんからそう聞かれた瞬間、俺は隣へと顔を向けた。そして、結梨と目が合う。

 その途端、彼女は楽しそうな顔で頷いた。恐らくだが、結梨が考えていることは理解できた。

 こう答えるのは一見するとおかしいとは思うが、同時に結梨の顔を見ていると、こう答えるのが正解のような気がしてきた。

 俺は正面を向いて、結梨の両親と向き合った。そして、2人の顔を真っ直ぐに見つめる。

 

「俺達は姉弟です」

 

 そう言った時の慎也さんと知里さんの顔は一生忘れられないだろう。人は衝撃的な事実を告げられると、固まってしまうようだ。

 

 

***

 

 

「あはは! なるほど、そういうことか」

 

 衝撃から立ち直った結梨の両親に事の顛末を説明すると、慎也さんは声を上げて笑った。初めて会った時の冷たい印象とは全く違う。

 

「そういえば、半年前に静香ちゃんの結婚式に行ったわねえ」

 

 知里さんは頬に手を当てて、感慨深そうに呟いた。

 

「それで2人は姉弟となったわけだ。確かにそうだ。その通りだな」

「えっと、まあ、そうです」

 

 慎也さんの言葉に俺は苦笑いを浮かべる。

 

「そういえば、結梨は昔から弟が欲しがっていたわね。確か1回サンタさんにそんなお願いをしていた覚えがあるわ」

「お母さん!? 今はそんなことを思い出さなくてもいいわよ!」

 

 母親からの暴露に結梨は珍しく焦った顔を浮かべる。そのやり取りは仲の良い親子そのものだ。

 

「しかし、驚いたな。予想していたものと全く違うというか」

「何を予想していたんですか?」

 

 俺がそう尋ねると、再び慎也さんはビシッと固まった。何か不味いことを言ってしまったのだろうか。

 

「慎也、和哉君が聞いているわよ。答えないといけないわ」

「あ、ああ、分かった」

 

 慎也さんは深呼吸をすると、やけに真剣味に満ちた顔で俺を見つめた。

 

「てっきり、結梨と和哉君は恋人同士なのばかり思っていたんだ」

「ええ、私も同じことを考えていたわ」

 

 結梨の両親から爆弾発言を告げられた。

 

「え? いや、どうして」

 

 好きな子の両親から告げられたことをうまく咀嚼できなかった。


「どうして、そんなことを思ったのかしら?」

 

 慌てふためく俺とは対照的に、結梨は平然としていた。

 

「だって、自分の娘から大事な話があると聞かされたのに、その隣に男が座っているんだぞ。これはもう"そういうこと"だとばかり」

「私も今日は結婚の挨拶にでも来たと思っていたわ」

「え? 結婚!?」

 

 結梨の両親からとんでもない事実を告げられ、今日一番に驚いた。

 

「だって、そうじゃない」

 

 知里さんから温かい視線を向けられる。

 

「娘が将来の話だと聞かされたのよ。ただ付き合っているにしては和哉君と親しい感じだから、そう考えてしまったわ」

 

 慎也さんと知里さんから言われて、俺は改めて自分達の状況を客観視した。

 ……うん、確かに結梨の両親の言う通りかもしれない。とても誤解を招くシチュエーションだった。

 

「ええと、俺と結梨はお2人が考えているような関係ではないありません」

「和哉君の言う通りよ。恋人同士ならまだしも、結婚だなんて飛躍過ぎるわ」

 

 結梨は呆れて表情を浮かべていた。そんな彼女に対して、違和感を覚えた瞬間だった。

 

「本当に2人はただの姉弟なんだな?」

「ええ、そうよ」

 

 慎也さんからの念押しに結梨は自信満々に頷いた。娘の姿を見た彼は俺の方にも顔を向ける。

 ……俺も頷いておいた。この場で余計なことは言わなくても大丈夫だろう。

 

「誤解して済まなかった。娘のこととなるとどうしても気になってしまうものだ」

「あら、私達の時は今の結梨ぐらいの年齢じゃなかったかしら?」

「知里!? 子供の前でそんな話はしなくてもいいだろう!?」

 

 結梨の両親は目の前で文字通り夫婦漫才を繰り広げていた。そんな両親の姿に結梨は目を丸くしている。恐らく初めて見るのだろう。

 俺としては結梨の両親らしいとそう納得してしまったが。

 

「ねえ、和哉君」

 

 不意に結梨に呼びかけられた。俺は隣に顔を向ける。

 

「私と一緒にいてくれてありがとうね」

 

 そう言って、彼女は優しく微笑んだ。それは普段の俺の好きな笑顔だった。

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