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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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64 私と一緒にいて

 7月のある土曜日、家のリビングで俺はある人を待っていた。俺の心はいつになくドキドキしていた。

 いや、こんなことは前にあったな。結梨に俺の秘密を打ち明けた時だ。

 思い出に浸っていると、玄関のチャイムが鳴った。ソファから立ち上がり、玄関へと向かう。

 ドアを開けると、明るいベージュ色の髪の彼女がいた。

 

「和哉君、ただいま」

「おかえり、結梨姉さん」

 

 俺がそう言うと、結梨は嬉しそうに微笑んだ。俺の口からは自然と言葉が飛び出していた。

 

「今日は来てくれてありがとう」

「一体どんな用事かしら?」

 

 リビングに向かいながら、結梨と言葉を交わす。彼女がこう言っていることから分かるように、今日、結梨を家に呼んだのは俺だ。

 

「姉さんに見せたいものがあったんだ」

 

 そう言いながら、俺はリビングに続くドアを開けた。

 

「和哉君、これは?」

 

 結梨が驚く声が聞こえて、俺は後ろを振り返る。そこには目を丸くした彼女がいた。

 結梨の視線の先には大きめのリビングテーブルがあった。正確に言うと、そのテーブルの上に置いてある手芸道具だ。

 

「結梨姉さんと一緒に手芸をやってみたくて呼んだんだ」

 

 なるべく穏やかにそう告げた。

 

 

***

 

 

「これをこうして、ここに紐を通してだな」

「ここかしら?」

「そうそう。流石結梨姉さん。上手にできているよ」

「和哉君の教え方が上手なのよ」

 

 今、俺と結梨が作っているのは麻紐で作られたサマーバッグだ。軽くて使いやすく、夏の暑い時にはピッタリだろう。

 

「それしてもバッグまで自分で作れるなんて。手芸って奥が深いわね」

「そうだろう! 何を作っても楽しいし、上手く作れた時の喜びようと言ったら、あっ、わ、悪い」

 

 俺は手で口を押さえる。結梨が手芸の楽しさを理解してくれて、自分でも予想以上に嬉しかったようだ。

 そのせいでつい余計なことを口走ってしまった。結梨の反応を窺った。するとそこには。

 

「大丈夫よ、和哉君。私は気にしないわ」

 

 そこには、慈愛の表情を浮かべている結梨がいた。その顔を見ると、胸が高鳴っていくのを感じる。ますます結梨を好きになってしまう。

 

「それに、好きなものを話す和哉君は子供みたいで可愛かったわ」

「男に向かって可愛いなんて言うなよ」

 

 恥ずかしさのあまり俺は結梨から顔を逸らした。彼女は、弟を見守るお姉ちゃんの心境なのだろう。壁は中々高い。

 

「まあ、とにかく、ここまで作れたら、あともう少しだな」

「ええ、分かっているわ。弟の期待にはちゃんと応えないとね」

「やる気があるならいいけど」

 

 相変わらず俺は弟としてしか見られてないのだろうか。そんな考えが過ぎりつつも、俺と結梨は手芸を進めていった。

 

「できたわ。これで完成かしら?」

「ああ、そうだよ。初めてなのにすごいな」

 

 結梨が作ったサマーバッグを手に取る。ほつれたところはないし、裁縫も完璧だ。バッグとして十分使えるだろう。

 

「私はお姉ちゃんだから当然よ。と言いたいところだけど」

 

 胸を張った結梨は一旦言葉を区切った。そして、俺に向かって、優しい笑みを浮かべていた。

 

「和哉君と一緒に作ったからよ。それでこんなに上手に作ることができたわ。全部和哉君のお陰よ」

「……それはどういたしましてだ」

 

 好きな子からそこまで褒められて喜ばない男子がいるだろうか。いや、いないだろう。

 褒められた俺はかつてないほどの喜びが湧き上がってくるのを感じた。

 ここまで考えて、俺はある決意を固める。

 今日、結梨に家に来てもらったのは、一緒に手芸をやることだけではない。他にも目的があった。

 

「けど、こうして、結梨姉さんと手芸ができるのも全部姉さんのお陰だよ」

「どういうことかしら?」

 

 不思議そうな顔をする結梨に対して、俺は苦笑いを浮かべそうになってしまう。

 

「結梨姉さんだからこそ、俺は秘密を打ち明けることができた。そのお陰でこうして今は一緒に手芸を楽しめるようになった。本当にありがとう」

「和哉君……」

 

 俺から感謝を伝えられた結梨の目が揺れた。ようやくお礼を言うことができた。

 誰かに自分の好きなことを、言い換えれば、自分の一部を認められる。

 それがどれほど救われることなのかきっと当事者にしか分からない。けれど、それでも俺は結梨に伝えたいことがある。

 

「結梨姉さんがいてくれたから、俺は自分の好きなことに打ち込める。姉さん以外の人にも自分の趣味を伝えられるようになった。だから」

 

 俺は結梨の手を取った。彼女の手を包み込むように、握りしめる。そして、結梨と向かい合った。

 

「だから、結梨姉さんにもそうなって欲しい」

「和哉君……?」

 

 俺の言葉に結梨は戸惑っているようだった。俺に何を言われたのか分からないのだろう。

 もしかしたら、これから言うことは彼女が望んでいるものではないかもしれない。拒否されるかもしれない。

 それでも、俺は目の前にいる姉に、好きな子に伝えたかった。

 

「姉さんの将来の夢を両親に伝えよう」

 

 そう決定的な一言を告げた。

 

 

***

 

 

「私の将来の夢を?」

「そうだ。姉さんの夢のためにも絶対にその方がいい」

 

 結梨の保育士になるという目標は両親の理解が必要だ。もちろん必須だとは言わない。けれど、何も話さないでいるよりも、話した方がいいのは間違いない。

 

「それは……、そんなことはできないわ」

 

 けれど、結梨から返ってきたのは拒絶だった。彼女は俺の手を離して、自分の腕を抱え込んだ。

 

「そんなことを、お父さんとお母さんの期待を裏切るようなことはできないわ」

 

 結梨の態度が弱々しいものへと変わっていく。まるで今ここに彼女の両親がいるようだ。

 

「どうして、そんなことを思うんだ?」

 

 思わず問いかけてしまった瞬間、しまったと思った。いくら俺と結梨が姉弟とは言っても、それぞれの親からしたら、他人だ。人様の家庭に首を突っ込むのは良くないだろう。

 

「両親は私に完璧を求めるからよ」

「完璧か」

「ええ、そうよ。昔から私は頑張ってきた。お父さん達に喜んで欲しくて、勉強も学校生活も家事も頑張ってきたわ」

 

 そう言い切った後、結梨は力なく笑う。それは見ているこちらが胸を締め付けられる笑顔だった。

 

「けれど、2人は褒めてくれなかった。ただ一言『そうか』と何でもないように言うだけだったわ」

 

 結梨の言葉を聞いて、ある光景が頭の中に浮かぶ。彼女の両親が感情の分からない顔で結梨に声をかけるものだった。

 

「それでも私は頑張ったわ。2人に褒めて欲しくて、何事も妥協せず、嫌がらず、両親の"期待"に応えたのよ」

 

 学校での彼女は大人びていて、落ち着いていて、みんなから頼られていて、成績優秀で、男女問わず人気があった。そんな結梨の姿は家庭環境によって作られたものかもしれない。

 

「私が2人の"期待"を裏切りたくないわ。そんなことをしたら、両親に見捨てられるかもしれないから」

 

 ポツリと結梨は呟いた。いつも頼りになる彼女はどこにもいなかった。親に嫌われることを恐れるただの子供だった。

 

「だから、ごめんなさい、和哉君」

 

 そう言って、結梨は微笑んだ。それは今まで見たことがない笑顔だった。結梨が何かを手放す。そう感じてしまう。

 

「私は」

「結梨!」

 

 気づけば、俺は彼女を抱きしめていた。俺の腕の中に彼女はいた。

 

「か、和哉君?」

 

 呆気に取られる結梨の声が耳に届く。自分でも何故こんなことをしたのか分からない。けれど、頭ではなく、心で考えた結果だった。

 

「俺がいるよ」

「え?」

「俺が一緒にいる。結梨が怖いんだったら、俺がそばにいる。隣にいるよ」

 

 ゆっくりと言葉を紡ぐ。結梨に、大切な姉に、好きな子に伝わるように口にする。

 俺は結梨と向き合う。目の前にいる彼女は心配そうな顔を浮かべていた。

 

「和哉君がそこまでしなくても……」

「俺がしたいことなんだ。結梨には笑顔でいて欲しい。いつものように明るく無邪気に笑っていて欲しい」


 そう言って、精一杯笑って見せた。いつかの時、結梨がそうしてくれたように。その時もらった力が俺を元気づけたように、今度は俺が彼女を勇気づける番だ。

 

「私は……」

「結梨の気持ちを聞かせてくれないか。言いたいことや話したいことがあるはずだ」

 

 俺が自分の好きなことを受けて入れて欲しかったように、結梨にだって、心の底で願っていることがあるはずだ。

 結梨は俺を見つめていた。その瞳は揺れている。何かを迷っているようだ。彼女の中で感情が争っているに違いない。

 やがて、結梨は一瞬だけ目を閉じた。そして、すぐに目を開く。そこには力強さと輝きを取り戻した瞳があった。

 

「私は保育士になりたい。それを両親に認めて欲しい。だから、和哉君」

 

 結梨は俺の手を取り、握りしめる。いつになく強い力で握りしめた。

 

「私と一緒にいて。私が両親に伝えられるよう、貴方にいて欲しいの」

 

 そう言った結梨は普段の、俺といる時のそれだった。自信満々で、面倒見が良くて、楽しそうにしている俺の好きな彼女だった。

 

「ああ、分かった」

 

 俺の言葉に結梨は優しく微笑んだ。

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