63 俺は決めたよ
結梨のために何ができるのか。英作さんと静香さんに家へ訪れた後、何度も考えた。けれど、中々これというものが見つからない。
それだったら、俺が取る方法は1つだ。
「学、ちょっといいか?」
放課後、家に帰ろうとする学を呼び止める。
「どうした?」
「今日って、部活は休みだよな?」
「そうだよ。だから、このまま帰ろうとしていたところだ」
学の言葉に俺は胸を撫で下ろした。いくら友達思いの彼でも何度も部活を休むのは良くないはずだ。だから、部活を休む必要がなくて、安心した。
といっても、これから学には迷惑をかけるのだが。
「相談したいことがあるんだけど、この後、大丈夫か? 」
「ああ、いいさ」
俺の問いかけに学は食い気味に答えた。いつもの爽やかな笑顔が頼もしく見える。
「ありがとうな」
「だから、まだ何もしていないよ」
「あとはもう1つあるんだが」
「ん? そうなのか?」
学は首を傾げていた。俺は深呼吸をする。そうすると、心が落ち着いた。
「西村にも来てほしい」
俺の発した言葉に学は目を丸くした。
***
「いやー、まさか菅田が私に相談する日が来るなんてね」
俺とテーブルを挟んで対面の席に座る西村が朗らかに笑う。
「俺も同じことを思っていたぞ」
「ちょっ、菅田が言うとマジみたいに聞こえるじゃん」
「まあまあ、沙優。落ち着いて」
西村の隣にいるのは学だ。今俺たちがいるのはショッピングモールにある喫茶店だ。
学と話した後、教室にやってきた西村も誘い、こうして、ここにやってきた。
「そういえばさ」
注文したものが一通り揃うと、学が口火を開いた。
「どうした?」
「沙優も聞いていいのか?」
遠慮がちに学が問いかける。彼はもう既に俺がどんな話をするのか分かっているのだろう。だからこそ、そんな疑問を俺に投げかけたのだ。
「大丈夫だ。西村にも聞いて欲しいと思っているからな」
「えっと、話が見えてこないんだけど」
西村は戸惑いの表情を浮かべていた。彼女からしたら、俺と学が何の話をしているのか分からない。だから、そこから説明する必要がある。
「沙優には言ってなかったけど、実はさ」
「俺が1人の女子として結梨のことが好きだっていうことだ」
学の言葉を引き継いで、俺ははっきりと口にした。こうして、学以外の人に話すのは初めてだ。けれど、後悔は微塵も感じない。
俺の言葉に西村は目を見開く。やがて彼女は目を細めた。
「そうだったんだね。いやー、それにしても、菅田が結梨をねえ」
「それ、学にも同じことを言われたな。やっぱり無謀か?」
改めて西村にも同じことを尋ねた。女子である西村からの意見も聞きたいと思っていたからだ。
「いや、私はそう思わないよ」
「え?」
「むしろ結梨と菅田は付き合っていたとばかり思っていたよ」
「はあ!?」
友達からのカミングアウトに俺は声を張り上げてしまった。学は苦笑いを浮かべ、衝撃的な告白をした西村は平然としている。
「沙優、そういうことは言わない約束だよ」
「あっ、ごめん。つい勢いで」
「いや、『ごめん』で済むかよ。どうして、そんなことを思ったんだ?」
俺の問いかけに学と西村は顔を見合わせる。そして、俺の方へ顔を向ける。2人とも不思議そうな顔をしていた。
「だって、あんなに結梨と仲が良い様を見つけられたら、誰だってそう思うよ」
「まあ、俺も沙優と同意見だ」
「そんなこと! ……あるか」
改めて結梨とのこれまでを振り返る。確かに俺と結梨の関係を知らない人からしたら、誤解されること間違いないだろう。
「周りからどう見られようが、結局は本人次第だろ?」
「野上さんは和哉に対して、世話焼きだからね」
「俺のことを弟としか見ていないだろうな」
俺と学の意見は一致した。姉としての姿を何度も見たことがある身からすれば、簡単に恋人同士だと言えないだろう。
「それでもだよ」
どこか納得している男子に対して、女子である西村の声が響く。
「それでも何とも思っていない男子と一緒にいるわけじゃないと思うよ。今は弟としか見てなくても、ずっとそうとは限らないから」
彼女の声には力強さがあった。それを聞いて、以前学から聞いた2人の馴れ初めのことを思い出した。
「確か菅田の話だと姉弟になろうって、言い出したのは結梨からなんだよね?」
「ああ、それは本当だ」
英作さん達の結婚式終わりのことだ。あの日の衝撃はずっと忘れないだろう。
「私だったら、気が合わない男子にそんなこと言わないよ。だから、結梨から見た菅田の印象は想像以上に良いと思う」
「俺には勝算があると?」
「まあ、菅田の頑張り次第だけどね」
西村は明るく笑って、そう言い放った。友達から背中を押され、俺の心は温かくなった。
「ありがとうな。そう言われると、勇気が湧いてくるよ」
西村からも背中を押されて、俺は改めて決意を固める。
「それで和哉の相談はどういうものかな?」
「そう言えば、それで呼ばれたんだったね」
学の一言でやっと本題に戻った。そうだ、ここからが本番なんだ。俺は深呼吸をする。
「悪いけど、前みたいに詳しい事情は話せないけど、いいか?」
「俺は全然大丈夫だ」
「学がいいなら、私も気にしないよ」
友達2人は快く引き受けてくれた。優しい友達を持って、俺は幸せだと改めて思った。
「詳しくは言えないけど、あいつは思い悩んでいる。俺はそれを何とかしたい」
俺に将来の夢を語った時の結梨の様子が頭から離れない。誰にも言えない秘密を抱えている辛さは俺自身よく分かっている。
その気持ちから結梨を解放してあげたい。
「和哉はどうしたいんだ?」
「結梨に笑って欲しい。結梨の背中を押してあげたいと思っていているよ」
「何か思いついたの?」
西村は静かに問いかける。普段明るい彼女にしては、真剣な表情だった。俺は西村の顔を真っ直ぐに見つめた。
「ああ、考えていることがある」
「それはどういったものなんだ?」
学からの問いに俺は躊躇した。今から言うことが2人に受け入れられるか不安に思えた。
きっと結梨と姉弟になる前の俺だったら、絶対に話すことはなかっただろう。
けれど、今は違う。俺にはもう怖がる理由はない。
「俺は手芸をするのが趣味なんだ」
「え?」
「へ?」
突然の俺からのカミングアウトに学と西村は呆気に取られた表情を浮かべた。2人仲良く同じような顔をしている姿に苦笑いを浮かべる。
「えっと、手芸って言うのは、あの、糸とか布とかで色々作ったりすること?」
「ああ、そうだ。ほら、これが最近作ったやつだ」
俺はスマホを起動して、結梨へ贈ったサマーハットの写真を学と西村に見せる。
「えっ、凄い! 本当に菅田が作ったの?」
「そうだぞ。結梨に聞いてみるといいぞ」
「あっ、もしかして、この前、和哉が言ってた『秘密』って……」
「ああ、このことだよ」
俺が頷くと、学は合点がいったという顔をした。
「へえー、菅田はこういうものを作るのが好きなんだね」
俺の作品の写真を一通り眺めていた西村が感心したように呟いた。
「イメージと違うか?」
友達にそう問いつつも、内心は緊張でドキドキしていた。いつかのあの一言を言われるんじゃないかと心配していたからだ。
「全然良いと思うよ。ほら、ギャップがあって、キュンとくる女子がいるんじゃないかな」
「俺も沙優と同意見だ。というか、むしろ凄いと思う」
「そうか……」
友達からの言葉を聞いて、俺は自分の心が落ち着くのが分かった。悪い想像通りにならなくて、ホッとした気持ちと自分の好きなことが人に受け入れられて、嬉しい気持ちの半々だ。
「あっ」
「どうかした?」
その時、気づいた。俺のやりたいこと。結梨を笑顔にする道筋が。
結梨の将来の夢を叶えるためには、結梨の両親に話すことが不可欠だ。けれど、今の結梨にはそれができない。
それなら、俺がそうできるように手助けしたい。
「学、西村、ありがとう。俺は決めたよ」
俺の言葉に学と西村は優しく微笑んだ。




