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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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58/60

58 頑張ったらお姉ちゃんからご褒美をあげるわ

 6月も終盤に入り、再び俺たちの元に"アレ"がやってくる。学生にとっては避けられないイベントだ。

 

「もうテストやだ〜!」

 

 そう言って、西村はテーブルに突っ伏した。正確には、テーブルの上で広げている教科書の上にだ。

 

「頑張りましょう、沙優。もう少しよ」

「だって、結梨。解いても解いても問題が終わらないんだもん」

 

 結梨の慰めに対して顔を上げて、返事をする西村。結梨だからこそ、この反応だ。俺が言ったところで、西村は聞き入れもしないだろう。

 

「沙優が限界みたいだし、そろそろ休憩にするべきじゃないか?」

「確かに西村"も"限界みたいだな」

 

 俺は隣にいる学を見ながら、そう告げた。彼は笑顔を浮かべているが、どことなく元気がない。どう見ても勉強のやり過ぎだろう。

 友達の惨状を眺めながら、どうするべきかと思案する。休憩に入るかどうか俺の一存で決めるわけにはいかない。

 

「なあ、結梨姉さん、どうする?」

 

 俺はテーブルを挟んで向こう側にいる姉に問いかけた。結梨は顎に手を当てて考え込んでいた。

 

「そうね。もう昼時だし、昼ご飯も兼ねて休憩にしましょう」

「やったー! ありがとう、結梨!」

 

 結梨の言葉を聞いて、一転西村は元気を取り戻した。枯れかけの花が再び開花したようである。

 

「よし! じゃあ、片付けないとね」

 

 思わずガッツポーズをした学が手際よくテーブルの上にあった教科書やノート、問題集を片付けていく。恐ろしく早い手捌きである。

 

「それじゃあ、私も沙優で昼ご飯を作ってくるわ。和哉君、台所を借りるわね」

「ああ、親にも言ってあるから、好きに使ってくれ」

「美味しいご飯を作ってくるから、待っててね」

「沙優のご飯だったらいつまでも待てるさ」

 

 そんなやり取りを交わした後、結梨と西村は部屋を出て、1階へ降りていった。

 そうすると、部屋には俺と学の2人きりになった。

 

「それにしても和哉の家、というか、部屋で勉強するなんて思わなかったよ。大丈夫だった?」

「仕方ないだろ。結梨の家ばかり使わせてもらうのもあれだし」

 

 俺がそう返事をすると、学は苦笑いを浮かべる。

 

「その反応はなんだよ?」

「いや、相変わらずお姉さん思いだなと思ってね。それとも、好きな女子だから、格好つけたかったとか?」

「うるさい、揶揄うな」

 

 図星を突かれた俺は友達から顔を背ける。

 土曜日の今日、俺の部屋に集まって、勉強会を開いていた。目的はもちろん近いうちやってくる期末テストに向けてだ。

 


***

 

 

「その後、調子はどうだい?」

「何のだよ?」

 

 学は漫画を読みながら、問いかけ、俺はスマホをいじりながら、聞き返す。

 

「勉強のことじゃないよ。ほら、この前相談を受けた件だ」

「あれか……」

 

 学にはそのことに関して相談した覚えがある。だから、彼は部外者とは言えないだろう。むしろ途中経過を報告するべきだと言える。

 

「プラネタリウムとかおすすめしてくれた喫茶店に行ってみたぞ」

「どうだった?」

「うーん、そりゃ楽しかったよ。けど、男として意識されるようになったかと聞かれると微妙だ」

「そうか……」

 

 学は漫画から顔を上げて、何やら考え込んでいるようだ。

 

「手を繋いでみた?」

「繋いだぞ。これといって、いつも通りの反応だったけど」

「なるほど」

 

 学はやれやれと言いたげな顔をしていた。

 

「これは少々難しいみたいだね」

「まあ、男女として進展してはいないな」

 

 出かけた時の結梨の様子を頭に思い浮かべる。彼女は相変わらずの姉モードであった。俺のことを完全に弟としてしか見ていないのだろう。

 その距離感のお陰でこうして距離を縮めることができたが、反対に、今はそれによって中々男女の仲にならない。

 人生というものはトントン拍子で上手くいくというわけにはいかないようだ。

 

「話だけ聞いていると、学校中の男子から羨ましがられると思うよ」

「それはまあそうだな。実体はただの姉弟のお出かけなんだけどな」

「それも聞く人が聞けば羨ましがられると思うよ」 

「そんな特殊な奴らのことなんてどうでもいいわ」

 

 2人して頭を捻っても良いアイデアは思い浮かばない。不意に学が漫画をパタンと閉じる。

 

「和哉、1つ提案がある」

「何だ?」


 俺が問いかけると、学は爽やかに笑った。

 


***

 

 

 昼ご飯を食べ終えた後も、勉強会は続く。休憩を挟んだお陰か学も西村も勉強に励んでいた。いたが。

 

「もう無理だよ〜」

 

 西村は午前中と同じように再びテーブルに突っ伏した。午前中の時と違う点は声に力がないところだ。

 

「沙優、もう少しだけやってみる?」

「うーん、これ以上頭が働かないよ」

 

 結梨が声を掛けても西村は顔を上げない。いや、結梨だからこそ西村をここまで勉強に釘付けだったのだろう。俺が教えていたら、もっと早い段階で音を上げていたことだろう。

 

「野上さん、悪いんだけどさ」

「田口君、何かしら?」

「実は俺も沙優もこの後用事があるんだ。教えてもらって悪いけど、そろそろ出ないといけない」

 

 学は爽やかに微笑んでそう言った。平然と告げるその様は中々の策士っぷりである。

 

「そうだったのね。勉強は思ったよりも進んでいたから、今日はここまでにしましょう」

「え? 学、そんな予定なんてあったっけ?」

 

 結梨の言葉にようやく顔を上げた西村は首を傾げていた。

 

「ほら、沙優、あれだよ、あれ」

 

 学は俺と結梨をチラチラ目配せをした。西村はそんな彼と俺たちの様子を窺った。やがて何か閃いた顔に変わった。

 

「そういえば、そうだったね! ありがとう、学。すっかり忘れていたよ!」

「思い出してくれたようで何よりだよ」

 

 学と西村は2人だけの世界に入ってしまった。少々鬱陶しいが、これからのことを考えると、2人に文句は言えない。

 

「2人が帰るなら、私も帰ろうかしら?」

 

 そう言って、結梨が立ち上がりな時だった。

 

「結梨はまだ帰らなくても良いんじゃない? 私たちみたいに予定があれば話は別だけど。ないなら、もう少し菅田の勉強を見てあげなよ」

「え? 和哉君の?」

 

 目を丸くした結梨がゆっくりとこちらに顔を向けた。

 

「西村の言う通りだ。俺はまだ勉強を続けるんだから、できれば残って欲しいぞ。頼むよ、結梨姉さん」

「ええ、もちろんよ! だって、私はお姉ちゃんだから!」

 

 我が姉は西村ばりにテンションが高くなってしまった。

 

「それじゃあ、お2人さん。あとはごゆっくり。あ、あと、2人とも勉強を教えてくれてありがとう」

「俺からも今日は誘ってくれて、本当にありがとう。お陰でテストはなんとかなりそうだ」

 

 友達2人は俺と結梨を交互に視線を向けた。いや、気のせいかもしれないが、俺の方を向いているように見える。

 

「2人とも"頑張ってね"」

「特に和哉、"頑張れよ"」

 

 意味深な笑顔を浮かべながら、バカップルたちは俺の部屋から出て行った。

 そうすると、部屋は俺と結梨の1人だけになる。学の作戦が上手くハマった形だ。彼は俺と結梨の距離が縮まるよう、2人きりにしてくれた。

 

「とりあえず、私たちだけでも続けましょうか」

「ああ、分かった」

 

 結梨には悟られないよう平然を装っているが、内心心臓はドキドキしている。

 今、好きな子と部屋で2人きりだ。とても緊張し、とても嬉しくなるシチュエーションである。

 

「和哉君は何か分からないところはあるかしら?」

「それだったら、数学のこの問題なんだけど」

「どれかしら?」

 

 俺が結梨に問題集を渡す前に、彼女は体を動かした。その結果、俺のすぐ隣の位置に移った。

 結梨は俺の手から問題集を取った。

 

「これは応用問題ね。この前の問題から答えを導くの」

 

 結梨は髪を耳の上にかきあげた。それはまるで絵画のように見えた。

 

「和哉君、大丈夫?」

「あ、ああ、大丈夫だ」

 

 心配そうな顔で覗き込む結梨に対して俺はなんとか返事を返した。あのまま結梨に声をかけられなかったら、いつまでも眺めていたところだ。

 

「貴方も疲れているのかしら?」

「え?」

「ほら、沙優や田口君もそんな感じだったから」

 

 どうやら結梨も学達が疲れていたことを察していたようだ。今日の勉強会を仕切っている彼女からしたら、気になってしまうのだろう。

 そんな結梨の顔を見ると、何か言いたくなってしまう。

 

「まあ、今日は暑いからな。どうしても気が散ってしまうんだよ」

「確かに最近暑くなってきたわね」

 

 結梨は納得したような声を出した。

 

「いよいよ夏本番って感じだな。けど、俺はまだまだ平気だぞ。じっとしているのは手芸で慣れているからな」

 

 結梨を安心させるように戯けてみせた。実際は強がりでも何でもないし、むしろ結梨と2人で勉強できて、嬉しいぐらいだ。

 

「なるほどね。それなら大丈夫そうね」

 

 俺の言葉に結梨は柔らかく微笑む。その笑顔を見て、俺もまた心が落ち着く。

 すると突然結梨が両手をポンと打ち鳴らした。

 

「それじゃあ、勉強を頑張ったら、お姉ちゃんからご褒美をあげましょう」

「え? ご褒美?」

「そうよ。暑い中頑張っている弟を褒めてあげないとお姉ちゃんが廃るわ」

「それぐらいで廃らないと思うが」

 

 口ではそう言いつつも、内心どんなご褒美なのかめちゃくちゃ気になっていた。

 今まで、テストは親に怒られない程度の成績が取れればいいと思っていた。

 けれど、今回は初めて積極的に良い点を取りたいと思い始めた。かつてないほど体中の力がみなぎっているのを感じる。

 

「分かった。良い点取れるように頑張ってみるよ」

「ええ、その意気よ」

 

 そう言って、結梨は楽しそうに笑った。

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