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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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53/60

53 これが俺の気持ちだ

 放課後、俺は真っ直ぐ家に帰らないで寄り道をしていた。今いるのは通学路の途中にあるファミレスだ。窓際にあるボックス席に腰掛けている。

 ご飯を食べに来ているわけではない。俺には明確な目的があった。

 

「和哉はドリンクバーでいい?」

 

 俺とは対面の席に座る学から声をかけられる。彼はメニューを手に持っていた。

 

「腹減っているなら、ポテトでも頼む?」

「いや、俺は大丈夫だ」

「そっか。それなら、俺もドリンクバーだけにしようかな」

 

 学はメニューをテーブルの端に置くと、店員さんを呼んで、注文をした。

 俺と学は席に立ち、飲み物を取ってくる。俺はコーヒーを、学はオレンジジュースを持ってきて、席に戻る。

 

「来てくれてありがとうな」

 

 学は本来部活に行くはずだった。けれど、俺が誘ったため、部活を休んだ。部活動に熱心な彼にしては珍しいことだ。

 

「別に1日ぐらい休んだって問題ないよ。前にも言ったけど、友達が困っているなら、放っておけないさ」

 

 学は気にするなと言いたげに手をヒラヒラさせた。俺は友達思いの彼に対して改めて有り難く思った。

 

「それでどんな相談なんだ? もしかして、この前のことの続きかな?」

「まあ、間接的にはそうだな」

「へえ」

 

 俺の返事に彼は口元を綻ばせる。笑ってはいるが、目は真っ直ぐに俺を見つめていた。

 

「前に相談した話なんだが、無事に俺の秘密を結梨に話せたよ」

「野上さんはどんな反応だった?」

 

 学は遠慮がちに問いかける。その様子から俺を慮っていることが分かる。

 

「俺の想像、いや、期待通りの反応だった。俺の秘密を受け入れてくれた」

「それは良かったね。野上さんを信じて正解だ」

 

 学は微笑ましい顔をしていた。彼は俺の秘密のことを何も知らないはずなのに、自分のことのように喜んでくれた。

 

「ああ、俺もそう思う」

 

 学に相槌を打ちながら、俺は拳をぎゅっと握りしめる。ここからが本番である。

 

「それで、話はそれだけじゃないよね? 和哉が言ってたのは報告じゃなくて、相談だったから」

「ああ、その通りだよ」

 

 俺は深呼吸をする。これから言うことは誰にも言ったことがない。正真正銘俺の秘密と言うべきだろう。それを大切な友達に聞いて欲しかった。

 俺は姿勢を正して、学を真っ直ぐに見つめる。喉をゴクリと鳴らす。

 

「秘密を打ち明けた時に気づいたんだけど、俺は結梨のことが好きみたい、いや、好きだ」

 

 はっきりと言葉にする。そうすると、思いの外自分の中でストンと落ちた。

 

「それはもちろん姉としてじゃなくて?」

「ああ、1人の女子としてだ」

 

 お腹に力を入れて、声に出す。それほど大きな声量ではないが、それでも胸に響くものがある。

 

「俺の隣にいて欲しい。俺に笑いかけて欲しい。もっと彼女と触れ合いたい。これが俺の気持ちだ」

 

 いつからこんな感情を抱いていたのか分からない。姉弟となった時なのか、それとも、その後から自然と気持ちが向くようになったのか。

 ただ1つはっきりしているのは今の俺は結梨に、同い年である姉に想いを寄せているということだ。

 

「そうか。そうだったんだね」

 

 学はゆっくりと頷いた。俺の言葉を噛み締めているようだ。

 やがて目の前の友達は俺の顔を見つめた。

 

「まさか和哉の口からそんな話が出てくるなんて。初めてのことじゃないか?」

「言われてみれば、その通りだな」

 

 学とは高校生になってからの付き合いだが、俺の方からこういう類いの話をしたことがなかった。

 いつもは学と西村の話ばかり聞いていたからだ。

 

「つまり、俺に相談したいことは」

「ああ、結梨と付き合うにはどうしたらいいかってことだ」

 

 誰かに相談したいと考えた時、真っ先に浮かんだのが学だった。西村という彼女がいるのはもちろん、俺と結梨の複雑な関係性を知っているからだ。

 俺の言葉を聞いて、学はクッと小さく笑った。

 

「やっぱり無謀だったか?」

 

 周知の通り、結梨は学校中の男子から人気がある。俺自身、彼女が告白されている現場を目撃したことがある。

 普通に考えれば高嶺すぎる花だ。ライバルも多いだろう。

 学からすると、俺は登山家でもないのにエレベストに挑もうとしているように見えるかもしれない。


「違うよ。少し前のことを思い出したからね」

 

 けれど、俺の想像していた反応とは違うようだ。

 

「少し前のこと?」

「ほら、1年生の時、和哉が野上さんのことを見ていたなって、俺が言ったことがあったよね?」

「ああ、そんなことがあったな」

 

 あれは結梨と姉弟になったばかりのことだ。結婚式場での彼女が学校での姿とあまりにも違っていたため、つい結梨を目で追ってしまった。

 それを学に見られ、揶揄われた時のことだ。なんだが遠い昔のように思える。

 

「あの時、俺は冗談で和哉が野上さんのことを狙っているって言ってた。けれど、今度は本気なんだな?」

「もちろんそのつもりだ」

 

 あの頃とは違い、俺は学の言葉を首肯した。必死になって否定したあの時とは対照的だ。

 

「はっきり言ったね、和哉」

「やっぱり無謀か?」

 

 改めて問いかけると、学は首を横に振った。

 

「あの時は無謀だと思ったけど」

「おい」

「まあまあ。けれど、今の和哉だったら、十分可能性はあるよ」

「本当か?」

 

 友達から太鼓判を押され、俺の心は弾んだ。


「だって、考えてもみてよ。野上さんと何度も一緒に出かけたり、果てはお互いの家に行ったりする男子なんて和哉以外いないだろ」 

 

 学の言う通りだ。結梨にそんなに距離が近い男子がいるなんて聞いたことがない。

 つまり、俺は他の男子よりも一歩リードしていることになる。そう喜んだのも束の間だった。俺には気がかりなことがあった。

 

「……けれど、それは弟だからじゃないか?」

 

 結梨は俺に対して姉として接してくる。それは男女の距離感から考えると、ズレているように思える。

 あの姉に1番振り回されている俺が言うのだから、間違いないだろう。

 俺の言葉に学は「あー」と納得したような声を上げた。彼も姉モードの結梨を目撃したことがあるから、思い当たる節がありまくるのだろう。

 学は咳払いをすると、改めて俺に向き合った。

 

「確かにそうかもしれない。けれど、これからどうなるか和哉次第だと思うよ」

「俺次第か……」

「野上さんを意識させたいと行動すれば、彼女も和哉のことを弟じゃなくて、男として見てくれるかもしれない」

「確かにそうだな」


 学の力強い言葉に俺は頷く。意識していないのなら、これから意識してもらえるようにすればいい。友達の言葉に俺の気持ちは明るくなっていく。

 

「けれど、そんな簡単に上手くいくか?」

「俺だって、沙優とはそうだったよ」

「え?」

 

 友達の突然のカミングアウトに俺は呆然となる。俺の顔を見た学は「ああ、違うよ」と否定する。

 

「俺と沙優は最初ただの友達だったんだ。中学の時、共通の友達を通じて知り合ったのが始まりさ」


 学の口から西村との思い出を語り始めた。俺と2人が出会った時には既に付き合っていた。だから、学と西村が付き合う前の話を聞くのは初めてだ。

 

「俺も沙優と過ごす内にもっと彼女と仲良くなりたいと思えてきた。けれど、当時沙優は俺のことを男友達としか認識していなかった。本人に聞いたから間違いないよ」

「それで、どうやって付き合ったんだ?」

 

 朗らかに笑う学に対して、俺は真剣に問いかけた。今後の参考になるかもしれないと思ったからだ。

 

「色々なことをしたよ。沙優とお互いについて話をしたり、2人きりで遊びに出かけたりしたね。いやあ、あの頃は本当に付き合えるか分からなかったから、ドキドキしたね。他にも」

「……それで最終的には告白したのか?」

 

 惚気話になる気配を察知した俺は先を促した。このまま学の好きに話をさせれば、夜が更けてしまうだろう。

 

「そうだよ。俺が沙優に告白して、無事にOKをもらえたんだ。あの時の沙優は可愛かったなあ」

 

 満面の笑みを浮かべた学はそう締め括った。幸せを絵に描いたような表情を浮かべていた。けれど、次の瞬間、引き締めた顔を俺に向けた。

 

「つまり、俺が何を言いたいかというと、関係を変えたいなら、行動するしかないってことだよ」

「確かにその通りだな」

 

 学の言葉が俺の全身に染み渡る。彼が言っていることは、俺と結梨との関係にも当てはまる。

 きっかけは結梨の一言だったが、それで俺たちは姉弟となった。

 その結果、結梨は俺に対して姉として接するようになった。これまでただのクラスメイトではなく、弟として扱っていた。

 そんな彼女の行動によって、俺は結梨のことを深く知ることができた。そして、今、俺は結梨に対して1人の女子として想いを寄せている。

 

「俺、頑張ってみるよ」

 

 それならば、今度は俺の番だ。結梨に弟ではなく、男子として意識してもらう。そして、彼女に告白する。

 俺のやりたいことは今はっきりとした。目の前の道が開けた気がする。

 

「おう、頑張れ。俺も力を貸すよ」

 

 学からのエールに俺は拳をぎゅっと握りしめた。

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