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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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52 私たちはどこからどう見ても姉弟よ

 俺は電車から駅に降り立った。この駅は学校の最寄り駅で、目の前には変わり映えのない光景だ。

 けれど、今日だけは全く違う点が1つだけあった。

 

「時間は大丈夫そうだな」

 

 スマホを起動して、時間を確認する。画面に表示されたのは普段よりも早い時間帯だ。そのせいか周囲にいる人たちも学生より社会人の方が多いように感じる。

 

「行くか」

 

 俺は待ち合わせ場所へと向かった。早起きしたというのに、眠気は微塵も感じなかった。むしろ全身が活力に溢れていて、心が弾んでいる。

 駅の出入り口近くまで来ると、壁際に見覚えのある明るいベージュ色の髪が見えた。俺は彼女へと近づく。

 

「結梨姉さん、おはよう」

 

 俺が声をかけると、彼女はこちらを振り返った。

 

「和哉君、おはよう。ちゃんと起きられたようで良かったわ」

 

 そう言って、結梨はホッとしたような顔を浮かべていた。

 

「家に出る前に連絡しただろ」


 今朝は母さんに起こされるよりも前に結梨に起こされた。さらに、念のため家から出る時、姉に連絡をしておいた。

 

「それでも貴方が電車で寝過ごしてしまうかもしれないって、お姉ちゃんは心配だったわ」

「そこまで寝坊助じゃないからな」

 

 心配性な姉に対してツッコミを入れる。結梨はこう言っているが、電車の中では早く駅に着いてくれと願っていたぐらいだ。

 

「人が多くなる前に行くか」

「ええ、そうしましょう」

 

 俺と結梨は学校へ向かうべく歩き出した。朝方の気持ちいい風が俺たちを通り過ぎていった。

 


***

 

 

「それしても朝早く登校することになってしまって、悪かったな」

 

 この時間に登校しようと決めたのは俺だ。もちろん早起きが得意ではない俺がそう決めたのはきちんとした理由がある。

 

「構わないわ。他の人たちに見られたくないという和哉君の気持ちはよく分かるから」

 

 登校は下校よりもリスクがある。時間や方向がバラバラな下校とは違い、時間や方向が一定の登校は学校の人たちが集まりやすいからだ。

 その問題を解決するため、俺が考えたのが人があまりいない時間帯に登校することだ。

 これなら部活の朝練以外朝早く登校する人はいないため、人目につきにくい。

 まあ、俺の事情に巻き込んでしまった結梨には申し訳ないと感じているが。

 

「それに早起きは悪いことばかりじゃないわ」

「というと?」

「だって、こうやって、和哉君と一緒に登校できたもの」

 

 結梨は後ろに手を組んで、俺に向かって微笑んだ。その姿はまるで遠足中の子供のようだった。

 

「弟と一緒に登校するという私の長年の夢が叶ったわ」

「それは良かったな」

「ええ、和哉君のお陰よ」

 

 そう言った結梨の表情はいつにも増して嬉しそうだった。もしかしたら、俺から誘われたということも嬉しさが増している要因なのかもしれない。

 

「これで沙優に報告できるわ」

「ありのままを話す必要はないからな」

 

 結梨は定期的に俺とあった出来事について、西村に話をしているという。本人曰く姉弟らしくできているかどうかを確認してもらうためらしい。

 

「沙優にはちゃんと口止めしてあるから安心してちょうだい」

「いや、西村に話をしているだけで心配なんだが」

 

 西村自身がわざと俺と結梨の関係を誰かにバラすとは考えていないが、それでもついうっかりという場合もある。

 ……ここ最近の俺が言えたことではないかもしれないが。

 

「沙優もお姉ちゃんなのだから大丈夫よ。お姉ちゃん達を信じてちょうだい」

「そこが信頼するポイントになるのか」

 

 どうやら結梨にとっては姉というだけである程度の信頼が生まれるらしい。改めて彼女の姉という存在に対するこだわりを思い知った。

 

「けれど、和哉君のお姉ちゃんは私だけだから、勘違いしてはダメよ。沙優は樹君のお姉ちゃんだからね」

「そんなことは微塵も考えたことはないぞ」

 

 姉からの意味不明な忠告に俺は戸惑いを覚える。俺の言葉に結梨は安心したような笑みを浮かべた。何を安心しているのか分からないが。

 そんな話をしているうちに、徐々に学校へと近づいていく。俺は周囲を注意深く見回した。

 

「和哉君、どうかした? 何か探しているのかしら?」

「ほら、もうすぐ学校だろ? 周りに誰かいないか確認しようとな」

 

 幸い時間帯が時間帯なため、俺たちの周囲に人はいない。学校の人たちはおろか誰もいない。俺と結梨の2人きりだけである。

 

「そんな心配しなくても大丈夫よ。いざとなれば、お姉ちゃんが和哉君を守るから」

「守るってどう守るんだよ?」

「そこはお姉ちゃんパワーでなんとかするわ」

「あやふやじゃないか!?」

「冗談よ。けれど、今、人はいないから、大丈夫よ」

 

 そう言って、結梨は俺の肩にポンと手を置いた。彼女に触れられて、俺の心臓は跳ね上がる。

 

「ま、まあ、そうだけど、学校外の人たちにも見つかるかもしれないだろ。ほら、何か変に邪推されてもあれだし」

「それなら別にいいじゃない」

「え?」

 

 俺が疑問符を浮かべていると、結梨は胸に手を当てて、誇らしそうにしていた。

 

「大丈夫よ、和哉君。私たちはどこからどう見ても姉弟よ」

 

 そう言って、結梨は優しく微笑んでいた。その笑顔はとても輝いても見えたが、一方の俺の心がどこか穴が空いてしまったようだ。

 以前なら結梨から言われた言葉を気恥ずかしく思いつつも、明るい気持ちで受け止めていただろう。

 けれど、今の俺は違った。その原因は何なのか。俺には分かっている。

 

「和哉君?」


 声が聞こえたため、顔を上げた。すると目の前に姉の大人びて整った顔があった。

 

「な、何だよ?」

 

 俺は慌てて後退りをした。心臓は今までにないほど激しく鼓動している。

 

「それは私のセリフよ。ずっと私は呼びかけていたのよ。大丈夫?」

 

 結梨は首を傾げて、不思議そうな顔を向けていた。どうやら考え事をし過ぎていて、姉の声が耳に届かなかったようだ。

 

「それは悪かったよ。別に大丈夫だから」

「和哉君、ちょっとこっちを向いてちょうだい。あと少し屈んで」

「え? まあ、いいけど」

 

 姉の言われた通りにすると、俺の額に柔らかい感触があった。

 目の前の姉は俺の額に手を伸ばし、手のひらをくっつけた。その結梨はというと、何やら探るような顔をしている。

 

「熱はなさそうね」

「ちょっ、大丈夫だって言っているだろ!?」

「そうは言っても、この前だって私の話が聞こえてなかったみたいじゃない。また貴方が風邪でも引いたのかなって思ったのよ」

 

 そう言いながら、結梨は俺の額から手を離した。柔らかい感触が無くなり、俺は寂しさを覚えた。

 

「ま、まあ、それは偶々だ」

 

 結梨の指摘に対して俺は適当な弁明をした。姉の言う通り、昨日一緒に下校した時も同じことはあった。

 あの時も今と同じようなことを考えていたせいで、結梨の声が届かなかった。

 それを正直に言うことはできないため、誤魔化すしかないのだが。

 

「そんなに心配しなくても俺は元気だよ」

「まあ、和哉君が言うなら信じるわ。けれど、体調が悪くなったら、お姉ちゃんに言うのよ」

「……ああ、分かったよ」

 

 結梨のいつも通りの言葉に俺は表情を崩さないようにするのが精一杯だった。

 結梨の真剣な顔を正面から見つめる。彼女らしい姉としての責任感を感じる瞳だ。きっと、その目には俺のことを守るべく弟にしか写っていないのだろう。

 けれど、俺は……。

 まるでささくれのような気持ちが俺の心にあった。こうして強く自制していないと何かが溢れそうだ。

 

 

***

 

 

 無事に学校に着いて、俺と結梨はそれぞれの席に着いた。2人きりで教室にいると、クラスメイトから怪しまれるため、俺だけ教室を出て、適当な場所でやり過ごす。

 この役目も俺が申し出たものだ。結梨は最後まで反対していたが、なんとか押し切ることができた。

 ある程度校内をぶらついた後、教室に戻ると、少なくない人が来ている。

 友達に囲まれている結梨を確認した後、席に着く。そして、スマホを起動した。

 

「結梨、今日の放課後、一緒に遊びに行かない?」

「ええ、いいわよ」

「やった! それじゃあ、前に行ってたお店なんだけど」

 

 結梨と友達との会話が俺の耳に聞こえてくる。いつもなら気にならないはずなのに、今日は何故だか耳に入ってきてしまう。

 

「和哉、今日は早いな」

 

 スマホから顔を上げると、机のすぐ近くに学がいた。

 

「いつもだったら、もう少し遅く来てなかった?」

「まあ、たまには余裕を持って登校するのもいいと思ってだな。それよりも学」

「うん?」

「放課後、時間は空いているか? 相談したいことがあるんだけど」

 

 そう学に問いかけた瞬間、自分の失敗に気づく。彼には部活動がある。それを休んでもらうのは申し訳ない。

 

「分かった」

 

 俺が慌てて言い直そうとした瞬間だった。友達から肯定の返事が返ってきた。

 俺は学の方へと顔を向ける。すると爽やかに笑う彼と目が合った。

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