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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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50/60

50 弟を慰めるのもお姉ちゃんの使命よ

「俺が手芸をやっていることを知っているってどういうことだ?」

 

 家のリビングは緊迫とした雰囲気に包まれていた。

 結梨は俺の秘密を知っていた。いくら最近ミスを連発する俺でも流石に最大の秘密をおいそれと話すわけがない。

 誰かが結梨に話した可能性も考えてみるが、それはない。俺が手芸をやっていることを知っているのは俺の両親だけだ。そして、結梨と両親は未だ会ったことがない。

 もしかしたら、俺の知らない間に顔を合わせている可能性もあるが、それはない。そんなことがあれば、結梨は絶対に俺に報告するからだ。

 

「一体、いつ、どこで知ったんだ?」

 

 思わず口調が硬くなる。知らぬ間に俺の秘密が漏れていたのだ。2回目や3回目がないとは限らない。情報の出所は必ず突き止めないといけない。

 けれど、結梨の顔を見た途端、俺は自分の決意を後悔した。

 

「本当にごめんなさい、和哉君」

 

 目の前にいる姉は申し訳ない顔をしていた。彼女の様子を見れば、俺の秘密を知ったことは故意ではないことが分かった。

 

「こっちこそごめん。冷静じゃなかった」

 

 俺の心に罪悪感が生じる。

 

「いえ、今の貴方の様子を見れば、知られたくないことだったくらい分かるわ」

「ああ、そうだよ。親以外誰にも話したことがないからな」

 

 俺の言葉を聞いて、結梨は目を見開いた。どうやらそこまで隠しているものだと知らなかったようだ。

 

「もちろん私だって誰にも話していないわ。信じてちょうだい」

「分かっているよ。姉さんはそんな人じゃない」

 

 結梨は姉らしくあろうと暴走することはあれど、俺が本当に嫌がることはしない。俺との関係を人に話さないという約束を今日まで守ってくれているからだ。

 

「でも、それでも教えてくれないか? 結梨姉さんは一体どこで俺の秘密を知ったんだ?」

 

 先程よりも口調を柔らかくして、改めて問いかける。

 

「私も本当に偶然だったの」

 

 結梨はかつてないほど真剣な顔でそう言った。

 

「和哉君、アルバムを持ってきてもらってもいい?」

「アルバム? どうしてだ?」

「持ってきて欲しいの」

 

 結梨は理由を話そうとはせず、ただそう言うだけだった。けれど、その目は真剣そのものだ。

 

「分かった。ちょっと待ってくれ」

「ええ、お願いするわ」

 

 俺は一旦リビングから出て、家の中でアルバムを探した。お目当てのものが見つかると、再びリビングに戻り、結梨の隣に腰掛ける。

 

「言われた通り、持ってきたぞ」

「ありがとう、和哉君。どれだったかしら?」

 

 結梨は俺が持ってきたアルバムを手に取り、パラパラと捲る。やがてあるページで彼女の指が止まる。

 

「あったわ。この写真よ」

「これは……? あっ!」

 

 結梨が見せてきたのは子供の頃の俺の写真だった。一見何の変哲もない普通の写真だが、俺にとっては見過ごせないあるものが写っていた。

 

「小さい頃の和哉君が手芸をしている写真よ」

 

 結梨の言う通り、紛れもなく俺の秘密が写っていた。写真の中の俺は無邪気に笑っている。

 両親としては息子の楽しそうな瞬間を撮っておきたかったのだろう。まさか息子がアルバムを誰かに見せることは想定していないはずだ。

 

「前に貴方の家に来た時アルバムを見せてもらったでしょう? あの時この写真を見つけたの」

「そういえばそうだったな……」

 

 結梨の言葉に、俺も記憶が蘇る。あの時結梨は俺のアルバムに夢中になっていた。

 そして、風呂を入るため、俺が席を外した。恐らくその時にこの写真を見たのだろう。

 

「この写真を見れば、貴方が手芸を好きなことはすぐに分かったわ。けれど、私には何も言わないから、知られたくないことなのかなって思ったの」

「まさにその通りだ」

 

 俺は写真を見つめて、呆然とする。結梨に俺の秘密がバレないよう色々と注意していたことはあった。けれど、こんなところに落とし穴があるなんて思わなかった。

 

「これは完全に俺の不注意だ。疑って悪かった」

 

 俺は結梨に向かって、頭を下げた。目の前にいる姉のことを疑ってしまった。大いに反省すべき点だろう。

 

「和哉君は謝らなくてもいいわ! 私が貴方の秘密を知ってしまったのは事実なのだから」

「結梨姉さんは知りたくて知ったわけじゃないだろう? だから、姉さんは悪くないよ」

「分かったから、頭を上げてちょうだい」

 

 姉に言われた通り、俺は顔を上げる。上げた先には優しく微笑んでいる結梨がいた。彼女のその顔を見ると、心が落ち着きを取り戻してくるのが分かった。

 

「けど、まさか結梨姉さんが知っていたとはな。俺は言わなくても良かったのか」

 

 そう言って、自分の決断を自嘲する。結果論だが、俺は言う必要はなかったかもしれない。

 

「確かに私は貴方の秘密を知っていたから、和哉君の告白は意味を為さなかったかもしれないわ。けれど、お姉ちゃんはとても嬉しかった」

「え?」

 

 結梨の言葉に俺は隣にいる姉を見つめる。

 

「だって、誰にも話したくなかったのに、私に話してくれたでしょう? それは私のことを信頼してくれたってことじゃない。弟から信頼されて、お姉ちゃんは光栄よ」

 

 そう言った結梨は優しく微笑んでいた。と同時に喜んでいるように見えた。

 それでも俺にはどうしても気になることがあった。

 

「そうだな。確かにその通りだ。その通りなんだけど……」

「どうしたの?」

 

 俺の方を向いて、結梨は不思議そうな顔をしていた。きっと俺が浮かない顔をしているのだろう。

 

「その、結梨姉さんは俺が手芸をやっていることをどう思う?」

 

 思い切ったことを聞いてしまった。結梨はここまで俺が秘密を話してくれたことを嬉しく思っているが、手芸自体には何も言及なかった。

 だから、俺は気になったのだ。隣にいる姉がどういう風に感じているのかと。

 恐る恐る結梨の反応を窺う。その間にも頭の中ではかつて俺を苦しめた言葉が響いていた。

 

「とても素敵だと思うわ。私はこういうものを作れないから、尊敬するの」

 

 結梨は愛おしそうに俺が贈ったサマーハットを眺めていた。そして、同じような眼差しで俺を見つめた。

 

「こんなに良いものを作れるなんて、和哉君はこれまでたくさん頑張ってきたのね」

 

 そう言って、結梨は腕を伸ばした。また頭を撫でられるかと思い、俺は反射的に目を瞑った。

 けれど、予想した感触はやってこない。いや、正確にいうと、頭では感じなかった。

 その代わりに全身に軽い衝撃と温かく柔らかい感触を感じる。俺は目を開けた。

 

「ゆ、結梨!?」

 

 目を開けた時、結梨は目の前にいなかった。一瞬、どういうことだと脳が混乱したが、ややあって理解が追いつく。

 結梨は俺の首に両腕を回して、体を俺のそばまで寄せていた。つまり、俺は姉に抱きしめられていた。

 

「お姉ちゃんが褒めてあげる。和哉君は良い子よ」

「いや、ちょ、待って」

 

 子供みたいに褒めるなとかどうして抱きしめているんだとか言いたいことは色々あった。けれど、それらが全て頭から吹き飛んでしまうほど姉の優しい声が耳に届く。

 抱きしめられているせいか結梨の声が今までで1番近くに感じる。彼女の体温が伝わってくる。

 

「も、もういいだろ? 大体俺は大したことはしてないぞ」

 

 結梨のために作ったということを除けば、俺はいつも通りの手芸で作品を作り、それを人に贈ったというだけだ。ここまで褒められるようなことをした覚えはない。

 

「もちろんそれもあるわ。でも、和哉君が頑張ったのはそれだけじゃないわ」

「それだけじゃない?」

 

 思わず姉の言葉を復唱してしまう。

 

「私に秘密を打ち明けるまで貴方がどれだけ悩んで躊躇して、決断してくれたのか。さっきまでの和哉君の様子を見ていれば分かるわ」

「けれど、それは結梨姉さんだからで」 

「人に自分の大切なことを話すのってとても勇気が要ることだと思うの。」

 

 結梨の言葉を聞いた途端、俺の中から熱い何かが込み上げてきた。

 

「だから、よく頑張りました。お姉ちゃんを信じてくれてありがとう」

 

 そう言って、結梨は俺の頭を撫でた。もう俺は限界だった。視界は滲み、体は震えてしまう。

 

「……俺、ずっと、怖くて、また否定されたら、どうしようって、臆病で」

 

 気づけばポツリと口から言葉が、俺が心の奥に閉じ込めていた想いが溢れてくる。

 

「貴方は臆病じゃないわ。誰だって怖いものよ」

 

 結梨の言葉が耳を通じて、俺の心に滲み出ている。

 

「だから、誰にも、言わないよう、秘密にしてて」

 

 これまでのことが走馬灯のように駆け巡る。初めて手芸に触れた時、友達から揶揄われた時、誰にも言わないよう神経を張り詰めたこと。

 

「大丈夫よ、和哉君。お姉ちゃんがそばにいるわ」

 

 姉に抱きしめられているうちに、俺の記憶にあるあの光景はどんどん薄れてゆくのを感じる。これまで鮮明だった過去が色褪せていく。

 

『和哉って、こういうの作るのが好きなんだな。似合わねえ!』

 

 その言葉が頭の中で響いても、俺の心は一切動じなかった。

 

 

***

 

 

「いや、本当に悪かった。あんなことをして」

 

 俺は同級生である姉に土下座をしていた。色々あって、頭が落ち着いてくるうちにとんでもないことをしてしまったと理解してしまった。

 よりによって同い年である姉に抱きついて、子供のように縋り付いて、涙を流したのだ。間違いなく墓場まで持っていく事案である。

 

「気にしなくていいわ。弟を慰めるのもお姉ちゃんの使命よ」

 

 クラスメイトである男子から抱きしめられても、結梨は相変わらずであった。これも姉パワーによるものだろうか。

 

「それに、お姉ちゃんに甘えている和哉君は可愛かったわ」

「頼むから今すぐ忘れてくれ」

「それは難しいわ。私の心の中にあるお姉ちゃんアルバムに深く刻まれたから」

「そんなアルバムがあるなんて聞いたことがないんだが!?」

 

 あんなことがあったのに、結梨とはいつも通りのやり取りを交わしている。

 いや、いつも通りではない。側から見ると、何も変わらないが、俺の内面は大きく変わった。

 結梨との距離はもう離れているのに、俺の心は高鳴ったままだ。

 彼女から笑顔を向けられると、その高鳴りはより激しさを増してゆく。さらに、結梨と話していると心地良い満足感を感じてしまう。

 どうやら俺は姉である結梨に対して特別な想いを寄せてしまったようである。

申し訳ありませんが、

またストックが尽きてしまったので、しばらくの間更新をお休みします。

更新再開は6月20日を予定しています。


追記

お待たせしました。

予定通り、6月20日に更新を再開します。

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