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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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45 お姉ちゃんのそばに来てちょうだい

「嘘だろう……」

 

 放課後、昇降口にいる俺はかつてないほどの危機に晒されていた。どれだけ悔やんでも状況が好転することはない。

 

「どうしようか」

 

 俺は目の前にある光景に呆然となっていた。昇降口から外を覗き込むと、雨が降っている。それも傘無しではとても帰れないほどの雨である。

 俺はもう一度鞄の中を探る。もしかしたらという一縷の希望を抱くが、結果は何も変わらなかった。

 

「まさか傘を忘れるなんてな」

 

 俺は外の風景を恨めしく思いながら見つめていた。

 

「鞄に入れておいたはずなんだけどな」

 

 何回目になる鞄の捜索を試みたが、やはりお目当ての傘は現れない。

 俺は普段普通の傘を使うが、生憎今日はいつも使う傘を家に忘れてきてしまった。それに気づいたのが電車から目的地の駅に降りた時だ。

 どうするべきか迷っていた時に、鞄に折り畳み傘が入っていることを思い出した。そのため、家に戻らず、そのまま学校へと向かった。

 今思えばこの時ちゃんと鞄に折り畳み傘が入っているか確認するべきだったかもしれない。

 

「反省するのは後だ。とりあえず、家に帰らないと」

 

 思考の海から浮かび上がった俺は、改めて目の前に広がる光景を眺める。雨脚は一向に衰えない。


「もういっそのこと走るか」

 

 最終手段が頭に過ぎる。駅まで全速力で走ったところでびしょ濡れになること間違いないだろう。そうなれば、最悪の場合、風邪を引いてしまうかもしれない。

 そこまで考えて、ある女子の顔が頭の中に思い浮かぶ。明るいベージュ色の髪の女子が腰に手を当てて、こちらを見ている。

 

「何を想像しているんだよ」

 

 被りを振って、妄想を追い出す。けれど、俺が風邪を引いてしまえば、妄想は現実となってしまうだろう。

 結梨に心配をかけるのは忍びないし、どんなことを言われるか分からない。

 

「誰かの傘に入れてもらうか」

 

 そう言葉にしてみたが、学をはじめとした友達は全員部活に行ったり、下校している。西村にお願いしたら、学にグーで殴られそうである。

 そう考えると、候補は"ほぼ"いない。俺の頭にはある女子の顔が思い浮かんでいた。

 

「よし、連絡してみるか」

 

 俺は覚悟を決めて、スマホを手に持った。そして、SNSアプリを起動した。

 

 

***

 

 

「お待たせ、和哉君」

 

 声をかけられて、スマホから顔を上げた。そこには傘を差した結梨がいた。

 

「来てもらって、ありがとうな。助かったよ」

「構わないわ。弟のピンチに駆けつけるのがお姉ちゃんよ」

 

 そう言って、結梨は胸に手を当てて誇らしそうにしていた。その顔はとても嬉しそうである。

 

「それじゃあ、傘に入ってちょうだい」

「お、おう。そうだな」

 

 俺は心を落ち着かせて、結梨の傘の下に入れてもらう。我ながらとんでもないお願いをしたものである。

 

「ふふっ、姉弟仲良く相合傘ね」

「まさか2回目もあるなんて思わなかったぞ」

「私は待ち望んでいたわ」

 

 キリッとした顔でクラスメイトである姉は言った。俺と結梨は昇降口から校門へと向かう。幸いなことに学校から出るまで誰にも遭遇しなかった。

 

「和哉君は傘を持ってこなかったのね」

「鞄に入れていたはずだったんだけどなあ。まさか忘れるなんて考えなかったぞ」

「そのお陰でこうして一緒に帰れるのだから、私は嬉しいわ」

 

 結梨は満面の笑みを浮かべていた。同い年である姉がこれほど喜んでいるのは俺と一緒に帰れるだけではないだろう。

 

「何より和哉君がお姉ちゃんを頼ってくれたからね」

「悪かったと思っているよ。友達と遊んでいたんだろ?」

 

 俺が結梨に連絡した時、彼女は友達と一緒だったらしい。俺から連絡をもらった結梨は友達に断りを入れて、俺を迎えに来たそうだ。

 

「気にしなくても大丈夫よ。私はお姉ちゃんだからね。いつでも頼ってくれていいわ」

「まあ、本当に助かったよ」

 

 正直、結梨が駆けつけてくれて、体がくすぐったくなるほど嬉しく感じた。それを素直に伝えると、この姉が暴走しそうだから言わないが。

 

「むしろもっと頼ってくれてもいいわ。私のお姉ちゃんパワーはこんなものではないからね」

「初めて聞く概念だな」

 

 まるで某少年漫画の戦闘力である。お姉ちゃんパワーが高いとどうなってしまうのだろうか。

 

「和哉君は勉強もできるし、球技大会でも頑張っていたわ。よくできた弟でお姉ちゃんとしては誇らしいけれど、もう少し私を頼ってほしいの」

「俺としてはもう十分頼りにしているつもりなんだけどな」

 

 テスト勉強を見てもらったり、バスケを教えてくれたり、弁当を作ってもらったり、挙げればキリがないほどだ。結梨はこれ以上を望んでいるのだろうか。

 

「それなら、もう少しお姉ちゃんのそばに来てちょうだい」

「え?」

「ほら、和哉君の肩が傘からはみ出しているじゃない」

 

 結梨の言葉に俺は左を振り向いた。俺の左肩が傘から出ているため、雨で濡れている。

 

「これぐらい大丈夫だ。入れてくれただけでもありがたいぞ」

「でも、制服が濡れてしまうわ。もう少し私の方へ来てくれたら、濡れなくて済むわ」

 

 結梨は俺の裾を摘んで、クイクイと軽く引っ張る。確かにクラスメイトである姉の言う通りにすれば、いいだろう。

 けれど、そうすると、俺と結梨の間の空間はほとんどなくなってしまう。

 

「別にこのままでも」

「それはダメよ。また和哉君が風邪を引いてしまうかもしれないわ」

 

 俺を看病した時のことを思い返しているのか、結梨の引っ張る力が強くなった。俺は引っ張られるまま、結梨に近づいた。

 その結果、お互いの肩が触れてしまうほどになった。左肩が雨に当たる心配はなくなったが、俺の心臓はうるさくなってきた。

 

「ほら、これなら濡れずに済むわ」

「……分かったから、腕を離してくれないか?」

 

 結梨は俺を逃さないように、腕を自分の体に引き寄せていた。そのせいで、俺の腕を通じて、彼女の感触と体温が伝わってくる。年頃の男子の心臓にとても悪い。

 

「それはできないわ。離したら、和哉君はどこかに行ってしまうでしょう?」

「俺は子供じゃないぞ」

「けれど、私の弟よ」

 

 よく分からない理論を結梨は主張した。俺と言葉を交わしている間も俺の腕を離そうとしない。

 

「はあ、分かったよ。駅に着くまでだからな」

「ええ、流石にそこからは傘がいらないからね」

 

 俺の言葉に結梨は楽しそうに微笑んだ。いつもよりも間近に見る姉の笑顔に俺の胸は高鳴った。

 その後、俺の言葉通り、駅に着くまで結梨は俺の腕を掴んだままだった。本当に幸運なことに道すがら学校の誰にも遭遇しなかった。

 

 

***

 

 

 色々な話をしながら、歩いていると、目の前に待ち望んだ建物が見えた。駅である。

 

「ようやく着いたな。もういいだろ?」

「駅に入るまでよ」

「マジですか……」

 

 中々強情な姉である。駅構内に入り、ようやく俺は結梨から解放された。同級生である姉は不満そうだった。

 

「本当にありがとう、結梨姉さん。お陰で濡れずに済んだよ」

「これぐらい姉として当然のことをしたまでよ。駅から家までは大丈夫かしら?」

「駅ならコンビニがあるし、そこで傘を買うつもりだ」

 

 少しだけ痛い出費だが、それぐらい仕方がないだろう。

 

「それなら、私が和哉君を家まで送るわ」

「それは却下だ。そこまでしなくても大丈夫だ。というか、俺の家に行きたいだけじゃないか」

「そんなことは微塵も考えてないわ」

「そう思っているんだったら、俺の目を見ろ」

 

 思わず漫画みたいなセリフを言ってしまった。実際、結梨は明後日の方向を向いていた。どう見ても心の底から俺の家に行きたいと考えている様子である。

 

「それじゃあ、また来週な」

「そうね。寂しいけれど、弟の自立を見守るのも姉として大事なことよ」

「マジで寂しそうな顔をするな。罪悪感が湧いてくるだろ」

 

 油断していると、家まで送って欲しいとお願いしてしまいそうだ。これは早めに帰るしかない。

 

「じゃあな、結梨姉さん。本当にありがとう」

「ええ、どういたしまして。和哉君も気をつけてね」

 

 そう言って、お互い別れの挨拶を交わし、それぞれの帰路へと向かう。色々あった帰り道のことを思い出しながら、足を動かそうとしたその時である。

 

「お客様に重要なお知らせがあります」

 

 そう聞こえてきたのは駅構内に流れるアナウンスだった。内容はある路線が事故によりしばらくの間、運転を見合わせるというものだった。

 

「嘘だろう……」

 

 アナウンスを聞いて、俺は歩みを止める。本日2度目となる「嘘だろう……」である。

 そして、1回目と同じように呟いたところで現実は変わらなかった。

 

「和哉君、大丈夫かしら?」

「結梨姉さん」

 

 声をかけられて、後ろを振り返ると、いつの間にか戻ってきたらしい結梨と目が合った。

 

「私も聞いたわ。災難ね」

「ああ、まさか俺の乗る電車が止まるなんてな。どうやって帰ろうか」

 

 俺は頭を抱えそうになった。今いる駅から俺の家まで歩いて帰れる距離ではない。それも雨が降った中、歩いて帰るなんて自殺行為だろう。

 

「ねえ、和哉君」

「どうした?」

「私に良い考えがあるわ」

 

 そう言った姉の顔はそれはとても楽しそうだった。まるで友達を家に呼ぶ時の子供のようだった。

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