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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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44/62

44 お姉ちゃんと一緒に寄り道しましょう

 俺はいつも通りの待ち合わせ場所に向かっていた。公園に着くと、明るいベージュ色の髪の女子がベンチに座っていた。

 

「お待たせ」

「別に待っていないわ」

 

 結梨は顔を上げて、こちらを見ていた。そして、ベンチから立ち上がる。

 

「それじゃあ、帰りましょうか」

「ああ、分かった」

 

 俺と結梨は並んで公園から出た。今日は恒例の結梨と一緒に帰る日だ。

 

「最近暑くなってきたな」

 

 5月も後半になると、春というより夏の気候に様変わりだ。

 

「天気予報だとこれからどんどん暑くなるみたいよ」

「本当か。こんなに暑いとアイスでも食べたくなるな」

 

 冷たいアイスを頭の中で思い浮かべる。それだけでなんだか体が涼しくなったように錯覚する。

 

「それは名案ね」

「え?」

 

 思わず隣にいる姉の方を向くと、結梨は楽しげな笑みを浮かべていた。

 

「ねえ、和哉君。お姉ちゃんと一緒に寄り道をしない?」

 

 そう言った同い年である姉は子供のように無邪気だった。

 

 

***

 

 

「和哉君はどれにするの? お姉ちゃんが何でも買ってあげるわ」

「別に自分で買うから大丈夫だ」

 

 俺が姉の提案を否定すると、結梨は不満げな顔を浮かべた。

 今俺たちがいるのは帰り道の途中にあるコンビニだ。正確に言うと、少し逸れることになるが、どちらにしろ姉の言う通り、寄り道であることには変わらない。

 

「そういえば、和哉君は甘いものは苦手だったんだじゃなかったかしら? アイスは大丈夫なの?」

「アイスならいいぞ。別腹とかいうやつだ」

 

 子供の頃からアイスは普通に食べている。今日みたいに暑い日にはちょうどいいだろう。

 

「ふふっ、なんだか誰かに言い訳しているみたいね」

「俺のことより結梨姉さんはどのアイスを選ぶんだ?」

「私はね」

 

 結梨は何かを言いかけて、止まってしまった。そして、俺に向かって面白がるように笑った。

 

「さて、ここで問題です」

「え?」

「私が食べたいアイスはこの中のどれでしょう?」

 

 結梨はコンビニのアイス売り場を手のひらで指し示した。

 

「それはクイズなのか?」

「ええ、そうよ。和哉君に分かるかしら?」

 

 結梨は何故か胸を張って、堂々としていた。どうして、そんな態度を取っているのか分からない。

 

「正解したら、お姉ちゃんがアイスを食べさせてあげるわ」

「それは勘弁してくれ」

 

 同級生の女子にアイスを食べさせてもらう。中々甘酸っぱいシチュエーションである。誰かに見られたら、俺の平穏な学校生活が終わってしまうだろう。

 

「えーと、これか?」

 

 俺が手に取ったのは、バニラアイスが最中に入っている定番のアイスだ。根拠など何もない。このクイズとやらを早く終わりにしたかったからである。

 

「和哉君、真面目に考えてちょうだい」

 

 結梨は腕を組んで、そう答えた。どうやら、俺の心中が伝わってしまったようだ。どうして、分かったんだ。少し怖い。

 

「冗談だ。このアイスも美味しいと思うぞ」

「けれど、今私が食べたいアイスではないわ。大丈夫よ。和哉君だったら、きっと正解を導き出せるわ」

 

 結梨は期待を込めた目で俺を見つめていた。姉から出題されたクイズに正解しないと、このコンビニから出ることはできないらしい。

 

「アイスか……」

 

 俺は少し真面目に頭を働かせる。同級生である姉は甘いものが好きだ。だから、アイス全般が好きなはずである。つまり、絞り込むのはとても難しい。結梨の気分次第だからだ。

 

「何かヒントはないか? 流石に難しいすぎるだろ」

「いえ、ヒントは必要ないわ。私と和哉君の仲ならば、きっと分かるもの」

 

 結梨は胸に手を当てて、俺にとって絶望的なことを告げた。クラスメイトである姉が俺に何を期待しているのか不明だが、流石に考える材料が少なすぎる。

 

「ん? 結梨姉さんと俺の仲……?」

 

 ふと先程姉が言っていた言葉に違和感を覚えた。けれど、違和感を覚えた理由を言語化できない。

 

「頑張って、和哉君。お姉ちゃんは応援しているわ」

「ああ、頑張るよ」

 

 隣にいる姉の応援を適当に受け流しながら、俺は思考の海に沈んだ。

 俺は結梨の食べたいアイスなんて彼女の気分次第だとばかり考えていた。けれど、先程から結梨は何回も俺について言及していた。つまり、結梨が食べたいアイスとは俺にも関係あるのだろうか。

 もしかしたら、今、結梨の食べたいアイスとは俺と食べたいアイスなのだろうか。そんな考えがふと頭に浮かんだ。

 

「分かった気がする」

 

 俺はアイス売り場に手を伸ばした。そして、あるアイスを手に取った。俺が選んだアイスを見た結梨はというと。

 

「ふふっ、流石は私の弟ね」

 

 出来の良い子供を褒めるような満面の笑みを浮かべていた。

 

 

***

 

 

 アイスを買った俺と結梨はいつもの待ち合わせ場所である公園に戻った。公園の中にあるベンチを見つけると、そこに腰掛ける。

 

「結梨姉さん、ほら」

「ありがとう、和哉君」

 

 俺からアイスを受け取った姉は袋を開けて、アイスを取り出す。取り出したアイスは手頃なサイズのチューブ型の容器に入っていた。その容器の上部は2本仲良く繋がっている。

 

「分かるのは俺がやるよ」

「いえ、私がやるわ。これはお姉ちゃんの仕事よ」

 

 そう言って、結梨はチューブ型の容器を左右に引っ張った。その結果、無事に容器は2本別々で別れた。

 

「はい、どうぞ」

 

 結梨はその内の1本を俺に手渡した。もう1本は彼女の手の中にある。

 

「ありがとうな」

 

 俺はアイスを手に取ると、その特徴的な容器を眺めた。

 

「これを食べるのは久しぶりだな」

「私もそうよ。こうやって和哉君と分け合って食べたかったの」

 

 結梨は嬉しそうな笑みを浮かべる。その顔を見た、俺は自分の推測が当たったことを実感した。

 

「クイズに正解できて良かったよ」

「どうして、このアイスにしたの?」

「結梨姉さんが俺と食べたいアイスならこれかなって考えたんだ」

「ふふっ、その通りよ」

 

 そう言って、結梨はチューブ型の容器の口を開けて、アイスを口に含んだ。

 それを見て、俺も姉と同じようにアイスの口を開ける。中に入っているアイスはチョココーヒー味だ。甘さの中にどことなくほんのりと苦味を感じる。

 

「コーヒー味しかなかったけど、結梨姉さんはこれで良かったのか?」

「愚問ね、和哉君。私は貴方のお姉ちゃんよ。これぐらいなんてことないわ」

 

 キリッとした顔で結梨はそう答えた。答えになっているのか分からないが、その様子を見ると、平気なのだろう。

 俺と結梨はベンチで隣あって座り、アイスを食べている。側から見ると恋人同士に見えるかもしれないが、結梨にとってはただ姉弟で食べているだけだろう。

 

「さて、和哉君」

「お、おう」

「見事正解した貴方にご褒美を上げないといけないわね」

「ご褒美って、もうアイスはもらっているだろ?」

 

 今食べているアイスは結梨が買ったものだ。その彼女からこうしてアイスをもらったのだから、これがご褒美だとばかりに思っていた。

 俺の言葉に結梨は首を横に振った。

 

「違うわ。これは私が和哉君と食べたくて買ったのよ。ご褒美でもなんでもないわ」

「じゃあ、一体何をするつもりだ?」

「ふふっ、アイスを買う前にちゃんと言ったわよ」

 

 結梨は楽しそうに笑って、俺を見つめる。いや、それにしては少し視線がずれているように見える。

 姉の視線の先を追うと、コンビニでもらった袋があった。正確に言うと、袋から顔を覗かせているカップアイスだった。

 

「和哉君にアイスを食べさせてあげるわ。ちょうど貴方が買ったアイスがあることだし」

 

 クラスメイトである姉は俺が買ったカップに入ったバニラアイスを見て、そう言った。

 

「ちょっ、それは別にいいだろ」

「ダメよ。前にも言ったけれど、頑張った弟を褒めるのがお姉ちゃんよ」

 

 結梨は袋からアイスを取り出すと、そのまま蓋を開けた。そして、コンビニでもらった木のスプーンを取り出すと、スプーンでアイスを掬う。

 俺が止めるのも間に合わず、一瞬出来事だ。

 

「ほら、口を開けてちょうだい」

 

 結梨は俺にスプーンを向けていた。スプーンの中にはもちろんアイスが載っている。

 

「和哉君、早く。アイスが溶けちゃうわ」

「いや、それは、でも」

 

 俺は周囲を窺った。幸いにも公園には誰もいない。けれど、いつ誰が来てもおかしくない。

 

「さあ、いくわ」

「ちょっ、待って」

 

 結梨は腕を伸ばして、スプーンを俺の口へと運ぶ。俺は慌てて口を開けて、その時を待った。

 スプーンが俺の口の中に入るのが見えた。その瞬間、口の中が甘さで一杯になった。

 

「どう? 美味しいかしら?」

「……ああ、美味しいよ」

 

 恥ずかしさのあまり、目の前にいる姉から目を逸らして、そう答えた。口の中には甘酸っぱさを感じたような気がした。

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