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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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43 やっぱりお姉ちゃんの料理が1番のようね

 土曜日の今日、俺はショッピングモールに来ていた。手芸用品を買うためである。これからの夏に備えて、色々と必要なものを買い漁った。

 買い物を終えて、あとは家に帰るだけである。そう考えながら、モールを歩いていた時だ。

 

「あら? 和哉君?」

 

 聞き馴染みのある声が聞こえて、そちらを振り向くと、私服姿の結梨がいた。

 

「結梨姉さんか」

「また会ったわね」

 

 そう言って、クラスメイトである姉は優しく微笑む。以前、結梨や静香さんとばったり会ったことを思い返していた。

 

「今日も静香さんはいるのか?」

「いえ、今日は私1人よ。そんな険しい顔をして、どうしたの?」

「そ、そんな顔なんてしてないぞ」

 

 結梨からの指摘に俺は慌てて深呼吸して、自分を落ち着かせる。最近、結梨とのあれやこれやでミスを重ねているため、彼女と会うと、無意識に全身に力が入ってしまう。

 

「和哉君は買い物かしら?」

「そうだ。今終わったところだ」

「奇遇ね。私もよ」

 

 結梨といつも通りやり取りを交わす。姉と出会ったのが手芸用品の買い物終わりで良かった。

 

「そういえば、もうすぐ昼時ね」

「言われてみると、そんな時間だな」

 

 買い物に夢中になっていたから気づかなかったが、昼ご飯に丁度いい時間帯だ。

 とここまで考えた途端、俺は気づいた。同級生である姉が楽しそうに微笑んでいることを。

 

「和哉君、昼ご飯はまだかしら?」

「そうだな。これからだ」

「それなら、一緒に昼ご飯を食べない? モールだったら、色々お店もあるからね」

 

 結梨からの提案に俺は頭を働かせる。家に帰ってから特に予定があるわけでもないし、問題ないだろう。

 

「いいぞ。ただ今そんなに手持ちがないからな。高いところは勘弁してくれ」

「それなら安心してちょうだい。お姉ちゃんが奢ってあげるわ」

 

 結梨は胸に手を当てて、誇らしそうにしていた。大方姉たるもの弟に良いご飯を食べさせないといけないなんてことを考えているのだろうか。

 

「それも勘弁してくれ。俺の男としての沽券に関わる」

 

 同い年である姉からご飯を奢られる。学や西村に聞かれたら、揶揄われるに違いない。

 

「分かったわ。それなら、和哉君が食べたいものはある?」

「食べたいものか……」

 

 俺は腕を組んで考える。ここでなんでもいいという回答はなしだろう。何かしらの答えは出す必要がある。

 

「ハンバーグとかステーキとかの肉系かな」

「ふむ、ハンバーグ……」

「何だよ? 何かあるのか?」

 

 意味深に呟く姉に対して、俺は不思議に思った。俺の視線を感じたのか、結梨は顔を上げて、こちらを見つめた。

 

「何でもないわ」

 

 そう言ったクラスメイトである姉はいつも通りの笑顔を浮かべていた。

 

「それじゃあ、和哉君のリクエスト通りのお店を探しましょう。お姉ちゃんについてきて」

「ああ、分かった」

 

 先を歩く結梨の後を俺は追いかける。先程の姉の様子がまだ頭の片隅にこびりついていた。

 

 

***

 

 

 俺と結梨が来たのはモール内にある洋食屋だ。席に案内された俺たちはテーブルを挟んで対面に腰掛ける。

 

「和哉君は何を注文する?」

「そうだな。昼ご飯だし、ガッツリとしたものを食べたいけど」

 

 結梨の問いかけに答えながら、メニュー表をペラペラと捲る。今いる店は洋食屋だけあって、様々なメニューが並んでいた。

 

「ハンバーグ、ステーキ、オムライス。色々あるな」

「本当にそうね」

 

 結梨もまたメニュー表を開いて、眺めていた。けれど、メニューを眺めているにしては、やけに顔が真剣である。

 

「結梨姉さん?」

「何かしら?」

 

 メニューから顔を上げて、結梨は俺の方を向いた。同い年である姉は不思議そうな顔をしていた。先程までの真剣さはどこにも見られない。

 

「いや、何でもないよ」

「そう? それなら、いいけど。ああ」

 

 結梨は何かに納得したような顔を浮かべた。

 

「もしかして、デザートも頼んでいいのか悩んでいるの? 大丈夫よ、和哉君。デザート代はお姉ちゃんが出してあげるわ」

「そんなことは全く考えてないぞ」

 

 検討外れのことを気にする姉であった。

 

「遠慮はしなくていいわ。私もデザートを頼むつもりよ。和哉君は甘さ控えめのガトーショコラかしら」

「勝手にメニューを決めるなよ」

「え? お姉ちゃんと半分こがしたいって。全く和哉君はワガママね」

「本当にそんなことは一言も言ってないが!?」

 

 どうやら結梨は幻聴を患っているようだ。姉を極めるとこんなことになってしまうのだろうか。

 俺と結梨はそれぞれ食べるものを注文した。姉からの強い要望により、おのおの食べたいデザートも注文した。

 しばらくすると、料理が運ばれてくる。結梨の目の前にはカルボナーラ、俺の目の前にはデミグラスソースがかかったハンバーグが置かれた。

 

「……それじゃあ、食べましょうか。いただきます

「いただきます」

 

 俺と結梨は両手を合わせた後、料理と向き合う。料理とともに運ばれたナイフとフォークを使い、ハンバーグを食べやすい大きさに切り分ける。

 そして、フォークに刺して、ハンバーグを口へと運ぶ。

 口に入れた瞬間、肉の旨みと濃厚なデミグラスソースが口の中で広がる。ゆっくりと味わい、飲み込んだ。

 

「美味しいかしら?」

「ああ、そうだな。これにして正解だよ」

「そう。それは良かったわね」

 

 結梨もカルボナーラを味わっている。それにしては、姉の視線が目の前に置かれた料理ではなく、俺に注がれている気がする。

 

「結梨姉さん?」

「何かしら?」

「そんなにじっくり見られると食べにくいんだが」

「和哉君の食べている様子を見るのはいつものことでしょう」

 

 結梨はそう言うが、実のところ、正確ではない。俺が食べているところを結梨が見ている——本人曰く見守っているつもりらしい——のはいつもことだが、それは彼女が食べ終わった後の話だ。

 今のように食べている最中でも俺のことを見つめてくるのは今までなかった。

 

「和哉君は気にしなくていいわ。"ハンバーグ"を楽しんでちょうだい」

「お、おう」

 

 何故だか知らないが、ハンバーグという言葉に力が入っているように聞こえる。俺も幻聴が聞こえるようになってしまったのだろうか。

 結梨の視線を感じながら、俺はハンバーグを食べ進めた。

 

 

***

 

 

 メインを食べ終えると、次はデザートが運ばれてくる。結梨の目の前にはプリンアラモード、俺の目の前にはガトーショコラが置かれた。

 俺がガトーショコラを注文した経緯については、省略する。ただ様々な意見が飛び交ったとだけは付け加えておこう。

 

「和哉君、プリンを一口あげるわ」

 

 目を輝かせた結梨が問いかけてくる。それは、まるで、というか、文字通りデザートを前にした子供のようである。

 

「ありがとう。こっちのガトーショコラも食べるか?」

「もちろんいただくわ」

 

 俺の言葉に結梨は食い気味で答えた。それほど甘いものが食べたかったのだろうか。

 先程、カルボナーラを食べていた時と様子が違う。

 

「お姉ちゃんが食べさせてあげる」

「それは勘弁してくれ。人目があるだろ」

「それはつまり、人目がなければ好きにしていいということね?」

「言質を取るな。それに目がキマリ過ぎているぞ」

 

 首肯いたら最後何をされるか分からないだろう。そもそも『好きにしていい』って何をするつもりだ。

 結局食べさせ合うことなく、お互いのデザートを交換するだけで終わった。クラスメイトである姉は不満げだった。

 

 

***

 

 

「ご馳走様。ハンバーグ、美味しかったな」

「……ええ、そうね」

 

 デザートまで楽しんだ俺と結梨は洋食屋を出た。

 

「私が誘ったのだから、支払いはお姉ちゃんでいいのに」 

「これは男としてのプライドだ。結梨姉さんでも譲れないな」

 

 支払いは紆余曲折の末、それぞれがお金を出すことになった。

 

「それじゃあ、行きましょうか」

「ああ」

 

 俺と結梨は歩き出す。このままお開きになるだろう。なんだかんだ楽しい昼ご飯だった。と幕を下ろすには気になることが1点だけあった。

 

「結梨姉さんはあの店で良かったのか?」

「ええ、もちろんよ。来て良かったと思っているわ」

 

 同い年である姉はそうはっきりと口にした。その様子を見ると、嘘は吐いてなさそうだ。

 

「どうして、そう思ったの?」

「俺がハンバーグを食べている時、妙に視線を感じたからさ。気になったんだよ」

 

 その後のデザートが出てきた時はいつも通りの結梨だった。だからこそ、あの時の様子が気になってしまった。

 

「和哉君は本当にハンバーグが好きなのね」

「うん、まあ、その通りだ」

 

 これまでの実績を鑑みて、俺は素直に肯定した。

 

「あのお店のハンバーグを食べている貴方を見て、思ったの」

「何をだ?」

 

 俺の問いかけに結梨はフッと挑戦的に笑った。

 

「私の作ったハンバーグとどっちが美味しいのかってね」

「お前……。そういうことか」

 

 ようやく結梨の様子に合点がいった。俺がハンバーグを注文したことで、結梨はそれが気になってしまったようだ。

 

「それで、実際どっちが美味しかった?」

「そんなことを聞いてどうする?」

「貴方の言葉を借りるならば、姉としてのプライドよ」

 

 結梨は髪をかきあげて、そう宣言した。絵になる仕草に目が離せなかった。

 俺は拳を握りしめて、結梨と向き合った。

 

「もちろん結梨姉さんの作るハンバーグだ」

「本当かしら? 和哉君のご両親とお姉ちゃんに誓える?」

「ああ、誓って嘘はないよ」

 

 トンチキな誓いにも惑わされず、俺は答える。

 

「俺はさ、昔からそこまでハンバーグが好きじゃなかったんだ。まあ、好きは好きだけど、1番ではないという感じだ」

 

 結梨は俺の言うことを黙って聞いていた。

 

「けど、姉さんの作ってくれたハンバーグを食べてから、1番好きになったよ。今日だって、家の外でハンバーグを食べたのは初めてだ」

「和哉君、ありがとうね。やっぱりお姉ちゃんの料理が1番のようね」

「ああ、その通りだ」

 

 俺の言葉に結梨は満足そうに微笑んだ。

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