表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
42/60

42 弟の交友関係の邪魔をしてはいけないわ

 学校の昼休み、俺はある場所へと向かっていた。待ち合わせの約束をしているからだ。

 目的地に辿り着いた俺は足を止める。目の前は視聴覚室だ。

 俺は姉から持たされた弁当箱を手に持ち、視聴覚室のドアを開けた。室内には先客がいた。

 

「待っていたよ、和哉」

 

 先客はメガネをかけた男子生徒だ。彼は俺が入ってきたのに気づいたのかこちらに顔を向けていた。

 

「来てくれて嬉しいよ」

「まあ、約束したからな」

 

 そう言って、俺は席に腰掛ける。今日の約束相手はいつもの姉ではなく、淳史だった。彼と約束したのはただ昼ご飯を一緒に食べるだけではない。明確な目的があった。

 

「それじゃあ、第2回弟会議を始めようか」

「ああ、分かった」

 

 やけに嬉しそうな顔をした淳史は開会を宣言した。今更ながら、今回が2回目だと知った。もしかして、前に視聴覚室で話をしたのが1回目なのだろうか。

 

「和哉とこうして話ができるなんて嬉しいよ」

「せっかく誘ってくれたしな」

 

 昨日の夜に淳史からSNSアプリを通じて、連絡があった。昼休みの時に一緒に昼ご飯を食べようというものだ。

 以前約束したのもあるし、この前の教室の騒動で助け船を出してくれたこともある。だから、淳史の誘いを受けることにした。

 

「今日は和哉のお姉さんのことについても聞かせてもらおうかな」

 

 持ってきた弁当を食べながら、淳史は身を乗り出す勢いで問いかける。まるで刑事ドラマで尋問される容疑者の気分である。

 

「と言っても、何を話せばいいんだ?」

「そうだね……、あっ、そういえば気になっていたんだけど」

 

 淳史は俺の弁当へと視線を向ける。

 

「和哉の弁当って、お姉さんが作っているんだよね?」

「そうだけど、それがどうした?」

 

 以前俺が話したこともあるため、友達の問いに素直に答える。俺が答えた途端、淳史の肩が震えた。

 

「それがもう羨ましいんだよ! 優しいお姉さんで良いなあ」

「お、おう。ありがとう?」

 

 淳史から羨望の眼差しを向けられてしまい、俺は何故だか礼を伝えた。

 

「弁当のおかずは誰に決めているの?」

「それはまあ、ゆ、じゃなかった、姉さんが作っているから、姉さんが決めているよ。リクエストを聞いてくれる時もあるけど」

「リクエスト!?」

 

 俺の言葉に淳史は席から立ち上がった。彼の顔は信じられないものを聞いたと物語っていた。

 

「何それ!? ま、まさか、和哉の好きなものを作ってくれるってこと?」

「まさかも何もその通りなんだが」

「羨ましい!」

 

 そう言って、淳史は再び席に着くと、今度はテーブルに突っ伏してしまった。何やら忙しない友達である。

 

「落ち着けよ。別に全部のおかずのリクエストを聞いてくれるわけじゃないぞ。大体メインのおかずだけだ」

「それだけでも羨ましいんだけど!」

 

 そう言って、顔を上げた淳史は目を丸くしていた。慰めようと思って口に出してみたが、逆効果だったようだ。

 

「お姉さんの弁当は美味しい?」

「そうだな。何回食べても美味しいよ」

「うわー、和哉から自慢された。非道いよ!」

「聞いてきたのは淳史だろ!?」

 

 弟会議とやらはこんな感じでいいのだろうか。俺のせいで淳史ばかりが悲しい思いをしている気がする。いや、全然俺のせいではないな。

 

「俺の話はいいからさ、今度は淳史の話を聞かせてくれよ」

「うん、そうだね。今度は僕の番だ」

 

 淳史は姿勢を正し、改めて俺に向き直った。俺は必死に頭を働かせて、友達の気分を変える話題を探す。

 

「えーと、ほら、最近淳史がお姉さんにしてもらって嬉しかったことはあるか?」

「姉さんからして嬉しかったこと?」

 

 キョトンとした淳史はそのまま考え込むような顔に変わった。そして、その状態で固まってしまった。

 

「お、おい、大丈夫か?」

 

 口を開かないままでいる友達が心配になって、問いかける。

 

「ないね」

「え?」

「ないんだよ、そんなものは!」

 

 倒置法で答えた淳史の顔は真剣そのものだった。それだけで彼が苦悩していることが伝わってくる。

 

「ないって、何かしらあるんじゃないか?」

「いーや、ないね。愚痴はいくらでもあるけど、嬉しかったことなんて思いつかないよ」

 

 もう一度問いかけても、淳史は「ない」の一点張りだった。

 俺は必死に打開策を探す。このまま淳史が暴走すればどうなるのか分からないからだ。

 どうしようかと迷っているとあるものに目が留まった。

 

「淳史が食べている弁当は誰が作っているんだ? もしかして、お姉さんじゃないのか?」

 

 目の前にいる友達も俺と同じく弁当を広げている。だから、俺と同じ共通点があると考えたのだ。

 

「僕だよ」

「え?」

「昨日の夜ご飯の残り物と冷凍食品を僕が弁当箱に詰め込んだよ」

「お、おう。そうなのか」

 

 淳史の勢いのあまり、俺は適当な相槌を打つことしかできなかった。俺にはこの苦しんでいる友達の気持ちを晴らすことはできないのだろうか。

 俺が原因……な可能性もなきにしもあらずのため、何とかしてやりたいと思った。

 

「でも、昨日の夜ご飯は姉さんが作ったかな」

「ほら、淳史のお姉さんだって、良い姉さんじゃないか」

 

 突破口を見つけた俺はそこに突っ込んだ。これを逃したら、淳史は更なる暴走を重ねるだろう。

 

「親がいない時は姉さんが料理を作ってくれるんだ」

「へー、優しいお姉さんだな」

 

 俺だって毎日結梨の作ってくれるご飯を食べていない。別に一緒に暮らしてるわけではないから、当たり前だけど。

 何にせよ、ようやく状況が好転しそうだと胸を撫で下ろした時だった。

 

「それは違うよ」

「え?」

 

 けれど、俺の安堵は幻に終わった。再び淳史は険しい顔をした。

 

「姉さんは自分が食べたいものを作るんだ。僕にリクエストなんか聞いてくれない」 

「そ、そうなのか」

「それに、何故だか料理に僕の苦手なものばっかり入れるんだよ!」  

 

 そう言って、淳史は拳をテーブルに叩きつけた。友達がそんなことをしているのを俺はただ見ているしかなかった。

 

「苦手なものって何だよ?」

「ピーマンとかナスとか野菜を入れるんだ」

「……お前、高校生にもなって野菜が苦手なのか」

 

 俺の言葉に淳史は明後日の方向を向いた。その動作には見覚えがある。誤魔化したい時にする動作だ。

 

「むしろ野菜入れるなんて栄養バランスを考えているんじゃないか?」

「えっ、姉さんが……?」

 

 淳史は驚愕で目を見開いていた。想像だにしなかったことを聞かされたような顔だ。

 

「俺だって、好きなものばかり弁当に入れてくれるわけではないぞ。野菜だってちゃんと入っているよ」

 

 以前結梨から「野菜もちゃんと摂らないとダメよ」と言われたことを思い出す。俺は淳史と違って、駄々を捏ねた覚えはないけど。

 

「そうなのか……。姉さんが……」

「淳史のお姉さんだって、嫌がらせなんかじゃなく、色々考えてくれていると思うぞ」

 

 日頃の扱いから姉の行動全てを色眼鏡で見てしまうのだろう。それが淳史の不満の源なのかもしれない。

 

「一度冷静になって、それでもう一度お姉さんの行動を振り返ってみてはどうだ?」

「行動を振り返る、ね」

 

 淳史は俺の言葉を噛み締めるかのように呟いた。やがて、彼は俺の方へ顔を向けた。

 

「ありがとう、和哉。僕も熱くなってたみたい。頭を冷やして、考えてみるよ」


 そう言った淳史の顔は先程よりも穏やかに見える。

 

「ああ、それでいいと思うぞ」

 

 友達が冷静になって、俺はホッと一息ついた。ようやく昼ご飯に集中できる。

 

「和哉が弟会議に参加してくれて良かったよ」

「そう言われると、俺も力になれて良かったな」

「和哉がさっきみたいに言えるのはお姉さんのことを信じているからだね」

「え?」

 

 友達が言った言葉で今度は俺が呆気に取られる番だった。淳史の言葉が上手く頭に入っていかない。

 

「俺が、姉さんを信じている?」

「そうだよ。さっき、僕に『お姉さんだって色々考えていると思うぞ』って言ったよね? これって、和哉がお姉さんのことをそう信じているから出た言葉なんじゃないかな」

「そうか。そうなのか……」

 

 俺は腕を組んで、友達の言葉を吟味する。俺が結梨のことを信じている。今まで考えたこともなかったことだ。

 けれど、それを否定する気持ちは全く出てこなかった。それは紛れもない事実である。

 

「和哉がそう思うなんて、本当に良いお姉さんだね」

「それはそうだな」

 

 淳史からそう言われて、俺は心から同意した。友達のお陰で自分の気持ちを理解することができた。

 

 

***

 

 

「和哉君、今日の昼休みはどうだった? 楽しかったかしら?」

 

 学校からの帰り道、やけに楽しそうな顔をした姉からそう聞かれた。

 淳史から昼ごはんに誘われた時、一応結梨に連絡をしておいたのだ。

 その結果、クラスメイトである姉は、決めた日でもないのに弁当を作ってくれて、俺に持たせてくれた。

 

「楽しかったぞ。色々話をしたな」

「一体どんな話をしたのかしら?」

 

 同級生である姉の目がキラリと光ったように見えた。

 

「そんなに気になるなら、結梨も一緒に行けば良かったのに」

「いえ、弟の交友関係の邪魔をしてはいけないわ。見守るのがお姉ちゃんの責務よ」

 

 結梨は相変わらずよく分からない姉としての矜持を語っている。そして、結梨は不思議そうな顔を俺に向けた。

 

「どうした?」

「いえ、というか、お姉ちゃんと一緒に行くなんていいのかしら? 惣島君に私たちの関係がバレてしまうわよ」

「あっ」

 

 結梨から指摘されて、自分の間違いに気づく。普通に姉の話を淳史としていて忘れていたが、彼は俺の姉が結梨だということを知らなかった。

 そんな淳史に結梨を連れてきてしまえば、たちまちとんでもないことになるだろう。

 

「それでも、貴方がいいというなら、私は全く構わないわ。弟の友達には姉として挨拶をしないとね」

「俺が無茶苦茶構うから大丈夫だ。今のは俺がうっかりしてた」

「そういうことね」

 

 結梨は納得したような残念そうな顔をした。その顔を見ると、俺が誘えば、喜んでついてきそうだ。

 それはさておき、俺は一体どうしてしまったのか。この前の教室の1件といい、なんだか最近ミスをしてしまう。

 その原因をベッドで横になるまで考えていたが、結論は出なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ