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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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41/61

41 お姉ちゃんは大丈夫よ

「和哉、ちょっと待ってくれないか?」

 

 放課後、家に帰ろうと席に立った時だった。学から呼びかけられた俺は足を止めた。

 

「どうした? 部活に行かなくてもいいのか?」

「それよりも優先することがあるからね」

「優先すること?」

 

 バスケ部に真剣に取り組んでいる学がそう言うのは珍しい。不思議に思っていると、俺たちに近づいてくる女子がいた。

 

「そうだよ! 菅田に用事があるんだ!」

 

 そう元気よく声を響かせるのは西村だ。どうやら学だけでなく、彼女も俺に話があるようだ。

 

「一体何なんだ? 何を企んでいる?」

 

 結梨ほどではないが、西村もまた突飛な提案をすることがあるため、自然と身構えてしまう。

 

「そう警戒しないでよ。はい、これをどうぞ」

 

 人懐こい笑顔を浮かべた西村は何かを俺に手渡す。俺は友達から受け取ったものを確認する。それは手の平に乗るぐらいの小さい紙だ。

 

「何だこれ?」

 

 俺がそう問いかけると、西村は得意気な顔に変わった。

 

「ふっふっふっ、それはだね」

「ペアチケットだよ」

「ちょっ、学! 私が言おうと思ったのに〜」

「俺だって、和哉に良いところを見せたいからね」

「もう、学ったら、格好づけたかりなんだから!」


 友達2人、いや、バカっプルたちは仲の良いやり取りを交わしている。このままだとずっと2人だけの世界が続いてしまうだろう。

 

「それで、これは何のペアチケットだ?」

「カフェのペアチケットだよ」

「色々なお店で使えるの!」

 

 2人だけの世界から戻ってきた学と西村は口々に俺に説明する。

 このチケットを使えば、好きな飲み物と食べ物を頼むことができるらしい。西村が言うように特定の店ではなく、どこの店で使えるという。

 そして、その名の通り、2人1組で使うものだ。

 

「そういうものがあるんだな」

 

 チケットを裏返して眺めていると、ある違和感を覚えた。

 

「それで、どうして、このチケットを俺にくれたんだ? 2人で使えばいいだろ?」

 

 学と西村なら仲良く好きなカフェに行けばいい。俺に渡すことはないはずだ。

 

「もう、菅田ったら鈍いんだから」

 

 俺の言葉に西村はやれやれと言いたげな顔をしていた。

 

「どういうことだ?」

「ほら、テスト勉強のお礼だよ」

 

 俺の疑問に学は苦笑しながら、答えてくれた。それを聞いた途端、腑に落ちた。そう言えば、勉強会をした時に、そんなことを言っていた覚えがある。

 

「そういうことか。別に気にしなくていいのに」

「まあまあ、それでも、受け取ってくれないか? 和哉達のお陰で今回のテストは良くできたからね」

「私も親と先生から褒められたよ」

 

 2人曰く過去最高に良い成績だったそうだ。それを聞いて、気になったことがあった。


「それなら、俺よりも渡すべき相手がいるんじゃないか?」 

 

 今回のテスト勉強会で1番の功労者は別にいる。そのことを言外に伝えると、2人は意図が伝わったのか、頷いた。

 

「だから、ペアチケットだよ」

「和哉から誘えばいいよ」

「まあ、そういうことか」

 

 ようやく2人が言いたいことが理解できた。このチケットを使って、カフェに行けばいいということだろう。

 以前の俺なら恥ずかしくて、できなかったかもしれないが、今はそれほど恥ずかしさを感じない。

 

「分かった。それだったら、有り難く使わせてもらうぞ」

「どうぞどうぞ。私からも結梨に伝えておくね」

「今回も本当に世話になったよ。姉弟仲良く楽しんでくれ」

「ああ、そうするよ」

 

 俺の言葉に友達2人は一瞬だけ目を見開き、そして、嬉しそうに笑った。

 

 

***

 

 

「和哉君、今日は誘ってくれてありがとうね」

「礼なら、学と西村2人に言ってくれ。俺はチケットをもらっただけだからな」

「もちろん2人にもお礼は言ったわ。貴方にも伝えたかったのよ」

 

 そう言って、結梨は楽しそうに笑った。

 土曜日の今日、俺は結梨を誘って、街中にあるカフェへとやってきていた。行き先は結梨と相談して決めたものだ。

 

「前に行ったところとはまた違った雰囲気ね」

 

 結梨は店内を見回していた。彼女の言う通り、今日来ているカフェは昔ながらの店構えといったところで、木製を基調とした店内は大人っぽい雰囲気が漂っている。

 

「確か好きなものを頼んでいいのよね?」

「ああ、店員さんにも確認したから大丈夫だ」

「それだったら……」

 

 結梨は顎に手を当てて、メニュー表と睨めっこしていた。俺もそれに倣い、メニュー表を覗き込む。

 

「和哉君はスイーツ系よりも食事系を注文するの?」

「小腹も空いていることだし、このサンドイッチにでもするよ」

 

 甘いものがあまり得意ではない俺はサンドイッチを注文することに決めた。

 

「飲み物はやっぱりブラックコーヒーかしら?」

「まあ、そうだな」

 

 俺がそう答えると、同い年である姉は険しい顔になった。

 

「どうしたんだよ?」

「いえ、何でもないわ。それなら、私は……」

 

 結梨は何やら呟いているが、その内容は聞き取れない。やがて、姉は決心したような顔に変わった。

 

「私も決めたわ」

「じゃあ、店員さんを呼ぶか。すみません」

 

 俺は席近くを通りがかった店員さんに声をかける。女性の店員さんは「少々お持ちください」と言って、通り過ぎていく。やがて俺たちがいる席近くまで来た。

 

「注文したいですけど」

「かしこまりました。では、ご注文をお願いします」

 

 店員さんが何かしらの端末を構えると、正面にいる結梨に目を向ける。

 

「和哉君からでいいわ」

「分かった。サンドイッチのセットで、飲み物はコーヒーでお願いします」

「サンドイッチにコーヒーですね」

 

 店員さんは端末を操作した。どうやらそれで注文を受けているようだ。店員さんは端末から顔を上げると、結梨へと顔を向けた。

 顔を向けられた姉は何やらいつになく真剣な顔をしていた。

 

「私はこの特製パフェと、コーヒーをお願いします」

 

 そう結梨が口にした言葉を聞いた時、俺は自分の耳を疑った。

 

「パフェとコーヒーですね。かしこまりました。それでは、少々お待ちください」

 

 そう言って、店員さんはお辞儀をすると、俺たちの席から離れていった。

 

「えっと、結梨姉さん、いいのか?」

 

 俺は声を潜めて、そう言った。確か目の前にいる姉はコーヒーが苦手だったはずだ。それなのに、コーヒーを注文したことを不思議に思ったのだ。

 

「心配しないでちょうだい。お姉ちゃんは大丈夫よ」

「けど、本当にいいのか?」

「ええ。和哉君には言ってなかったけどね、実はコーヒーが飲めるようになったのよ」

 

 そう言った結梨はかつてないほど誇らし気な顔をしていた。

 

 

***

 

 

「お待たせしました。こちら、特製パフェとコーヒーです」

 

 そう言って、店員さんは結梨の目の前にパフェとコーヒーを置いた。

 パフェは特製と名がつくだけあって、フルーツをふんだんに使い、見るからに豪華だ。

 けれど、そんなパフェよりも俺はその脇に置かれているコーヒーカップを見つめていた。

 何回見つめてもカップの中身は黒いままだ。俺の目の前に置かれているものと全く同じである。

 

「では、ごゆっくりどうぞ」

 

 店員さんは柔らかく微笑むと、俺たちの席から離れていく。

 俺は目の前にいる姉の方へゆっくりと顔を向けた。俺の視線を感じたのか同級生である姉は俺に向かって優しく微笑んだ。

 

「無理はしなくていいんだぞ」

 

 いつものように俺の前だからといって、結梨が張り切っているかもしれない。そう思い声をかけたのだった。

 

「私は和哉君のお姉ちゃんだから、平気よ」

 

 前後の文章が繋がっているのか分からないことを言いながら、結梨はカップを持ち上げる。そして、そのまま口元まで運ぶ。その様子を俺はただ黙って見ているだけだった。

 同級生である姉はコーヒーを口に含めると、カップを静かにソーサーの上に置いた。

 

「どうだった?」

「ええ、とても美味しいわ」

 

 俺の問いかけに結梨は嬉しそうに微笑んだ。その笑顔はいつもよりも眩しく見えた。

 

 

***

 

 

 あの後、せっかくだからといって、俺のサンドイッチと結梨のパフェを交換したりもした。

 結梨が俺にパフェを食べさせようとするのは丁重にお断りした。ブラックコーヒーを飲んだ姉はとても不満そうだった。

 

「家で練習した甲斐があったわ」

「どんな練習をしたんだ?」

 

 俺がそう問いかけると、結梨は誇らしそうに胸を張った。

 

「まずはコーヒー牛乳から始めて、少しずつコーヒーに慣らしていったのよ。それでこの間、ようやく何も入れずにコーヒーを飲めたの」

「そうか。頑張ったんだな」

 

 以前静香さんと喫茶店に行った時のことを思い返す。あの時も練習していることを言っていた。その後も努力を続けたのだろう。

 

「当然のよ。私はお姉ちゃんなのだから」

 

 結梨は過去最高にドヤ顔をしていた。動機はどうであれ、苦手なものは克服しようと努力をするところはこの姉の美点だと思う。

 しかし、何か気づいたらしい結梨はハッとなった。

 

「いえ、やっぱり待ってちょうだい。練習したのではなく、自然と飲めるのようになったわ」

「今更言っても遅いだろう」

 

 前言撤回する姉に俺はツッコミを入れた。

 

「だって、陰で努力したよりも普通に飲めるようになった方が格好いいじゃない」

「そのこだわりは何なんだよ」

 

 努力をしていることも尊敬できると思うが、相変わらず変なところでこだわる姉である。

 

「何にせよ苦手なものが克服できたことはすごいと思うぞ」

「ええ、ありがとうね、ではなかったわ。私は特に何もしていないわ」

「だから、もう遅いって」

 

 なおも自然と飲めるようになったと言い張る姉を俺は微笑ましく思った。

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