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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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39 弟の世話を焼くのがお姉ちゃんよ

 球技大会は終わり、学校には日常が戻ってきた。そして、学校の日常ということは、学生の本分であるあのイベントが訪れる。

 

「菅田、ちょっと待って!」

 

 今日の授業が終わり、帰る支度をしていたところだった。呼び止められた俺は声の聞こえた方を振り向く。

 

「西村か。どうした?」

「ほら、来週って、定期テストがあるじゃん?」

 

 彼女の言う通り、来週には定期テストが控えている。2年生になって初めてのテストである。

 

「確かにそうだな」

「それでお願いがあるんだけど」

「却下だ」

「早くない!? まだ何も言ってないんだけど!?」

 

 西村は呆気に取られた表情を浮かべていた。彼女はこう言っているが、俺にはその続きが分かりきっている。

 

「またテスト勉強を見て欲しいってことだろ?」

「流石菅田だね。話が早いじゃん」

 

 そう言って、西村は声を弾ませる。その顔を見た途端、俺の予想が正しかったことを確信した。

 去年から定期テストがある度に西村ともう1人に勉強を教えるのが恒例だった。そのため、テストが近づく頃、西村が俺に話しかける用事は分かりきっている。

 

「2年生になったんだし、たまには自分の力だけで勉強したらどうだ?」

「まあまあ、そう言わずさ。ほら、人に勉強教えるのって、自分の勉強にもなるんだよ」

「それは普通教える側が言うセリフだろ」

「頼むよ、菅田。また何か奢るからさ」

 

 西村は両手を合わせて、俺に向かって拝んでいた。ここまで彼女が必死なのはただ単純に勉強が苦手だからである。西村曰く特に数学が壊滅的だという。

 

「俺からも頼む。この通りだ」


 背後から声をかけられて、俺は後ろを振り向いた。そこには俺に向かって頭を下げる学がいた。

 

「何をやっているんだ?」

「このままだと俺と沙優の成績が危ない。だから、和哉に力を貸して欲しい」

 

 頭を下げたまま、学はそう俺に告げた。彼の言葉から分かる通り、俺がテスト勉強を教えているもう1人とは学のことである。

 彼は西村ほど勉強が苦手ではないが、勉強よりも部活が大事という考えのため、定期テストの度にピンチに陥っている。

 

「とりあえず、頭を上げてくれ。目立つだろ」

 

 教室にいる人たちからの視線を感じていた俺は学にそう言った。

 

「分かったよ。けれど、本当に頼む」

 

 学は言われた通り、頭を上げた。そして、まるで神社にお参りするときのように両手を合わせる。

 

「お願いだよ、菅田」

「勉強を教えてくれたら、俺と沙優が和哉に良いものをあげるよ」

「お前ら、本当に仲良しだな」


 カップルに挟まれた俺は腕を組んで、考える。教えること自体は問題ないが、流石に俺1人で学と西村の2人に教えるのは負担が大きい。

 頭を悩ませていると、何やら視線を感じる。そちらに目を向けると、明るいベージュ色の髪をした結梨と目が合った。

 クラスメイトである姉は友達と話をしつつも、俺たちの方へと視線を送っていたようだ。

 俺と目が合うと、彼女は楽しそうな笑顔を浮かべた。そして、自分の胸に手を当てた。

 それを見た瞬間、俺の頭の中である考えが浮かんだ。

 

「分かった、いいぞ」

「ありがとう、菅田! 流石だね!」

「やはり持つべきものは友達だな」

「ただし、1つ条件がある」

 

 調子の良いことを言う友人たちに向けて、俺は人差し指を立てた。

 

「助っ人を呼んでもいいか?」

 

 そう言って、俺の考えを話すと、西村は顔を輝かせて、学は目を丸くした。

 

 

***

 

 

 定期テストを控えた日曜日、俺はある場所へと足を運んでいた。隣には学と西村もいる。

 

「今日はとても楽しみだね」

「またここに来るなんて思わなかったよ」

「おい、2人とも。遊びに行くわけじゃないぞ」

 

 盛り上がるカップルたちに俺は注意を向ける。俺の言葉に西村は口を尖らせた。

 

「えー、楽しみにするぐらい、別にいいじゃん」

「そうは言うが、ここに来る目的を忘れるなよ」

「まあまあ、2人とも。着いたよ」

 

 学の言葉に俺と西村は正面を向いた。目の前には馴染みのある大きな家があった。

 玄関のチャイムを鳴らして、少し待つと、ドアが開かれた。

 

「いらっしゃい、よく来たわね」

「お邪魔しまーす! 結梨、遊びに来たよ!」

「おい、西村」

 

 早速目的を忘れている友達に俺はツッコミを入れる。そんなやり取りを見て、学は苦笑した。

 

「お邪魔します。野上さん、今日はどうぞよろしくお願いします」

 

 学はやけに礼義正しく挨拶をした。先日教室で見せたような綺麗なお辞儀である。

 

「ええ、上がってちょうだい」

 

 結梨の言葉に学と西村は楽しそうな顔をして、家に入っていく。

 

「ほら、和哉君も」

 

 家に入ろうとしない俺に向かって、同級生である姉が声をかける。何もただじっと待っていたわけではない。俺にどうしても結梨に言いたいことがあった。

 

「ああ。今更だけど、悪いな。そして、ありがとうな」

「気にしなくていいわ。弟の世話を焼くのがお姉ちゃんよ」

 

 結梨はとても嬉しそうな笑顔を俺に向けた。相変わらずの姉らしさであるが、1つだけ訂正したいことがある。

 

「世話を焼かれるのは俺じゃなくて、あいつらなんだけど」

「けれど、貴方から沙優と田口君たちに勉強を教えるように頼まれたのよ。同じことだわ」

 

 同い年である姉は誇らしげな様子だった。日曜日の今日、学たちに勉強を教えるため、結梨の家に来たのだった。

 

 

***

 

 

「この問題はこの公式を使って、解くの」

「ふむふむ、なるほどね。こっちの問題はどうすればいいかな?」

「それはさっきの問題を応用して」

 

 結梨の家のリビングでは、前回来た時と違い、勉強会が繰り広げられていた。リビングの真ん中にあるテーブルを挟んで、各自教科書やノートを広げている。

 

「いやー、結梨は教えるのが上手だね。とても分かりやすい!」

「ふふっ、そう言ってくれて、嬉しいわ」

「野上さん、俺も聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「ええ、もちろんいいわよ」

 

 来た当初は勉強もやらず、遊んでばかりになると危惧していたが、それは杞憂だった。

 学も西村も結梨が教えるのをちゃんと聞き入れていた。西村の言う通り、結梨が教えるのが上手だからだ。お陰で俺は全くすることがない。

 

「菅田はずるいよ」

「急に何だよ?」

 

 珍しく数学の勉強を真面目に取り組んでいる西村が俺に顔を向ける。

 

「こうやって、いつも結梨に勉強を教えてもらっているんだね。通りで勉強ができるはずだよ」

 

 西村はずるいと言いたげな表情をしていた。

 

「言っておくと、結梨に勉強を教えてもらったことはないぞ」

「えっ?」

 

 俺の言葉に西村は豆鉄砲を食らった鳩のような顔になった。

 

「俺は自力でテスト勉強をしてきたんだ。大体結梨とこうなる前から、お前ら2人に勉強を教えてきただろ?」

 

 俺と結梨との関係を知っている西村にそう告げる。確かに同級生である姉は俺に勉強を教えたがっていたが、こうやって結梨と勉強をするのは初めてのことである。

 

「そういえば、そうだった……」

 

 俺の言葉に西村は晴天の霹靂といった顔に変わった。


「その反応は何だよ?」

「結梨と菅田が仲良くなったのって、今年に入ってからなんだよね? 私は昔から姉弟だとばかり思っていたよ」

「おい、お前まで存在しない記憶を持つのはやめろ」

 

 知らぬ間に西村もまた結梨と同じような症状になっていた。これが集団幻覚だと言うやつだろうか。

 

「だって、そう思っちゃうぐらい仲がいいんだもん」

「何も言い訳になってないけどな」

「何の話をしているのかしら?」

 

 俺と西村の会話に唐突に割り込んでくる者がいた。もちろん当事者である結梨だった。

 

「私と和哉君の仲がどうかした?」

「どうして、勉強を教えているのに、聞こえているんだよ」

 

 結梨は学にテスト勉強を教えていた最中だったはずだ。姉の地獄耳が怖い。

 

「結梨と菅田は仲が良いと話していたんだよ」

「おい、そんな正直に言うな」

 

 俺の注意も間に合わず、西村が全てをぶちまけてしまった。西村の言葉を聞いて、クラスメイトである姉はフッと笑みを深める。

 

「当然よ。私と和哉君は姉弟なのだから」

 

 そう言って、結梨はベージュ色の髪をかきあげる。その様は絵になるほどだが、どうして、そんなドヤ顔をしているのか分からない。

 

「流石、結梨だね! 良いお姉ちゃんだよ!」

「ふふっ、沙優だって良いお姉ちゃんだわ」

「ありがとう、結梨!」 

 

 女子2人は楽しそうにお互いを褒めていた。突如蚊帳の外に置かれた俺はその様子をただ眺めていることしかできなかった。

 

「悪いな、和哉。俺と沙優でお姉さんを取ってしまってさ」

「そんなどうでもいいことを言う前に手を動かせ」

「和哉のお姉さんのお陰でとても捗っているよ」

 

 そう言って、学は問題集を俺に見せてきた。確認してみると、どれも正解している。

 西村ほどではないが、学も勉強するよりは体を動かすのか好きなため、集中力が切れやすい。その彼がこんなに真面目に取り組んでいるのは驚きだった。

 

「お前ら……、そんなに真面目に勉強できるなら、始めからやってくれよ」

 

 今までの苦労は何だったのか俺は肩を落とす。

 

「まあまあ、和哉。お前よりも野上さんの方が勉強を教えるのは上手だよ」

「おい、そこまで言うか」

 

 俺の言葉に学は両手を上げた。

 

「冗談だよ。けれど、俺と沙優がこうやって、勉強ができるのは紛れもなく和哉のお陰だ」

「俺のお陰?」

 

 俺がそう聞き返すと、学は頷いた。

 

「そうだよ。だって、今日の勉強会は和哉が野上さんにお願いしたのがきっかけだ。だから、俺と沙優もお前に感謝しているよ」

「それなら、もう少し態度で示せよ」

「まあ、それはテストが終わってからのお楽しみだ」

 

 俺の指摘を学は苦笑した。


「それに野上さんも感謝しているんじゃないかな?」

「結梨が? それはどうしてだ?」

 

 元々俺が勉強を教えるはずだったのが、俺のアイデアにより、結梨を巻き込んだのだ。俺が感謝するのはあれど、結梨が感謝する意味が分からない。

 

「だって、和哉(弟)に頼られて、野上さんはとても嬉しそうだよ」

「え? そうか?」

「そうだよ。だって、あんなに嬉しそうな野上さんは初めて見たからさ」

 

 そう言って、学は視線を向ける。その視線の先には西村に勉強を教えている結梨がいた。

 同い年である姉はいつも俺に向けている笑顔を浮かべていた。

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