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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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34 弟の質問に答えるのがお姉ちゃんよ

「ねえ、和哉君。とても可愛いわ」

「ああ、そうだな」

「家で飼ったらどうかしら? 貴方はどう思う?」

「よく分からないけど、家で飼うのは難しいんじゃないか?」

「確かにそうね。飼うのは諦めた方がわね」

 

 そう言って、結梨は顎に手を当てて考え込むような表情をしていた。

 

「なあ、結梨姉さん」

「何かしら?」

「別のところに移動しないか? もうずっとここにいるだろ」

 

 俺の言葉に結梨は難しい顔をした。今までで見たことがない表情だ。

 

「和哉君のお願いなら無制限に叶えてあげたいけど、それはできないわ」

「その心は?」

「だって、この子たちが可愛すぎるからよ」

 

 そう言って、結梨は目の前の光景に視線を向けた。俺はつられて同い年である姉の視線を追う。

 そこにはガラス越しにこちらを見つめている3匹の子猫がいた。子猫たちはずんぐりむっくりした体に短い足が特徴的だ。

 

「まだ動物園に入ってからこの猫たちしか見ていないぞ」

「ただの猫じゃないわ。マヌルネコよ」

 

 そう言っているクラスメイトである姉はマヌルネコとやらに釘付けだ。

 ゴールデンウィークの最終日、俺と結梨は隣街にある動物園へと来ていた。

 

 

***

 

 

 結梨が俺の家に泊まりきた次の日から平穏な日々が続いた。その間俺は手芸に没頭することができた。

 同級生である姉と過ごす時間もあるが、この趣味に費す時間もまた大切だ。

 

「もうすぐハンドバックも完成だな。ん?」

 

 至福の時間を満喫していると、スマホから通知音が鳴った。スマホを確認すると、結梨からだった。

 SNSアプリを起動して、姉から届いたメッセージを確認する。

 

『明日、マヌルネコを見に行きましょう』

 

 色々とツッコミしたいことはあったが、悩んだ末、俺は結梨からの誘いを受けることにした。

 手芸はひと段落したし、最終日ぐらい遠出してもいいと思ったからだ。

 


***

 

 

「こいつらがマヌルネコなのか?」

「そうよ。一般的なペットになる子たちと違って、この子たちは野生なの」

「へー、野生のネコなんているんだな」 

 

 俺はガラス越しにマヌルネコの子猫たちを覗き込んだ。子猫たちも何やら不思議そうな顔で俺を見ていた。中々独特な愛嬌である。

 

「野生ってどこに住んでいるんだ?」

「確か中央アジアとかが生息地だったはずよ」

「ほー、そんな遠いところから来たんだな」

 

 大移動を果たした小さな旅ネコたちを感慨深く思っていると、結梨はふふっと声を漏らした。

 

「けれど、この子たちは最近ここの動物園で生まれたのよ」

「そうだったのか」

 

 俺は何故か裏切られた気分になりながら、マヌルネコたちを眺めた。彼らは俺を見ることに飽きたのか、今は展示場中を短い足でトテトテ歩き回っている。

 するとすかさず結梨がスマホのカメラを構えた。

 

「写真を撮りすぎじゃないか? さっきも撮っていただろ?」

「この子たちならいくら撮っても撮りすぎにはならないわ」

 

 結梨はよく分からない理論を主張していた。

 

「和哉君もあとで一緒に撮ってあげるから、安心してちょうだい」

「そんなことは微塵も考えてねえよ」

 

 俺がツッコミを入れても、同級生である姉はスマホから手を離さない。昨日の夜に誘われた時から考えていたが、よほどマヌルネコに大好きなのだろう。

 今日、動物園に入った時から一目散にここに向かった。それ以来マヌルネコのそばから離れていない。

 

「そろそろ他の子たちのところに移動しましょうか」

「やっとか」

「ええ、これ以上和哉君を放っておいたら、拗ねちゃうからね」

「そんなワガママは一度も言ってないんだが!?」

 

 そんなやり取りを交わした後、俺たちはマヌルネコを後にした。

 次に向かったのはコアラのいるところだ。俺たちが行った時、コアラは木の枝に腰掛けて寝ていた。

 

「とても可愛いわね」

 

 コアラを起こさないためか、結梨はやけに小声で、そして、俺に近づいて話してくる。

 

「なんかぬいぐるみみたいだな」

「ふふっ、なんだか和哉君の言い方も可愛いわね」

 

 同い年である姉は再びスマホを構えて、写真を撮り始めた。起こさないようシャッター音は消してあるようだ。

 対して俺は中々直で見ることがないコアラを眺めていた。コアラは気持ちよさそうに寝ており、起きる気配は全くない。

 

「コアラって寝ているばっかりだな」

「この子たちはユーカリを食べるのよ。それを消化するためにたくさん寝る必要があるみたいよ」

 

 なんとなく口にした疑問をこれまた隣にいる姉が教えてくれた。

 

「へー、どれくらい寝るんだろうな」

「確か1日の内18時間ぐらいだそうよ」

「そんなに寝るのか。大変だな」


 寝てばかりの生活を送るコアラのことを考えていたところ、あることに気づく。

 俺は未だコアラをスマホのカメラで撮っている姉に顔を向けた。

 

「結梨姉さんは動物が好きなのか?」

「そうだけど、急にどうしたの?」

 

 結梨は一旦スマホから目を離し、俺を不思議そうな顔で見つめた。

 

「さっきのマヌルネコのところもそうだったけど、ぽんぽん俺の疑問に答えてくれるよな。まるで動物博士みたいだったぞ」

 

 俺の言葉に結梨は明るいベージュ色の髪を耳までかきあげた。

 

「まあ、可愛い動物は好きよ。けれど、それだけじゃないわ」

「というと?」

 

 俺が先を促すと、結梨は真剣な顔をして、胸に手を当てていた。

 

「動物園に来たら、和哉君が色々質問してくると思ったから、事前に予習をしておいたの。弟の質問に答えるのがお姉ちゃんよ」

「うん、まあ、そういうことか」

 

 真面目な顔で告げる姉に対して俺はどう答えればいいか分からない。

 

「まあ、でも、知らないことが知れて楽しかったよ。ありがとうな」

「もう一声お願いしていいかしら? 具体的に『結梨お姉ちゃんは物知りだね!』っていう感じでお願いするわ」

「『お願いするわ』じゃねえよ! こんな公衆の面前でそんな恥ずかしいことを言えるか!」

 

 小さい子供が言うならまだ微笑ましいが、高校生が言ったところで目の前にいる姉しか喜ばないだろう。

 

「大丈夫よ。みんな幸いコアラに夢中で誰も聞いていないわ」

「誰も聞いてなくても俺が恥ずかしいんだよ。勘弁してくれ」

「全く和哉君はワガママね」

 

 またしても俺がワガママを言っている扱いになってしまった。これは一体どういうことだろうか。

 姉に対して反論しようとしたその時である。

 

「あれ? 結梨と菅田?」

 

 聞き覚えのある声が聞こえて、俺と結梨はそちらを振り向いた。そこには西村がいた。

 

「おー、2人ともこんなところで会うなんて奇遇だね。姉弟仲良くお出かけかな?」

「ええ、その通りよ。沙優こそ、もしかして?」

「えへへ、もちろんそうだよ」

 

 嬉しそう顔を浮かべる西村の背後から見覚えのある男子が駆け寄ってくる。

 

「ごめん、沙優、遅くなったな。って、和哉と野上さん?」

 

 これまた学はきょとんとした顔で俺と結梨を見ていた。そして、「ああ」とどこか納得したような声を上げた。

 

「2人もお出かけなんだね。相変わらず仲がいいね」

 

 友達2人から仲良し判定をもらってしまった。

 

 

***

 

 

「偶然と友情を祝って乾杯!」

 

 そう言った西村は椅子から立ち上がって祝杯(ジュースが入ったグラス)を挙げる。俺と結梨と学も彼女に倣う。

 

「偶然を祝ってどうするんだ?」

「もう、菅田ったら、細かいことはいいんだよ!」

 

 俺の疑問をあっさりと拒絶して、西村は席についた。

 今俺たちがいるのは動物園内にあるレストランだ。学や西村と合流したところ、ちょうど昼時ということでここで食事をしていた。

 席はいつも通り俺の隣に結梨が、そして、対面に学と西村が座っている。

 

「まあ、でも、出会ったのが2人で良かったぞ。他の奴らに見つかったら、どうなると思ったからな」

「和哉は間違いなく学校中の男子から袋叩きにされるね」

 

 俺の不幸な未来を想像したのか学は苦笑いを浮かべる。

 

「安心して、和哉君。その時は私が体を張って守るわ」

「おっ、流石結梨だね。良いお姉ちゃんじゃん」

「当然よ。私は和哉君の姉なのだから」

 

 結梨は胸に手を当てて誇らしそうにしていた。西村から言われたこともあってかその顔はいつもより嬉しそうだ。

 

「そんなことをされても余計酷いことになりそうだ」

「火に油を注ぐことになりそうだね」

「おい、他人事だと思って面白がるな」

「実際他人事だからね」

 

 俺の言葉に学は苦笑しながらそう言った。

 

「ねえ、結梨たちはどの動物を見てきたの?」

「私たちは最初にマヌルネコを見てきたわ。ほら、その写真よ」

「わあ、可愛いねえ。私も行ってみたいな。あっ、私が撮った写真も見る?」

「ええ、もちろん」

 

 女子2人は動物の写真を見せ合いながら、楽しそうに話をしている。俺は目の前に座る友達へ視線を向ける。

 

「デートの邪魔をして悪かったな」

「別に構わないよ。沙優が楽しそうだからね。そっちこそ姉弟水入らずのところ、お邪魔しちゃったね」

「まあ、結梨だって楽しそうだからな」

 

 俺がそう答えると、学は目を丸くしていた。

 

「その反応は何だよ?」

「いや、和哉にしては素直に答えたなと思ってさ」

「え?」

「ほら、少し前だったら、俺の言ったことに反対したじゃないか? 誰が姉弟だって」

 

 友達からの指摘に俺は衝撃を受ける。確かに彼の言った通り、結梨とのことを言われても、俺は自然と受け答えをしていた。

 

「これは和哉も認めたってこと?」

「まあ、そうなんだろうな」

「おお、今度も素直だな」

「だって、俺の家まで来て料理を作ってくれたり、泊まったりするんだぞ。これはもう、あっ」

 

 俺がやらかしに気づいた時は遅かった。慌てて学に目を向けると、彼は呆気に取られた顔をしていた。

 

「え? 野上さんが和哉の家に泊まった……?」

「えっ! 結梨って、そんなことまでしているの!」

 

 そして、最悪なタイミングで西村にも届いてしまったようだ。彼女も驚きのあまり目を見開いていた。

 

「ええ、そうなの。和哉君の両親が不在で、お姉ちゃんは心配だったから泊まったの」

 

 一方の結梨は平然としていた。そして、平然とした顔で余計なことを言っていた。

 

「え? え? 2人は"そういう関係"なの?」

 

 西村は俺と結梨の顔を交互に見ていた。明らかに良くない勘違いをしている顔だ。

 

「え? ええ、そうよ」

「おい、待て! 結梨も適当な返事をするな!」

 

 いまいちよく分かっていないのに答える姉に俺はツッコミを入れる。

 その後、とんでもない勘違いをする友人2人に対して俺は必死に弁明した。

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