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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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32 お姉ちゃんが来たからもう大丈夫よ

「和哉君はゴールデンウィークの予定はあるの?」 

 それは学校からの帰り道のことだった。隣を歩く結梨がそう問いかけてきた。

 同い年である姉が言うように4月は終わりに近づき、まもなく5月の黄金に輝く連休に入る。

 

「まあ、学たちと遊びに行ったりするぐらいかな。あとは家でゴロゴロしてるよ」

 

 結梨にはこう言ったが、実際は家で手芸にじっくり取り掛かるつもりだ。普段は中々作れないものでも長い連休なら作ることができる。

 ……そんなことを正直に言うつもりはないが。

 

「休みだからといって、ダラダラしてはダメよ」

「ああ、分かっているよ」

 

 結梨の言葉に俺は素直に頷いた。ここで下手に言い訳をすれば厄介なことになるのは目に見えているからだ。

 

「ご両親も家にいるかしら?」

「大体そうだな。いや、明日と明後日はいないか」

「そうなの?」

「確か親戚の家に行くって言っていたな。俺は行かないけど」

 

 毎年ゴールデンウィークは遠くに住んでいる親戚を訪ねるというのが我が家の恒例行事だった。

 俺としては家でのんびり過ごしたいので、今年は親に言って免除させてもらったのだ。

 

「つまり、明日と明後日、和哉君は家で1人きりということかしら?」

「その通りだ。まあ、この年だと別に寂しくもないけど。あっ」

 

 姉からの質問に自然と答えていたその時だ。俺は自分が致命的な過ちを犯したことにに気づいた。

 同級生である姉の目がキラリと光った気がする。

 

「弟が1人でお留守番だなんてお姉ちゃんは心配だわ」

「おい、ちょっと待て」

「幸い明日と明後日は私も大した用事はないわね」

「俺は1人で大丈夫だから」

 

 俺の言葉は楽しそうに笑う姉には届かなかったようだ。結梨はまるで遠足を前にした子供のような顔をしていた。

 

「和哉君、明日、貴方の家にお邪魔していい?」

 

 そう言った結梨は俺に『はい』以外の返事を求めていないようだった。

 姉という生き物は一度暴走したら弟では決して止められない。以前淳史から聞いた言葉が頭に思い浮かんだ。

 

 

***

 

 

 連休初日、両親を見送った俺は、リビングにいた。既に手芸道具一式は自分の部屋のクローゼットに隠してある。

 その時、玄関のチャイムが鳴った。俺は玄関へと向かい、ドアを開ける。

 

「ただいま、和哉君」

 

 ドアを開けた先には楽しみで仕方がないと言いたげな顔をした結梨がいた。クラスメイトである姉は大きな荷物を抱えていた。

 

「そこはお邪魔しますだろ」

「弟の家に来たのならこう言うのが正解よ。お姉ちゃんが来たからもう大丈夫よ」

「まあ、上がってくれ」

 

 今日と明日の2日間、この姉と1つ屋根の下で過ごすことになる。

 

「寝室はこの部屋を使ってくれ。ある程度片付けたけど、散らかっていたら、悪いな」

 

 結梨を案内したのは普段誰も使っていない部屋である。昨夜、両親に友達が泊まるからと言って、俺が掃除をした。

 

「別に私はどこでも大丈夫よ。何なら和哉君の部屋でもいいわ」

 

 来て早々とんでもないことを言う姉である。

 

「それは流石に勘弁してくれ」

「何なら和哉君の部屋がいいわ」

「おい、わざわざ言い直すな。どれだけ俺の部屋に泊まりたいんだよ」

 

 俺が問いかけると、結梨は明るいベージュ色の髪をかきあげた。

 

「沙優は言っていたわ。姉と弟は同じ部屋で寝るものだと」

「そんな話は聞いたことがないな」

 

 内容も内容だし、出典元も怪しい。信用に値しないだろう。

 

「彼女も昔弟さんと一緒に寝ていたそうよ」

「『昔』って自分で言っているだろ。今は寝ていないに決まっているぞ」

 

 俺が事実を指摘してもなお結梨は引き下がらない。

 

「沙優曰く弟さんが寝るまで絵本を読み聞かせていたそうよ」

「おい、まさかそれを今夜、俺にやるつもりじゃないよな?」

 

 俺が寝るまで同級生から絵本を読み聞かせてもらう。意味不明な状況である。

 

「今の和哉にピッタリな本を持ってきたから、安心してちょうだい」

「そういう問題じゃないんだが!?」

 

 家に着いて数分しか経っていないのにも関わらず、このはしゃぎようである。どれだけ俺の家に泊まるのを楽しみにしていただろうか。

 そんなやり取りをしていると、昼の12時を告げるチャイムが聞こえてきた。

 

「和哉君は昼ご飯を食べたかしら?」

「言われた通りまだ食べてないぞ」

 

 俺の家に泊まるという話になって、結梨はご飯を作ることを譲らなかった。自分が家に来るまでご飯を食べないようにとこの姉から念押しされたほどだ。

 

「それじゃあ、お姉ちゃんが作るわね。台所を借りわ」

「ああ、冷蔵庫の中身は好きに使ってくれ」

 

 台所を使うのも冷蔵庫の食材を使うのも事前に両親の許可は取ってある。

 

「和哉君は何が食べたい? あっ、ハンバーグは夜ご飯に作るからダメよ」

 

 俺が何か言う前に姉から注意が入った。結梨の家での1件以来俺はよほどハンバーグ好きだと思われているらしい。まあ、否定はしないが。

 

「うーん、パスタが食べたいかな」

「パスタね。分かったわ」

 

 結梨は笑顔で応じると、早速台所へと向かった。姉の背中を見送ると、どうも体が落ち着かない。このまま俺は料理ができるのを待つだけていいのだろうか。

 気づけば俺は結梨を追いかけて、台所へと向かっていた。そこでは同い年である姉が冷蔵庫の中を覗いていた。

 

「和哉君、どうかした?」

 

 俺がいることに気づいたのか、結梨は俺の方へと顔を向けた。

 

「俺も手伝うよ」

「え?」

 

 俺の言葉に結梨は目を丸くした。

 

「ほら、流石にご飯を全部1人で作ってもらうのは申し訳ないし、一緒に作った方が早くできるだろ?」

 

 俺がそう告げると、結梨は優しく微笑んだ。

 

「そう言ってくれてお姉ちゃんは嬉しいわ。それなら食材を切るのをやってくれない?」

「分かった」

 

 姉から仕事を与えられた俺は台所へと足を踏み入れた。その足取りは不思議と軽い気がした。

 

 

***

 

 

 出来上がった料理をリビングのテーブルに運び、席についた。俺と結梨はテーブルを挟んで対面に座る。

 

「ご馳走様。とても美味しかったよ」

 

 結梨と作ったトマトクリームパスタはお店で出せるほど美味しい。流石料理上手の姉である。

 

「お粗末様。和哉君が手伝ってくれたお陰よ」

「俺は結梨姉さんの指示通りに動いただけだ」

「それでも貴方から声をかけてきたのよ。流石私の弟ね」

 

 結梨は優しい笑顔を俺に向けてきた。俺は褒められて嬉しいのと照れくさいので顔を逸らしてしまう。

 

「ご飯を食べた後はどうする?」

「そうね。映画を見たり、ゲームをしたりしたいのだけど」

 

 結梨は顎に手を当てて考え込んでいる。やがて目を輝かせて俺を見つめた。

 

「やっぱり和哉君のアルバムを見ていいかしら?」

「前に来た時に散々見たじゃないか」

 

 以前雨によって結梨が我が家に泊まった時のことを思い返す。あの時もこの姉は俺のアルバムに夢中だった。

 

「あの時はまだ小さい頃の和哉君しか見ていないわ。やっぱりお姉ちゃんとしては弟の全てを確認したいじゃない」

「その執念はどこから来るんだよ」


 やる気に満ちた結梨に俺は肩を落とす。クラスメイトである姉がこの状態になってしまったら、アルバムを見せる他ないだろう。

 

「はあ、分かったよ。持ってくるから待っててくれ」

「ええ、楽しみにしているわ」

 

 結梨はケーキを待つ子供のような顔をしていた。それほど俺のアルバムが楽しみなのだろうか。

 結局、同級生である姉は俺が持ってきたアルバムに夢中だった。その後も結梨おすすめの映画を見たり、「第2回姉弟対決よ」と言って、ゲームをやったりした。

 


***

 

 

「ご馳走様。どのハンバーグも美味しかったよ」

「ふふっ、和哉君がたくさん食べてくれて良かったわ」

 

 外は暗くなり、再びご飯の時間になった。夜ご飯は結梨の宣言通りハンバーグだ。

 俺の好物であるハンバーグを作るにあたって、同い年である姉の気合いの入りようはすさまじく、3種類ものハンバーグを作ってくれた。もちろんどれも高級店並みに美味しかった。

 

「昼ごはんに引き続き料理を手伝ってくれてありがとうね」

「夜ご飯も何かしなきゃと思っただけだ」

 

 その結果、俺はサラダやコンソメスープを任されたのだった。結梨のアドバイスもあり、なんとか自分の担当の料理を作ることができた。

 

「和哉君が作ってくれたサラダとスープも美味しかったわ」

「結梨姉さんの教え方が上手だったんだよ」

 

 俺が恥ずかしさを隠すあまりそう素直に伝えると、結梨は嬉しそうに微笑む。

 

「これならいつお婿に行っても大丈夫ね。お姉ちゃんは安心よ」

「何年先の話をしているんだ。今のところそんな予定も相手もいないぞ」

「なるほど。和哉君はまだお姉ちゃん離れしたくないということね」

「めちゃくちゃ語弊のある言い方をするのはやめろ」

 

 クラスメイトである姉の冗談に俺はツッコミを入れる。いや、冗談だよな。それにしては真剣な顔に見える。

 そんなやり取りを交わしながら、夜は更けていく。

 

 

***

 

 

「本当にお姉ちゃんと一緒に寝なくて大丈夫?」

「大丈夫に決まっているだろ。本当に勘弁してくれ」

 

 寝る準備は整い、後はそれぞれの部屋に戻るだけになった。

 

「そう、分かったわ。それなら、これだけは渡しておくわ」

 

 結梨は持ってきた鞄から何かを取り出す。それは本のようだ。本を受け取った俺は表紙を見る。

 

「何々、『お姉ちゃん大好きな弟を育てるための10の方法』だと?」

「あっ、ごめんなさい、間違えたわ」

 

 そう言って、結梨は俺から本を引ったくると、別の本を鞄から取り出した。そして、それを俺に渡す。

 

「和哉君が読むのはこっちよ。この前一緒に観た映画の小説版よ。面白いからぜひ読んでね」

「ああ、分かった。って、なるか! さっきの本は何なんだよ!」

 

 思わず人生初のノリツッコミをしてしまった。

 

「あれは気にしなくていいわ」

「めちゃくちゃ気になるんだが。俺は一体何をされるんだよ」

 

 題名の通りなら俺はお姉ちゃん大好きの弟にされてしまうのだろうか。そう考えた途端、背筋が凍る思いがする。

 

「明日も休みだからといって夜更かししたらダメよ」

「おい、俺の追及から逃れようとしているだろ」

 

 話を終わらせようとする気配を感じ取り、俺は姉にツッコミを入れる。この様子だと俺がいくら問い詰めても口を割らないようだ。

 

「おやすみなさい、和哉君」

「おやすみ、結梨姉さん」

 

 俺がそう言うと、結梨は満足そうな表情を浮かべた。

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