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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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24/30

24 お姉ちゃんについてきて

 俺の目の前には一面の桜が広がっていた。川沿いに植えられた桜は見頃を迎えている。

 

「綺麗ね」

 

 隣にいる結梨は明るいベージュ色の髪を耳にかき上げていた。

 

「満開だな」

「ええ、本当にね。和哉君と一緒に来れてよかったわ」

 

 そう言って、結梨は俺に向かって笑いかけた。満開の桜に負けないほど輝いた笑顔だった。

 

「おーい、2人ともこっちを向いて」

 

 後ろを振り返ると、静香さんがこちらに向かって手を振っていた。その隣には一眼レフカメラを構えた英作さんがいる。

 

「2人とも笑って」

 

 英作さんはカメラのレンズを俺と結梨に向けた。すると、結梨は俺に近づく。少し動くだけで触れてしまいそうなほど近い。そう考えた途端体が緊張してくる。

 

「ほら、和哉君。じっとしていなきゃダメよ」

「ああ、分かっているよ」

「じゃあ、撮るよー。1.2.3」

 

 カシャとシッターを切る音がする。俺と結梨は英作さんたちの方へと歩み寄った。

 

「2人とも良い笑顔だね」

 

 そう言って、英作さんは先程カメラで撮った写真を見せてくれた。そこには桜の木をバックにして、俺と結梨が笑っていた。

 

「やっぱり和哉君がピースしてるわ。アルバムで見た通りね」

「つい癖でやっちゃうんだよ」

「良い写真だね。良く撮れているよ」

 

 静香さんは満足そうにしていた。俺ももう一度写真に目を向ける。笑顔を浮かべる結梨の隣にはピースをして、笑っている俺がいた。自分でも想像以上に自然と笑えていた。

 

 

***

 

 

 4月の第1日曜日にあたる今日、俺と結梨は英作さん夫婦に連れられて、桜を見に来ていた。

 今いるのは俺たちの住んでいる街から車で走ること1時間ほどにある河川敷だ。ここは桜の名所で、川の両岸にはたくさんの桜の木が植えられている。今の時期は桜が満開のため、多くの人で賑わっていた。

 

「今日は誘ってくれてありがとうございます」

 

 俺は英作さんと静香さんに改めてお礼を言った。今日桜を見れたのは、先日ショッピングモールで静香さんと会った時、彼女から誘われたからだ。

 英作さんが運転する車に乗せてもらい、ここまで来た。

 

「こちらこそ来てくれてありがとうね。いつもは2人で来ているのだけれど、今年は人数が多い方がいいと思ったの」

「賑やかなのもいいね。それにこいつの出番もたくさんあるから」

 

 静香さんの言葉に英作さんは頷く。そして、手に持っていたカメラを持ち上げた。彼は俺の両親と同じくカメラが趣味だ。今日もカメラを持ってきて、桜や俺たちをたくさん撮っている。

 

「和哉君も何か良い写真が撮れたかな?」


 英作さんは俺に向かってにっこりと笑いかけた。彼の視線の先には俺の首からぶら下がっている一眼レフカメラがあった。

 

「ええ、お陰様で色々撮ってます。カメラを貸してくれてありがとうございます」

「僕のお下がりだけどね。それにしても和哉君もカメラにハマっているね。流石浩二さんたちの子供だね」

 

 英作さんが言う『浩二』とは俺の父さんの名前だ。英作さん曰く彼は俺の父さんと母さんからカメラを教わったという。

 

「ねえ、和哉君が撮った写真を私に見せてくれる?」

「私も見たいわ」

「良いですよ。えーと、こうやって」

 

 静香さんと結梨に請われて、英作さんに教わった通り、俺はカメラを操作する。すぐに今日俺が撮った写真が表示される。

 

「おお、やっぱりカメラで撮ると違うね。とても上手に撮れているね」

「まあ、カメラが自動的にピントを合わせているだけで俺はシャッターを押しているだけですから」

 

 静香さんに褒められて、気恥ずかしい気持ちになる。両親以外の大人からあまり褒められる経験がないからだ。

 

「それでも被写体や構図は撮る人が選ぶものだからね。うん、静香さんの言う通り良く撮れているよ」

 

 カメラの専門家である英作さんからもそう言われて、俺の心は春の陽気のように温かくなる。

 

「当然よ。私の弟なのだから」

「どうして、結梨が嬉しそうにしているんだ」

 

 俺の横で結梨はまるで自分が褒められたみたいな顔をしていた。そして、彼女はキラキラした目を俺に向けていた。

 

「ねえ、和哉君」

「どうした?」

 

 何か嫌な予感がする。結梨の顔を見て、そう感じた。

 

「そのカメラで私のことを撮ってくれないかしら?」

 

 同い年の姉は遊びに誘う子供のような顔でそう言った。

 

「写真ならさっき英作さんに撮ってもらっただろ」

「私は和哉君に撮って欲しいの。お姉ちゃんのことを撮ってくれない?」

 

 結梨が上目遣いでそう言った。同級生である姉からそんな顔をされたら、俺は後退りするしかなくなってしまう。

 

「フィルムの容量があるからそんなにたくさんは撮れないぞ」

「それだったら、絶好の撮影スポットを探しましょう。お姉ちゃんについてきて」

「えっ、ちょ、待てって!?」

 

 結梨は俺の腕を掴んで歩き出した。あっという間の出来事だった。俺にできることは転ばないように彼女についていくことだけだ。

 

「静香姉さん、英作さん、少し和哉君と一緒に回ってくるわ!」

 

 結梨は後ろを向いて、そう声を出した。思いの外大きな声だったので、周囲の人の視線を集めてしまう。

 

「分かった! 集合する時は連絡してね!」

 

 静香さんも結梨に負けないぐらいの声を発した。俺は後ろを振り返った。英作さん夫婦は俺たちのことを微笑ましい顔で見ていた。

 

 

***

 

 

 英作さんと静香さんから離れて結梨と2人きりになった。これまで同い年の姉と2人だけで出かけることは何度もあったのに、今日は何だか妙にドキドキする。

 どうしてだろうと思っていると、俺はその原因を見つけた。

 

「なあ、いつまで俺の腕を掴んでいるんだ?」

「あっ、そういえば、そうだったわね」

 

 そう言った結梨は楽しそうに笑ったままだった。未だ俺の腕を離さない。

 

「もう離してもいいだろ?」

「和哉君が迷子にならないようにと思ったのだけれど」

「誰が子供だ! フラフラしたりしないから大丈夫だ」

「貴方がそう言うなら仕方がないわね」

 

 結梨は名残惜しそうに俺の腕を離した。何故か彼女は名残惜しそうにしている。

 

「それでどういう写真が撮りたいんだ?」

「和哉君に任せるわ」

「は?」

 

 結梨の提案に今日1番で素っ頓狂な声を上げてしまった。

 

「貴方のセンスでお姉ちゃんを撮ってちょうだい」

 

 結梨はその笑顔と真逆の無茶振りを要求した。姉とは弟に無茶苦茶な要求をする生き物である。以前姉がいるクラスメイトから聞いた言葉だ。

 

「俺のセンスに任せていいのかよ?」

「静香姉さんたちから太鼓判を押されているのよ。大丈夫、和哉君ならきっとできるわ」

「期待と信頼が重いんだが」

 

 口ではそう言いつつも、俺の肩にそこまで重圧はかかってはいない。それどころか体中から力が湧き上がってくるようだ。

 

「まあ、やってみるよ。結梨姉さんからも褒められたからな」

「ふふ、ありがとうね」

 

 俺の言葉に結梨は嬉しそうな笑顔になった。

 

 

***

 

 

「うーん、ここでもないな」

 

 結梨と川沿いを歩いているが、中々撮影スポットは決まらない。

 

「私はさっきのところでもいいと思うわ」

「いや、あそこは人が多いだろう。それじゃ良い写真が撮れない」

 

 俺がそう告げると、結梨から呆れるような顔を向けられる。

 

「貴方って意外凝り性なところがあるのね。お姉ちゃんは驚いたわ」

「せっかくだから良いものを撮りたいだろ。ほら、あれだよ、あっ!」

 

 俺は慌てて口を閉じた。今自分が口にしようとしたことが信じられなかった。


『ほら、あれだよ、手芸と一緒で良いものを作りたくなるものなんだよ』

 

 こともあろうに俺は自分の趣味を口走りそうになった。家族以外絶対に秘密なあのことを。

 

「どうしたの?」

「いや、何でもない。それより写真のことだろ」

 

 結梨は不思議そうな顔をしていたが、俺は適当に誤魔化した。

 

「和哉君、もう桜並木は終わりみたいよ」

「え? あっ、本当だ」

 

 結梨の言葉に真正面を見る。俺の視線の先には桜の木はなかった。考え事をしていて全く気が付かなかった。

 

「このまま歩いてもしょうがないないから、引き返すわよ」

「ああ、そうだな」

 

 結梨の言う通りに踵を返したその時だった。俺の視界の端にチラリと何かが過った。

 

「結梨姉さん」

「どうしたの?」

「あれなんてどうだ?」


 俺はあるところを指差した。それは川を挟んだ対岸だ。そこには桜の木が1本だけポツリと植えられていた。

 

「あれだけ他の木と違うように見えるぞ」

「枝垂れ桜ね。確か橋はもう少し先に行ったところにあったかしら」

「あそこでいいか?」

「ええ、行きましょう。和哉君が選んだところだからね」

 

 俺の提案に結梨は嬉しそうに笑った。

 橋を渡り、川沿いを歩いて、俺たちは枝垂れ桜へと辿り着いた。この木だけ離れているためか、俺たち以外誰もいない。

 

「ここでいいかしら?」

「ああ、いや、もう少し木に寄ってくれ」

 

 そして、撮影会が始まった。桜の木のそばで結梨に立ってもらって、俺は指示を出す。まるでカメラマンになった気分だ。モデルのように美人な結梨だからなおさらそんな気持ちになる。

 

「表情はどうすればいいかしら?」

「そうだな、自然に笑ってくれ」

「どういう感じかしら? シチュエーションとかはある?」

 

 結梨は色々質問してくる。彼女も良いものにしたいと思っているようだ。それがなんだか嬉しく感じられる。

 

「そうだな。結梨が最近楽しかった時のことを思い浮かべてくれ」

「楽しかったこと……。分かったわ」

 

 結梨は頷くと、子供のように無邪気な笑顔になった。

 

「どうかしら?」

「あ、ああ。大丈夫だ。じゃあ、撮るぞ」

「お願いするわ」

 

 俺はシャッターを押そうとした。その時やや強い風が吹いた。結梨の明るいベージュ色の髪が揺れて、桜が舞い散る。

 その時、俺は迷わずシャッターを押した。すぐさま撮れた写真を確認する。

 

「どうかしら?」

 

 結梨が俺の元へと駆け寄った。

 

「よし! どうだ、綺麗に撮れたぞ」

「本当ね。良く撮れているわ。ありがとう、和哉君」

 

 写真を確認した結梨は満足そうな顔をしていた。彼女の言葉に俺もまた満たされた気持ちになった。

 後日英作さんから俺が撮った写真のデータが送られてきた。その中には結梨が写った写真もあった。

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