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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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22/30

22 お姉ちゃんは満足よ

「今夜は泊めてくれないかしら?」

「まあ、そうだよな。分かった」

 

 俺の返事に結梨は意外そうな顔をした。

 

「その顔は何だよ?」

「いえ、思ったよりあっさり許可してくれたから、驚いたわ」

「この雨の中で帰れと言えるほど俺は鬼じゃないぞ」

 

 家の外から未だに雨音が聞こえる。きっと少し歩いただけで全身がびしょ濡れになってしまうだろう。流石にそんなことは見過ごせない。

  

「泊まるのはいいとしてだな。ほら、準備とかはいいのか?」

 

 当たり前だが、俺の家に結梨が必要なものはない。彼女の着替え等があるはずがない。

 

「大体はさっきコンビニで買ってきたわ。あとは寝巻き代わりのものを貸してくれれば大丈夫よ」

「分かった。探してみる」

 

 俺は結梨が着る服を探しに行こうとした。それにしても事前に買っていたなんて結梨はえらい用意がいいな。まるで……。

 

「ちょっと待て」

「どうかした?」

 

 ある違和感を覚えた俺は足を止めて、結梨の方を向いた。彼女は不思議そうな顔でこちらを見ていた。

 

「どうして、コンビニで色々買っているんだ? 元々俺の家に泊まる予定なんてなかっただろ?」

 

 そもそも結梨が俺の家に来たのは夜ご飯を作るためだった。それが雨により急遽泊まることになった。つまり、今は想定外の状況のはずだ。

 けれど、結梨はコンビニで必要なものを買っていたという。まるで必要になることが分かっていたみたいに。

 この彼女の行動から考えるに導き出される結論は1つしかない。

 

「お前、最初から俺の家に泊まるつもりだっただろ?」

 

 俺はまるで犯人を名指しする探偵のような気分で結梨に告げた。同い年である姉は俺の言葉に反論せず、ただ黙って明るいベージュ色の髪を弄っていた。その態度が何よりの証拠だった。

 

「コンビニで和哉君の家に行く流れになった時に思いついたのよ」

「何をだ?」

「これは弟の家に泊まるチャンスだって」

「おい」

 

 自白した結梨の態度は実に堂々としたものだった。後悔も罪悪感も一切感じられない。

 

「だって、仕方がないじゃない。一度くらい和哉君の家に泊まってみたかったのよ」

 

 同級生である姉は悪びれることもなくそう言った。ここまではっきり言われると追及する気持ちは薄れてしまう。

 

「まあ、一度泊めるって言ったからな」

 

 結梨の意志に関係なくどちらにしても雨は降っている。俺にはこの姉を泊める以外選択肢はなかった。

 

「ありがとう。お姉ちゃんは嬉しいわ」

 

 俺の言葉に結梨は楽しそうな笑顔を浮かべた。まるで旅行が決まった時の子供のようだ。

 

「そうと決まれば和哉君の小さい頃の写真を見たいわ。見せてくれる?」

「お前は何を言っているんだ?」

「貴方の家にきたら2番目にやりたかったことなの」

 

 結梨は真面目な顔をしていた。それが2番目なら1番はなんだろうか。大方俺の両親に挨拶したいとかそんなところだろう。

 

「はあ、分かった。持ってくるから待っていてくれ」

「あら、今日の和哉君はとても素直ね」

「家の中をあちらこちら見られるよりはいいと思ったんだよ」

 

 見て回った挙句、俺の部屋に入ってしまうという最悪な事態は避けたい。それならアルバムでもなんでも渡して、じっとしてもらった方がいい。

 

「そんなことはしないわ」

「そう思うならこっちを見ろ」

 

 思わず少女漫画の男が言うようなセリフが飛び出してしまった。けれど、この姉なら絶対にやるという確信があった。

 

「持ってくるまで大人しくしてくれ」

「ええ、分かったわ」

 

 結梨の素直な返事を聞くと、俺は足早にリビングを出ていく。探すのに時間がかかるとリビングにいる姉が何をするか分からないからだ。

 

 

***

 

 

「小さい頃の和哉君はとても可愛いわね」

 

 結論から言うとアルバムを見せるのは間違っていた。アルバムを見ている姉のはしゃぎようは俺の想像以上だったからだ。

 

「あっ、またピースしているわ。貴方って写真を撮られる時いつもピースしてない?」

「癖なんだよ。放っておいてくれ」

「この写真の和哉君は泣いているわね。ああ、お姉ちゃんが慰めてあげたいわ」

「おい、マジな顔をして言うのはやめてくれ。冗談なのか本気なのか分からなくなるから」

 

 アルバムを眺めている結梨は初めて見るほど楽しそうだ。ひたすら子供の時の俺を可愛いと言いまくっている。

 俺としては女子から可愛いと言われるし、あまり掘り返して欲しくない過去があったりと複雑な気分だ。

 

「ああ、本当に悔しいわ」

 

 ひたすら昔の弟(俺)を堪能していた結梨は突如アルバムを持ったまま、歯を食いしばった。先程までと違い後悔を感じさせる表情だった。

 

「急にどうしたんだよ?」

「だって、この頃に貴方と姉弟になっていれば、小さい和哉君から『結梨お姉ちゃん!』って呼ばれていたのよ。どうして、私たちは姉弟じゃなかったのかしら?」

「……英作さんたちが結婚していなかったからだろうな」

 

 結梨のどうでもいい慟哭を俺は受け流す。

 

「もし、過去に戻ったら、静香姉さんたちに早く結婚するように言うわ」

「タイムスリップしたらやることがそれなのか?」

「当たり前じゃない」

「だから、キリッとした顔で言うな」

 

 結梨の暴走は止まることを知らない。現状はとても面倒くさいが、狙い通り同級生の姉はアルバムに夢中だ。それに、先程アルバムを探すついでに部屋を片付けておいた。

 これで万が一結梨に部屋に入られても問題ない。いや、それはそれで困るが。

 

「それにしても写真がたくさんあるわね。今夜で全部見れるかしら?」

「何を制覇するつもりだ。親が写真を撮るのが好きでな、よく撮っていたんだよ」

 

 俺の両親は2人とも大のカメラ好きだ。俺の学校行事や家族旅行のイベントはもちろんのこと、何気ない日常での写真も多い。

 

「和哉君が羨ましいわ」

 

 結梨がポツリと言葉を溢した。それは聞き逃してしまうほど小さなものだった。

 

「結梨?」

「……何でもないわ」

 

 そう言った結梨は力なく笑った。その笑顔の訳を俺は追及できなかった。アルバムにある俺の家族全員が仲良く笑っている写真が何故か目についた。

 

 

***

 

 

「見せてくれてありがとう。お姉ちゃんは満足よ」

「目一杯楽しんでくれたようで何よりだ」

 

 俺は結梨からアルバムを受け取った。俺が風呂掃除をしたり彼女が今夜着るものを探したりしている間もずっとアルバムを眺めていた。

 

「本当にリビングで寝てもいいのか?」

「ええ、元々私が無理を言って泊まるから」

 

 リビングには布団が敷かれている。結梨と話し合った結果、ここに寝ることになったのだ。

 

「てっきり俺の部屋で寝るとか言うと思ったぞ」

「あら? 和哉君がそう言うのなら布団を動かそうかしら」

「勘弁してくれ」

 

 こうして同じ屋根の下でいるだけでドキドキするのだ。同じ部屋で寝るのは俺の心臓がもたない。

 

「今風呂にお湯張っているから時間になったら入ってくれ」

「私が先に入っていいの?」

「ああ、お客様だから当然だろ」

 

 俺がそういうと同い年の姉は不満気な表情を見せた。いや、なんでだよ。


「なんだよ、その顔は?」

「ふー、和哉君もまだまだね」

 

 結梨はやれやれと言いたげな仕草をしていた。

 

「私は貴方のお姉ちゃんよ。"お客様"なんてよそよそしい呼び方はやめて欲しいわ」

「そう言われてもだな」

 

 結梨がいくら姉弟と言おうと実際に俺たちは一緒の家に住んでいないし、同じ時間を過ごしていない。一般的な姉弟とはかけ離れている印象が拭えない。

 

「分かったよ、結梨姉さん。姉さんが先に入っていいぞ」

 

 けれど、そんなことを目の前にいる姉に伝えても仕方がないだろう。俺は少し恥ずかしい気持ちになりながら、結梨の希望に応えた。

 

「それじゃあ、お姉ちゃんが先にお風呂をいただくわね」

 

 結梨は満足そうな顔を浮かべると、着替えを持って、風呂場へと向かった。そんな後ろ姿を俺は目で追っていた。

 リビングで1人きりになった俺はふうと息を吐いた。やはり家に家族以外の人がいると少し気が張ってしまう。

 いくら結梨が姉といってもそれは同じだ。あの姉が我が家に、正確に言うと、結梨が我が家にいることに俺が慣れる日は来るのだろうか。

 

「いや、慣れたら困るだろ。何を言っているんだ、俺は」

 

 誰もいないリビングで俺は独り言を呟いた。

 

 

***

 

 

 俺が風呂から上がりリビングに戻ると、結梨はリビングのソファに腰掛けていた。俺がリビングに入ってきたのに気づいたのか彼女はこちらを振り返った。

 

「おかえりなさい」

「……」

「どうしたの?」

「風呂から出ただけで『おかえり』って言われると違和感があるな」

「ふふっ、実は一度言ってみたかったの。なんだか姉弟らしくない?」

 

 結梨は嬉しそうに微笑んでいた。おかえりと言うのが姉らしいかは置いといて、確かに一緒に住んでいる家族感はある。

 

「ジャージ貸してくれてありがとうね」

 

 結梨は両腕を広げてそう言った。彼女が今着ているのは俺の貸したジャージだ。散々話し合った結果行き着いたのがこれである。どんな話し合いがあったのか言わないが、とりあえず白熱したとだけ言っておこう。

 

「ジャージ、ブカブカじゃないか?」

「ええ、これぐらいなら大丈夫よ」

 

 結梨は女子にしては背が高いが、それでも男物の服は少し大きかったようだ。上も下も裾を少し捲っている。

 

「なんだか男の子の服を着るなんて不思議な気分ね」

「変なことを言うのはやめろ」

「だって、そうでしょ? 自分じゃない匂いがするもの」

 

 結梨は自分の腕を顔に近づけて鼻をクンクンさせていた。

 

「ちょっ、匂いなんか嗅ぐなよ!」

「別に臭くないから安心して。むしろなんだか」

「それはそれでやめてくれ!」

 

 目の前で自分の匂いを嗅がれているのはとても恥ずかしい気持ちになる。結梨が何故平然としているのか分からない。

 

「もうこんな時間ね。そろそろ寝ましょうか」

「ああ、そうだな」

 

 時刻は夜遅くになり、普段の俺が寝る時間になった。そんな時間だというのにクラスメイトである姉がいるのは変な気分だ。

 

「和哉君、こっちにきてくれる?」

「どうした、何かあったのか?」

 

 結梨の手招きにつられて、俺はソファに座った。すると結梨が立ち上がって、俺の頭を撫でた。

 

「今日は泊めてくれてありがとうね」

「またこれか」

「ここなら誰にも見られる心配はないからいいでしょう?」

「……少しだけだぞ」

 

 俺の言葉に結梨は嬉しそうに笑った。俺はただ同い年である姉に頭を撫でられるがままになっていた。結局俺の限界が来るまで彼女は俺の頭を撫で続けていた。

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