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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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21/30

21 お姉ちゃんは見過ごせないわ

「うーん、どれにするか」

 

 学校からの帰り道、俺は通学路の途中にあるコンビニに寄っていた。今日の夜ご飯を買うためだ。

 今朝、母さんから今夜のご飯は自分で用意するようにと言われた。両親は出張で明日までいない。つまり、家で俺1人だ。

 自分で作るという手もあるが、やはり買ってきた方が手間がかからない。なので、俺は自分の食べる弁当を物色していた。

 予報によると、今夜は激しい雨が降るという。だから、早めに買って家に帰らないといけない。

 

「あら、和哉君?」

 

 その時聞き覚えのある声が耳に届いた。その瞬間、背筋に冷や汗が流れる。声のした方を向くと、同い年の姉がいた。

 

「よう、野上。お前も買い物か?」

 

 俺の問いかけに彼女は一瞬で顔を顰めた。どうして、そんな顔をされるのか分からない。

 

「何だよ?」

「名前」

 

 その指摘に俺は言葉に詰まる。軽く咳払いをして呼吸を整える。

 

「それは2人きりの時だけだろ」

「今は周りにいないから別に良いじゃない」

「はあ、分かったよ。結梨姉さん」

「ふふっ、よくできました」

 

 えらくご機嫌になった結梨は俺に向かって親指を上げた。満足そうな彼女と違い俺は未だ慣れない呼び方に戸惑っている。

 結梨と話し合った結果、名前で呼び合うのは2人だけの時にした。誰かの耳に入れば学校中に噂が広がるのは目に見えている。

 目立ちたくない俺の意思を結梨は尊重してくれた。まあ、その代わり周りに人目がない時はこうやって名前で呼ぶように催促してくるが。

 

「和哉君は何を買いに来たの? って、その棚を見れば分かるわ」

 

 野上はジトっとした視線を俺に向けた。その視線を浴びているだけで叱られているような気持ちになる。

 

「今日は親がいないからさ、簡単に済ませようとな」

「料理をすればいいじゃない。私が教えてから時々やっているのでしょう」

「今日ぐらいはいいじゃないか」

 

 結梨に教えてもらったお陰で料理を始めたが、それでも気分が乗らない時がある。今日がまさにその時だ。

 

「ダメよ。コンビニの弁当じゃ体に良くないわ」

 

 コンビニの店内にいながら、結梨はコンビニの悪口を堂々と言った。近くで店員が聞いていないか内心ハラハラする。

 

「じゃあ、どうすればいいんだよ?」

「それもそうね……」

 

 結梨は顎に手を当てて考え込んでいた。やがて手を合わせて、楽しそうな笑みを浮かべた。

 

「そうだわ! 私が和哉君の家に行って夜ご飯を作りましょう!」

「は?」

「そうすれば和哉君はまともな食事が取れるし、私は和哉君の家に行けるしで一石二鳥じゃない」

「お前が俺の家に行きたいだけだろ」

「そんなことはないわ」

 

 俺の指摘を結梨は真面目な表情で受け流した。言っている内容はともかく顔だけはとてもキリっとしている。

 

「そうと決まれば早速行きましょう」

「まだ俺はいいとは言ってないが!?」

「早くしないと晩御飯の準備に間に合わないわ」

 

 結梨は俺の袖をぐいぐいと引っ張る。どれだけ俺の家に行きたいのか。

 

「でも、今日、俺の両親は家にいないぞ」

「それは残念、いえ、何でもないわ」

「今『残念』ってはっきり言ったぞ」

 

 未だ俺の両親に挨拶するのを諦めていない結梨だった。なおも俺の袖を掴んでいた結梨だったが、不意に彼女の動きがピタリと止まる。

 

「ご両親がいないということは和哉君は家で1人きりということかしら?」

「まあ、そうだな」

 

 俺が肯定すると、結梨は目を見開いた。その拍子に彼女の手が俺の袖から離れる。そして、結梨は拳を握りしめた。

 

「なおさらご飯を作りにいくわ」

「どうして、そうなる?」

 

 結梨が決意を新たにしてしまった。俺はその状況についていけない。

 

「だって、家で和哉君は1人なのでしょう? 弟が1人寂しくご飯を食べるなんてお姉ちゃんは見過ごせないわ」

「別に寂しくないわ! 俺のことを何歳だと思っているんだよ」

「でも、安心してちょうだい。お姉ちゃんが一緒にいてあげるから」

「俺の話を聞けよ!」

 

 思わずどこぞの曲の歌詞みたいなことを叫んでしまった俺と結梨の争いの結果、無事に?結梨は俺の家に行くことになった。

 

「和哉君の家に行く前に、コンビニで買い物してもいいかしら?」

「好きにしてくれ」

 

 

***

 

 

「和哉君は何が食べたい?」

 

 我が家の台所に立った結梨が俺に問いかけてくる。あの後、結梨に引っ張られる形で帰宅した。

 

「冷蔵庫のものは自由に使っていいのよね?」

「ああ、さっき母さんに聞いたから問題ない」

 

 ちなみに母さんには友達が遊びに来て料理をすることになったと伝えておいた。真実を話すと面倒くさいことになるからだ。

 

「言っておくけど、ハンバーグはなしよ」

「今日の弁当に入っていたもんな」

 

 頭の中で昼ご飯のことを思い返す。流石に1日でハンバーグを2回食べるのはどうかと思う。かと言って、何でもいいと答えるのも結梨が困るだろう。

 俺が考えている内に、結梨は冷蔵庫の中を探っていた。

 

「豚肉や鶏肉は揃っているわね。卵や野菜も一通りあった。やっぱり食べ盛りの和哉君はお肉がいいかしら」

 

 結梨は冷蔵庫の中を覗き込みながら、何やら呟いていた。その瞬間、俺の頭の中で閃くものがあった。

 

「親子丼にするか」

「親子丼?」

 

 俺の言葉が聞こえたのか結梨はこちらを振り返った。

 

「鶏肉と卵があるんだろ? それならちょうどいいじゃないか」

「確かにそうね」

 

 結梨は顎に手を当てて考え込んでいる。彼女の頭の中で何かしらの計算をしているのだろう。やがて顔を上げて、俺の方へと視線を向けた。

 

「分かったわ。親子丼にしましょう」

「よし。じゃあ俺も一緒に料理するよ」

 

 俺は結梨の横に立った。隣にいる同級生の姉は驚くの表情を浮かべている。

 

「あら? 和哉君もするの?」

「弁当も作ってもらって、その上夜ご飯も作ってくれるんだ。流石にこれぐらいやらないと申し訳ないよ」

「それじゃあ、お姉ちゃんが親子丼の作り方を教えてあげるわ」

 

 結梨はとても嬉しそうだった。弟(俺)にいいところを見せる時だと考えているのだろう。

 その後、俺と結梨は台所に立って、料理を進めた。

 

 

***

 

 

「ご馳走様」

「お粗末様でした」

 

 俺と結梨はリビングのテーブルに向かい合わせで座っている。料理は同い年の姉のレクチャーを受けながら、無事に作ることができた。

 

「上手にできていたわ。流石和哉君ね」

「結梨姉さんの教え方が良かっただけだ」

 

 照れ臭さを感じながら俺がそう伝えると結梨は満足そうな顔をした。以前の餃子作りの時もそうだが、目の前にいる同級生である姉は中々教えるのが上手だ。

 

「ありがとうね。それだったら、また何か一緒に作りましょう」

「まあ、機会があればな」

 

 結梨の提案を俺はさりげなく受け流す。下手に頷いてしまうと毎日でも家にやってきそうだ。

 

「洗い物は俺がしとくよ」

「いえ、お姉ちゃんが」

「結梨姉さんは休んでいてくれ」

「ええ! お姉ちゃん思いの弟に甘えることにするわ」

 

 それにしてもこの後どうするべきか。俺は食器を洗いながら、考えていた。俺に夜ご飯を作ってくれるという結梨の目的は達成された。

 では、お帰りくださいだなんて薄情だろう。とりあえず一息ついてもらった方がいい。

 洗い物を終えた俺は、再びリビングに戻った。

 

「そういえば、せっかくだし、和哉君の部屋に上がってもいいかしら?」

「え?」

 

 リビングに戻ってきた俺は結梨から突然の提案を告げられた。

 

「急にどういうことだ?」

「この前お見舞いに来てから和哉君の部屋に入っていないの。久しぶりに見たいんだけど、ダメかしら?」

「それは……」

 

 結梨の問いかけに俺はどう答えるべきか迷う。何故なら今俺の部屋には趣味の手芸道具が置いてある。あれを人に見られるわけにはいかない。

 

「ちょっと、今は部屋が散らかっていてな。悪いんだけど、また今度にしてくれないか?」

「それなら私が掃除してあげるわ」

「そ、それは流石に申し訳ないぞ」

「別に気にしなくていいわ。弟の世話を焼くのがお姉ちゃんの役目だから」

「そうは言われても……」

 

 結梨は中々引き下がらない。この姉はどれだけ俺の部屋を見たいのだろう。いっそ一度俺だけ部屋に行き、手芸道具の片付けをしていこうか。

 そう考えた時である。突然結梨は何かに気づいたような顔をした。そして、俺を気遣わしそうな目で見ていた。

 

「いえ、やっぱり、今日はやめておくわ」

「おお、そうなのか」

 

 あれほど行きたそうにしていた矢先の突然の方針転換だ。俺にとっては有難いが、不思議でならない。

 

「ほら、和哉君も年頃だからね。沙優も言っていたわ。お姉ちゃんが無闇矢鱈と思春期の弟の部屋に入ってはいけないって」

「へー、西村がな」

 

 同い年の姉からまさかの友達の名前が出てきた。よく分からないが、結梨は西村から言われたことを守っているようだ。まさか西村に助けられる日が来るとは思わなかった。

 それにしても一体全体どういうことだ。年頃、思春期の男子……。その瞬間、俺の頭の中で閃くものがあった。

 

「違うぞ! 結梨姉さんが思っているものはないからな!」

「隠さなくても大丈夫よ。お姉ちゃんは分かっているから」

「いや、分かってないから! 絶対に勘違いしてるぞ!」

 

 姉の誤解を解こうと必死になった時だった。家の外から何やら音がする。これは聞き慣れた音だ。まるで雨の日によく聞く音に似ている。

 

「って、雨じゃないか!」

 

 俺は慌てて玄関まで行き、家のドアを開ける。外はバケツをひっくり返したような土砂降りだった。それに気づいた瞬間、俺の心中はひどく胸騒ぎがした。

 

「あら、すごい雨ね」

 

 俺の後ろから呑気な姉の声が聞こえる。俺はゆっくりと後ろを振り返る。

 

「こんなに降っていたら帰るのは無理そうね」

「……まあそうだよな」

「和哉君、申し訳ないけれど」

 

 結梨はチラリと俺に視線を向ける。その顔はどこか楽しそうだった。

 

「今夜は泊めてくれないかしら?」

 

 そう期待を込めた表情を俺に向けていた。

次回更新より投稿する時間を後ろ倒しにします。

22時37分頃の予定です。

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