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親戚の結婚式に参列したら同い年の姉ができました  作者: 海外空史


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19/30

19 お姉ちゃんは信じているわ

「素晴らしい姉弟の姿を見せてもらったよ」

「学、一発殴っていいか?」

「ごめんごめん。ただの冗談だから、勘弁してくれ」

 

 俺の言葉に学は苦笑した。俺と学はキッチンから出て、リビングで大人しく待っているところだ。野上と西村は料理中である。

 

「野上さんが作る料理ってどんな感じだ?」

「普通にお店で出せるぐらい美味いぞ」

 

 野上が作ってくれた弁当は何度も食べたことがあるが、材料費だけ渡すのが申し訳なく思ってしまうほど美味しい。

 

「それは楽しみだな」

 

 学は期待を込めた目でキッチンの方を見ていた。

 

「西村はどうだ?」

「美味しいに決まっているだろ!」

 

 学は掴みかからんばかりの剣幕で俺に迫った。彼女のこととなると豹変するのは相変わらずである。

 

「それぐらい分かるぞ。いつも美味しそうに食べているからな」

「いくら褒めても和哉にはやらないからな」

 

 学は断固とした態度で俺に言い放った。

 

「だから、そうじゃねえよ。ほら、西村がノリで変なものを作らないか心配なんだよ」

 

 面白そうなことに目がない彼女のことだ。普通のハンバーグが出てくる可能性の方が低いだろう。

 

「それは野上さんを信じよう」

 

 学は真剣な顔をしていた。彼氏であるこの友達にも愛しの恋人の性癖(辞書的な意味)は制御しきれないようだ。

 

「野上がいるなら大丈夫だな」

 

 ここ最近イレギュラーな姿を見せる野上だが、学校での彼女は冷静沈着で大人びたものだ。西村が変なことをやらかそうとしても止めてくれるだろう。

 そんなことを考えていると、学から生温かい視線を感じる。


「何だよ?」

「やっぱりお前たちは良い姉弟だよ」

「急に何を言っているんだ?」

 

 抗議の意味を込めて学の顔をじっと見ると、彼は微笑ましい顔を浮かべた。

 

「だって、野上さんがいればなんとかなるって思っているんだろ? これって和哉が野上さんを信頼しているってことだよ」

「俺が野上を信頼……」

 

 学が言ったことを噛み砕くように口にする。確かに先程俺が言ったことは自分でも驚くほど自然に出ていた。そして、学から言われたことにそれほど違和感を覚えていないことに気づいた。

 

「さっき、俺と沙優のいじりを止めてくれたことといい、今の和哉の言ったことといい、そんな姿を見ていると、2人は良い姉弟だと思うよ」

「そうか……、そうなのか」

 

 学の言葉を受け止めつつも、俺は別のことを考えていた。今さっき学が言ったことを野上が聞けば、彼女はどんな反応をするだろうか。

 これ以上ないほど喜ぶだろうか、それともドヤ顔を俺に向けてくるだろうか。野上の反応をとても気になっている自分がいることに俺は気づいた。

 

 

***

 

 

 しばらく待っていると、キッチンから足音が聞こえてくる。リビングに1人の女子が入ってきた。

 

「お待たせ、2人とも。もうすぐできるわ」

 

 野上はそう言いながら、テーブルに食器を並べていく。その姿を見て、俺と学は慌ててテーブルへと近づいていく。

 

「俺たちも手伝うよ」

「ありがとう。じゃあ、キッチンから料理を運んでくれる?」

「分かった」

 

 俺と学はキッチンへと入っていく。そこには西村が食器に料理を盛り付けていた。俺たちが来たことに気づいたのか西村はこちらを振り向いた。

 

「あっ、2人ともどうしたの?」

「料理を運ぼうと思ってさ」

「これを運べばいいのか?」

 

 俺は料理が盛り付けられた食器を指差した。

 

「うん、お願いするよ」

「了解。それじゃあ、和哉はこっちを持ってくれ」

「ああ」

 

 俺と学は手分けして、料理をリビングまで運んだ。

 

「ふっふっふっ」

 

 そんな俺たちを見て、西村は何やら楽しそうな声を上げていた。

 

「どれも美味しそうだ」

 

 料理が並べられたテーブルを眺めて、学はそう言った。料理を運んだテーブルを囲んで、俺たち4人座っている。

 ちなみに、俺と野上が、学と西村が隣同士といった席順だ。女子2人の強い希望によりそうなった。

 俺のリクエストであるメインのハンバーグはもちろん、付け合わせの生野菜のサラダや透き通るようなオニオンスープ、さらにはご飯とテーブルロールも置いてある。

 

「ご飯もパンも両方あるんだな」

「ええ、沙優と相談した結果よ」

「ご飯もパンもどっちもあった方がいいと思ったからね」

 

 女子2人は誇らしそうに胸を張った。確かにファミレスとかでもご飯とパンを選べるようになっている。

 野上と西村の気遣いを感じられた。ちなみに俺はご飯派だ。

 

「2人ともありがとう。本当にハンバーグは2種類作ってくれたんだね」

 

 ハンバーグを見ていた学は、野上と西村に問いかけた。俺も自分の目の前に置かれたハンバーグを見つめる。

 1つはキノコ入りのデミグラスソースがかかったもので、もう1つは大根おろしと醤油が載せられた和風のものだった。どちらも普通に美味しそうだ。西村の悪ノリが発動されなくて、俺はホッとした。

 

「沙優とそれぞれ別々で作ったから、そこまで手間でもないわ」

「へー、野上が作ったのはどっちのハンバーグなんだ?」

「ふっふっふっ、それはだね」

 

 俺の問いかけに突如西村が椅子から立ち上がった。彼女は両手を腰に当てて、俺と学を見下ろしていた。

 

「ここでクイズです!」

 

 どこかしらでデデンという音が鳴ったような気がした。俺と学が困惑したような顔で西村を見ているのに対して、野上は平然としていた。

 

「私と結梨がそれぞれで作ったハンバーグはどれなのか。それを学と菅田に当ててもらいます!」

 

 そう楽しそうな笑顔で西村は宣言した。野上が何も言わないことを見るに、彼女もおそらく、いや、確実に一枚噛んでいるだろう。流石に発案者は西村だと思われるが。

 

「おい、学」

 

 俺は目の前に座っている西村の彼氏に視線を向けた。

 

「そうだよな。それでこそ沙優だ」

 

 学は納得と諦めが入り混ざった表情で恋人を見ていた。この状況に頭を抱えそうになっていると、不意に肩に手が置かれた。今こんなことをするのは位置的にも1人しかいない。

 隣に目を向けると野上が真剣な顔で俺を真っ直ぐに見ていた。

 

「和哉君ならきっと当てられる。お姉ちゃんは信じているわ」

 

 隣の姉から重すぎる期待を寄せられた。どうやら俺の逃げ場はどこにも無いようだ。

 

 

***

 

 

 野上が作ってくれたハンバーグはどちらなのか。それを確かめるべく、俺はハンバーグを隅から隅まで見回した。

 

「……食べてから答えてもいいよな?」

 

 その結果、何も分からないことが判明した。

 

「流石に見た目だけじゃ当てられないよ」

 

 同じく学も白旗を上げている。男子2人からの提案に女子2人は視線を合わせた。

 

「確かに見た目だけは難しいわね」

「それはそうだね。でも、食べてみれば絶対に分かると思うよ」

 

 無事に女子2人から許可が下りた。と同時に当てなければいけない強いプレッシャーがかけられてしまった。

 

「和哉、腹を括ろう」

「そんな自信があるのか?」

「大好きな恋人やお姉さんの味なら当てられる」

「おい、誰が大好きなお姉さんだ」

 

 学が余計なことを言ったせいで野上は目を輝かせているに違いない。隣に目を向けなくても分かる。

 

「まあ、やるしかないか」

「頑張ってね、和哉君。大好きなお姉ちゃんが応援しているわ」

「それはやめろ。学が勝手に言っているだけだからな」

 

 やはりクラスメイトである姉がとんでもない勘違いをしてしまった。

 

「学なら当てられるよ。頑張って!」

「ああ、当ててみせるさ」

 

 目の前に座っている恋人たちも楽しそうに言葉を交わしている。

 俺はまずデミグラスのハンバーグを口に入れる。コクのある風味とキノコと肉の旨味が口の中で広がる。ゆっくりと咀嚼し、文字通り吟味する。

 

「美味いな」

「もう1つも食べてみて」

 

 間髪入れず野上は勧めてくる。できればもう少し味わいたいが、デミグラスのハンバーグはまだ残っているから、また食べればいいだろう。

 俺は和風のハンバーグを口に入れた。先程と違い、醤油の風味でそれでいてあっさりとした肉の旨味が広がる。こちらも同じように噛み締める。よく噛んで味わった後、ハンバーグを飲み込んだ。

 

「どうかしら?」

 

 その途端隣にいる姉を名乗る同級生が尋ねてくる。だから、もう少しゆっくりと味わいのだが。

 

「そうだな」

 

 俺はテーブルの上に箸を置いた。そして、野上の方へと顔を向ける。

 

「デミグラスの方が野上が作ったやつだろ?」

「ええ! そうよ!」

 

 俺の言葉に野上は顔を輝かせた。その顔を見て、俺は心から安心した。彼女の期待に応えることができて、ホッとしたのだ。

 

「沙優が作ったのは和風の方だね」

「流石、学! 分かってくれると思った!」

 

 喜びの笑みを浮かべた西村は隣に座っている学に抱きついた。友達とはいえ他人の家で抱きしめるなんて中々お熱いカップルである。

 そんなどうでもいいことを考えていると、不意に頭に手が置かれた。隣に目を向けると、野上が腕を伸ばして、俺の頭を撫でていた。

 

「よくできました。まさか一口目で当てるなんて思わなかったわ」

「まあ、なんとなく直感だ」

 

 デミグラスのハンバーグを食べた瞬間、その美味しさはもちろんのことどこか安心するような味を感じた。まるで旅行から家に帰ってきた時の落ち着くような雰囲気がしたのだ。

 

「ふふ、良い子ね」

「ちょっ、子供扱いはやめてくれないか?」

「頑張った弟を褒めるのもお姉ちゃんとして大事なことよ」

 

 そう言って、野上は子供のように無邪気に笑っていた。その笑顔を見て、俺の心はとても落ち着いた。

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