変事
「あ”ーー、あ”ーー、あ”ーー」
「あ”ーー、あ”ーー、あ”ーー」
男が走っている、手を振り上げ下し、また振り上げながら
叫んでいる、口は真四角に開き目は滂沱と涙を流し
顔は頭から左へとやや斜めにずれている
林の中を木々の間の落ち葉の上を走っている
「あ”ーーー、あ”ーーー、あ”ーーー、あ”ーーー、あ”ーーー」
「あ”ーーー、あ”ーーー、あ”ーーー、あ”ーーー、あ”ーーー」
「ドンッ」
「ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンッ」
何だ
目を開く、暗闇、天井、音がする、誰かが戸を叩いている
尋常なる様子でない
「シルフィ!」
アシスタントAIを呼ぶ
「こんにちは、タロウ、NC-H17-622579が戸を叩いています
静かにするように呼びかけます」
音が止んだ
「私が確認します」
ホンが外に出ていく、デウーゾも起き出してきた
青ざめた表情をホンの背に向けている
ホンが戻ってくる、後ろにタロウがついてくる
頭部が歪んでいる、とめども無く涙を流している
アシスタントAIの声が響く
「タロウのメモリーが応答しません、状況は不明です」
「あ”、あ”、あ”、いったんだ、彼女が、子供が
お金が、騙されて、母親も、遠くに、何も、無くなって」
「オーバーフローだ」
私は言った
「感情演算回路が過負荷になっている、待とう」
「数日が必要です」
アシスタントAIが言った
長すぎる
「どこで何があったか推定できるか?」
「位置情報をプロットします」
机の上に立体映像が表れる、タロウの移動経路がプロットされる
この基地を出て北東のハラフ13橋へ移動
橋を渡り南南東へ長距離を移動、一直線に近い
時々経路から左右にズレるのは障害物を避けていると思われる
20741、74611地点にて停止、ハラフ3地域との境界線、エリダニ川の左岸
そこから西へ移動、東へ移動、また西へ移動
これを繰り返しながら徐々に北へ移動していく、通常の巡航である
ときどき停止するのはアノマロカリス
またはスライムの位置をプロットしているためだと思われる
20732、74615地点にて停止、光点は止まり続ける、早回し
3時間16分29秒後、光点が急速に移動し始める
一直線にハラフ13橋へ、そこから此の基地へ
「わかった、これから20732、74615地点に向かう」
ホンが言う
「危険が伴う可能性があります、私が単独で向かいます」
「私の意識はクラウド上にある、危険は無い」
デウーゾに向かって言う
「君はどうだ?」
デウーゾは自身の頭を指して
「俺はここだ」
「私とホンで行く、ここをたのむ」
「わかった、賛成だ」




