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異世界バトロワ ー天上の大罪ー  作者: 96tuki
鳳凰の翼
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「いや……今動いたら多分……」

 美月は森へ、晴祥は偵察に、雫は貰ったお小遣いでローグタウンを満喫すべく各々単独で動くことに。残ったアルはキルスの病室で本を読んでいた。読んでいるのはこのあたりの地理についての本。しばらくして、ある部分でページをめくる指が止まった。

「ねえ、キルスさん。ちょっと聞いてもいい?」

「どうぞお構いなく。こんな事態でもこの怪我じゃ、しばらくは暇だからな」

 アルは本の一ページをキルスに見せる。

「ヴェルン王国って、そんなに警戒しなきゃなんない国なの?」

 そこに書かれていたのは、ちいさく線で囲まれた国。そこにさらに小さくヴェルンと記されている。基本的に、国の強さは国土の影響を大きく受ける。なぜなら、例外もあるが、ほとんどの場合は国土が大きければ得られる資源が増えるからだ。周囲の森を所有しているガウス王国と比べると、その差は圧倒的。なのに、なぜここまで警戒するのかが、アルにとって疑問だった。キルスも、質問の意図をすぐに理解する。

「ああ、取るに足らない相手だったよ……5年前までは」

「何かあったの?」

「具体的なことは何もわからないが、その時を境に急激に力をつけ始めた。突然武力が跳ね上がり、戦争で勝利を重ねていった。例えるなら、たった一年でモンゴルがアメリカ並みに強くなるって感じかな」

「それは……急成長ってレベルじゃないね」

「ついでに言えば、ヴェルンには目立った特産品もない。……君はこれをどう見る?」

「ええ……どうって言われても……うーん」

 突然の問いに、アルは頭を悩ませる。どう考えたってありえないとしか言いようがない事実の羅列。暫く考えた後、アルはこの世界のことを踏まえて組み立てた推測を立てた。

「まあ、ありえないよね。あるとしたら……神が何らかの介入をしたとか? 例えば……僕たちみたいな人たちが現れたり」

 キルスは、その答えを待っていたと言わんばかりに目を輝かせる。それもそのはず、その答えはキルスが長い間考えていた仮説だったからだ。

 この世界は元の世界と違って実在性のある神がいる。だが、そんな世界でも国の中枢で神の介入が〜とか、異世界から来た人間が〜とか言ったら、相手にされないどころか給料代わりに精神科への手紙が渡されてしまう。しかしそれは当然のことで、相手がこの世界の人間なら、ほとんどがその対応をするだろう。周囲が提示する、ほぼこじつけのような現実的な理由を見るたびに、サンプルが一人だけの狭い視野で考えられた主観まみれの仮説に対する自信がなくなっていた。だが、今ここで自分と同じ世界の人間が同じ推測をした。まだサンプルが少ないことに変わりはないが、そのお陰で仮説に対する自信が、部隊で対策を打てるレベルに戻った。

 キルスはおもむろにベッドから立ち上がり、病室の扉に手をかけた。

「いや……今動いたら多分……」

 突然の行動に、アルは戸惑いながらも静止をかけようとする。捲くられた裾から見える皮膚は、火炎で焼かれたとは思えないほど綺麗だった。先程の回復魔法のお蔭なのだろう。だが、回復魔法では痛みまで治すことは出来ない。今キルスには全身火傷の痛みが残っているはずなのに、立ち振舞からはそれが一切感じられなかった。

「すまない。急用が出来た。医者には上手いこと言っといてくれ」

 そう言ってキルスは颯爽と部屋を出た。キルスがこれからする苦労は晴祥が帰って来たとき、一瞬にして水泡に帰すことになるが、それを知る由もなかった。

 アルは愕然としたまま部屋に取り残される。そのとき、久しぶりに、頭の中に声が響いた。

『ようやく一人になったわけだが……今起きている異変に気づいてるか?』

 その声の主は、ウリア。この世界に来た瞬間、アルの心に入り込んだ悪魔の王。太古の時代に滅ぼされた自己の復活のため、アルに力を貸している。二人の仲は、さほど良くない。というか、アルが一方的に嫌っている。悲惨なことに、ウリアはその事実に一切気づいていない。

 普段は、天界の神々に存在を悟られないよう、一切の干渉を経っているが、隙を見て偶に声をかけてくる。

「出てきたってことは、今は監視大丈夫なんだね」

『それどころか、今日になってからずっと大丈夫だ』

「ああ、それが異変ってこと? 全然気づかなかったやー」

 アルは普段からは想像もつかないほど下がりきったテンションと低い声で応答する。しかしウリアは、興味のなさが透けて見える反応でもお構いなしに話を続けた。

『それだけじゃない。恐らく、お前とあの小僧を除いた全員に、神力……小僧が使っていた力が与えられている』

 この言葉には、流石に反応せざるを得なかった。アルは一度神力の圧倒的な強さを目の当たりにしている。そんな力が、自分以外全員に配られたとなったら100人殺して元の世界に戻るどころか、生き残ることすら怪しくなる。

 危機感を覚えたアルは、元々もっている美月はいいとしても、何故自分与えられなかったのかについて考え始めた。理由として浮かんでくるのは一つだけ。それは、ウリアの存在。……ここで一つ疑問が残る。これは、ウリアに気づいていなければ取れない対応だ。だが聞くところによると、神々にとってウリアは復活させてはいけない禁断そのもの。禁断に対してこの処置はあまりに弱い気がする。だとしたら、どこか前提条件が間違っていることになる。ウリアの存在がバレているのは確定のため、それ以外。ここでアルは、直前のウリアの発言を思い出した。

『それどころか、今日になってからずっと大丈夫だ』

 わざわざ、監視の目が外れている。美月にも渡っていない神力。美月は、参加者の中で一番ネムと関わりがあった。あの力も、それが理由だろう。

 ここでウリアから更に、アルの推測を推し進める情報が投下された。

『更に言えば、あの小僧の中にいたそのものは封印された。つまり、圧倒的に弱体化してるってことだ。ちなみに、与えられた量は今の小僧にも満たない』

 この事実によって、アルは一つの仮説を閃いた。

「もしかして神々……僕らの味方してる?」

『多分な。このチャンスを逃すわけにはいかない。戦争に乗じて殺しまくるぞ』

「指図されるのは嫌だけど、結構ありかも」

 アルは閃いた仮説を胸のうちにしまい、腰のナイフに手を伸ばす。久しぶりに味わった、命のやり取りの感触に気が引き締まる。

 心に入り込まれたとはいえ、考えが全て共有されるわけではない。だが、ウリアの腹の中はわかっているつもりだ。

 全てが自分優位に回っていると思うな。お前程度が考えた浅い策を台無しにすることなんて、僕にとっては朝飯前なんだから。 

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