「相性最悪」
「おい、どこ行ってるんだお前は! どう考えても美月の気配はこっちからしてるだろ!」
「なんの根拠があってそんなこと言ってるのさ。……ってか気配分別できるのキモすぎ!」
千春を撃破した後、森の中でアルと晴祥は、美月の行方について言いあっていた。最初に美月と別れたところに戻ってみたのはいいものの、既に美月たちは移動しており、特に手掛かりを掴めずにいた。
少しの間言いあっていると、ある方向から爆発音のようなものが聞こえてくる。
「今のって……」
「だから言っただろ! 急げ! 早くしないと美月が……」
「さっきから美月美月って。過保護にもほどがあるでしょ」
「過保護だぁ? 俺はあいつが怪我するのを危惧してんじゃない。人を殺さないか心配してんだよ」
「それは……そうだけど、僕らの相手があんなにやばかったのに安否を楽観視なんて……」
晴祥の言葉に一瞬アルは表情を暗くするも、反論をしようとするが、晴祥は遮って話を続ける。
「……喧嘩ってのは相手の心を折った方が勝つ。復讐とか考えられないくらいにバキバキにして初めて勝ったって言えんだ。俺は基本ボコボコにして心を折るが、美月は違う。どんなに殴られても、どんなに蹴られても倒れない。そんで返しの一発で相手側の心が折れる。たかだかガキの喧嘩での話なんてあてにならないと思うだろうが、美月の精神力は本当にあり得ない」
「……ドン引きだよ」
「分かったなら急げ。俺は美月に殺人なんて絶対にさせない」
「僕だってそうだ」
二人はそのあと言葉を交わさず、今まで以上のスピードで音の鳴る方へ向かった。
「おいおいお嬢ちゃん。そっちには向かわせないぜ?」
姫璃は、姫璃のことを無視して裕也と美月の方に突っ込もうとする千春を縛り付け、動きを制限する。しかし千春は、筋肉の千切れる音や骨の折れる音を意に介さず、強引に体を動かす。
「嘘だろこれ……。相性最悪じゃねーか」
姫璃の『先人に右ならえ』は自分と同じ動きを相手に強制するスキル。対象となった部位は糸で操られているかのように同じ動きしか出来なくなる。強引に突破しようとすれば筋肉が裂けたり、骨が折れたりするわけだが、逆を言えばその痛みに耐えれば突破することは可能。死人となって痛みを感じなくなった今の千春には、少しの時間稼ぎ程度にしかならない。
「どうにかしてヘイトを稼がないとダメだな」
姫璃は千春が動き出す前に顎を蹴り飛ばす。だが、千春の行き先は変わらない。
俺の『先人に右ならえ』は自分の部位と相手の部位を照らし合わせて対象に取り効果を発揮する。相手に自分と同じ部位がない場合なら他のものに置き換えることが出来るが、今回は人。さっきは美月たちのいる空間と俺の手のひらを置き換えたが、あれは不意打ちで短時間だけだったから成立した。さっきと違って美月が君島を倒すまで動きを止めないといけない今とは状況が違う!
姫璃は冷や汗を垂らしながら必死に頭を動かす。そして、今にも自由になりそうな千春の眼前で、何かを決意したかのように深呼吸をした。
「……賭けるしかねーよなぁ」
姫璃は千春の進行方向に立ったまま、『先人に右ならえ』を解除する。そして突っ込んでくる千春にぶつかりながら、決死の作戦を実行する。
「……捕まえた」
そしてそのまま二人の動きはピタッと止まった。




