「俺は倒れねえ」
「がはっ……」
鳩尾に入った一撃に、裕也は呻き声を上げる。
「集中しろよ。……こっちはもう、殺す覚悟と死ぬ覚悟できてんぜ」
怯んだ隙を見逃さず、美月は連続で追い打ちを仕掛ける。裕也は連撃を耐え忍ぶことしか出来ず、挙句の果て吹き飛ばされた。先程まで互角だったが、ここにきて美月が圧倒しはじめている。能力は裕也の方が格段に上のはずだが、喧嘩、殴り合いという面で見れば美月の方が上。そして、殺す覚悟を決め、殺意を込めた一つ秘湯の所作が、実力差をひっくり返した。
「くたばれ……!」
裕也は手をかざして大地と木々で美月を挟み込み、そのまま締め上げる。だが、美月は木を平然と通り抜けた。そして、砂埃が舞う中、裕也の顔面にとびっきりの殺意を乗せた拳を放った。
「そんくらい読めんだよバーカ」
美月の拳は見事に空を切り、代わりに裕也の拳が美月に叩き込まれた。
「かりーよ」
「知るか、死ね」
続けてもう一発。今度は顔に決まり、美月は少しよろめいた。
「ゼロ距離の殴り合い……。そっちの方が楽でいい」
そしてゼロ距離のインファイトが始まった。
先に仕掛けたのは裕也。執拗に顔を狙い、連撃を繰り出す。しかし、体制を立て直した美月には攻撃を出す前に防がれ、まともに一発も当てられない。
「クソっ……」
「それじゃあ、俺の番だな」
頭蓋が割れたかのような、大きな鈍い音が響いた。
「……は?」
殴られ過ぎておかしくなったのか、裕也は素っ頓狂な声を上げる。そして、世界が超スローモーションに見え始め、少し思考に浸る。
おいおいおいおい、俺はまだ復讐を果たしてない。そしてこれは果たすまで忘れてはならないことだ。でもこのままじゃ死ぬ。後先考えず必死に戦わなきゃ、これだけに集中しなくちゃ死ぬ。でも、多分きっと、これに集中したら思い出せない。……いや、別に関係ない。もう結論は出てるじゃないか。後のことを先に考えるより、後のことは後に考える方がいい。
裕也は右足で踏ん張り、吹っ飛びかけた体を立て直す。そして同じ人間と思えないような目つきで美月を捉え、笑いながら言う。
「しょうがねえ……。集中してやるよ」
そして再び裕也は攻撃を仕掛ける。先程とは明らかに異質な雰囲気を放ちながら。
「「オラァ!」」
両方の拳が両方にクリーンヒットする。しかし、それでも攻撃の手は緩まない。
『おい、攻撃を受け過ぎだ。神力にも限りってのはあんだよ。ついさっき全身治したばっかなんだからもう限界に近い。これ以上喰らったら……』
「安心しろよ。……なんでか不思議と痛くねえんだ。それに、どれだけ殴られても、俺は倒れねえ」
歯を食いしばり、全力で踏み込む。
「だったらいい。……好きなようにかましてやれ」
そしてもう一度、当然のように相打ちが決まる。両方、避けるつもりは微塵もないのがひしひしと伝わってくる。
3回、4回、5回……。何回目かわからない相打ちのあと、美月は裕也より大きく怯み、隙を晒してしまう。
「いい加減死ね!」
今までのどの攻撃よりも重い一撃が、美月の無防備な顔面に突き刺さる。攻撃が決まった後、少ししてから、裕也の腕が信じられない力で掴まれた。
「……!」
「俺は死なないし、絶対倒れねえ」
美月はいつもと変わらない調子で、少し笑いながら裕也を見据えた。
「……このっ、バケモンがぁっ!」
「失礼だな、人間だよ」
美月は裕也を力いっぱい地面に叩きつけた。人間から出るとは思えない破壊音と共に裕也は下が地面とは思えないくらい跳ね上がった。
「今度は俺の全力だ」
落ちてくる裕也の体に合わせて、必殺の一撃が放たれた。




