「任せろ」
修正あり
「ほら、俺の得物はそれだけだ。早く通してくれ」
「規定では身体検査も……」
青髪の男はその言葉を鼻で笑い、端で座っている男を睨みつけながら言う。
「武器の有無程度じゃ実力差は埋まらないと思うが?」
空間に緊張が走り、身体検査をしようとした者たちは全員押し黙った。しばらく静寂な時間が流れた後、端に座っていた赤髪の男がため息をつき、諦めたように呟く。
「わーったわーった。通っていいよもう」
「ちょっ、そんな独断で……」
「別にいいだろ。間違ったこと言ってないし。それに、このままこいつをここにとどめても結局は通すことになんだからさ。こいつ止めれるのなんてノアの爺くらいだけど、あの爺は呼んでも来ないからもう通っていいよ」
「お前は変わらないな」
「誰もが変わるわけじゃないし、変わることが正しいってわけでもないからな。お前も気をつけろよ?」
「何を?」
「変わることを押し付けるなってことだよ。あいつ自身が変わりたくなったときに変わればそれでいいじゃんか」
「……心に留めておくよ」
そうして男は奥の扉へと歩いて行った。男の背中が見えなくなったあと、赤髪の男は部下たちに詰め寄られる。
「なんで通しちゃったんですか! これで怒られたりしたら……」
「俺の独断だから大丈夫だろ。知らんけど」
「どうするんで……」
部下の口に指を当てて、気だるげに話を遮る。
「あいつと話して俺は疲れたんだ。話なら俺の部屋で聞くぜ。来る勇気があるなら、だけど」
赤髪の男は飄々とした態度で、部下の制止を無視してその場を後にした。
「待ってください……って、行っちゃった」
取り残された部下は、呆れたようにため息をついた。
白い扉を開くと、部屋の奥の黒い扉が目についた。男は何かを察したようにその扉の目の前に座り込んで扉に向かって話しかけた。
「さてさて、何から話そうかな」
「まずは謝罪だろ? 話はそこからだ」
「申し訳ございません」
怒気交じりに聞こえてきた声に男は反射的に謝罪をする。
「ほんとにさぁ……。あれだけ慎重に~、って言ったのにすぐ行動するからこんなことになるんだよ。次からはちゃんと話聞け!」
「返す言葉もない……」
「それで、今どんな感じ?」
声の調子が、今まで怒っていたのが嘘のように思える程ガラッと変わる。男は若干戸惑いながらも質問に答える。
「今は……そうだな。美月君が人を殺しそうだ」
「嘘っ……! それは……まずいなぁ~」
焦燥がこちらにも伝わってくるほどの焦った反応が扉の奥から聞こえてくる。
「美月君には誰一人として殺してほしくないんだけど……」
「彼が一番可能性が高い。それに、止めようにも今のお前の状態じゃあな」
「今の状態じゃなくても厳しいよ。美月君の中にはあいつがいるから……」
「ラクトールか……」
その言葉が出た瞬間、心身を切り裂くような殺気が扉の奥から放たれた。
「話題に出しといてなんだけど、名前は出さないでよ」
男は先程、赤髪から言われたことを思い出し、出かかった言葉を喉でせき止める。
「……配慮が足りなかったな」
「違うよ。僕が引きずってるだけ。君になんの落ち度もない」
「もうこの話はいいだろ。これからどうするか。こっちの方が大事だ」
「それに関してだけど、これからは悪魔狩りに重点を置くことにする。僕が出るまで君は今まで通り最果てでせき止めといて。詳しいことは出てから話すよ」
「任せろ」
「それと……」
「まだ何かあるのか?」
「僕の従者のこと、頼んだよ」
「……任せろ」
そういって青髪の男は部屋を出た。
美月と裕也の殴り合いは、佳境へと突入した。美月の放った必殺の、全てを込めた一撃は確かに裕也に直撃する。
「俺はなんてバカだったんだ。こんな簡単なことに今まで気づかなかったなんて。……自分が信じられない」
美月の拳は裕也の腕だったものに絡み取られる。
「それもありなのかよ……」
「なに、これだけじゃない。こういうことだって出来るぞ」
裕也は背中から腕を生やし、その腕で美月に反撃をする。美月は腕を絡めとられているため、避けることが出来ず、そのまま喰らう。そして怯んだ隙に木に思い切り投げつけられた。
「ぐうっ……!」
「やっぱ便利だな、この『改式』は」
「おいおい、感傷に浸ってんじゃねえよ。さっきのは多少面食らっただけだ」
「多少でも面食らわせることが出来るってことは勝機があるってことだろ? だからこのまま攻撃する」
裕也は腕を変形させながら最もよけづらい攻撃パターンを思考し、美月に仕掛ける。美月は足を止めたまま、その攻撃に真っ向から立ち向かった。
「このまま続けようぜ?」
「……上等だよ」
そこからノーガードの殴り合いが始まった。打撃音が何重にも鳴り響き、次第に気力の勝負になっていく。
「ぐうっ……!」
「死ね!」
美月が裕也の手数に押され、怯んだ隙に勝負を決める一撃を、最も人を殺せる形に変形させた腕で放った。
「……死なねえよ、バーカ」
聞いたことのないような破壊音が轟いて、裕也の体は地面へと叩きつけられる。美月はふらつきながらもなんとか両足で、体中から血を流しながら裕也の体の前に立った。
「……楽しかったぜ」
そして、終幕を告げる一撃が振り下ろされる。それと同時に、一つの叫び声が響き、確固たる殺す覚悟が、一瞬、ほんの一瞬だけ、揺らいだ。
「ミツキ!!」
「……!」
美月の拳がすんでの所で止まった。そしてその拳は最早自分の意志で動かせるものではなかった。
『一瞬でも揺らいだんなら、その先には行くな。それに、仲間は大切にするもんだからな』
「アル……」
美月は声の主、アルの方へ視線を向ける。アルの隣には唯一の友人である三辻晴祥が、手を膝につき息を切らしていた。
「ミツキは、殺しちゃだめだ。人を殺しちゃ、ダメだ」
「……切実だな。……まあ、分かったよ」
拳を下ろし、ふらつきながらもたった状態を維持する。
「美月、会えてよかった」
「なんだよそのセリフは。彼女か」
「俺からしたら似たようなもんだよ」
二人と会った安堵か、はたまた血が足りなくなったのか、張っていた気が緩み視界が霞みはじめる。全身の力が抜け、美月はそのまま気を失った。二人は倒れた美月を一瞥した後、互いに目配せをする。
「……とどめは俺が」
「それより先に、あっちで倒れている人間をどうにかしようよ」
アルの視線の先には、腹に大きな穴を空けて倒れ込んでいる、姫璃の姿があった。




