第33話 自由行動、京都散策
音羽の滝をあとにした四人は、人の流れに合わせながら石段を上っていく。
石畳の道へ戻ると、さっきまでよりも賑わいが一段と増していた。
土産物店の軒先には色とりどりの和雑貨や京菓子が並び、焼きたてのみたらし団子の甘い香りが風に乗って漂ってくる。
「いい匂い……」
優香が思わず足を止める。
「まだ自由行動じゃないよ」
奈緒が苦笑する。
「分かってるって」
優香は笑いながらも、店先を名残惜しそうに振り返った。
しばらく歩くと、先生が広場で足を止める。
「これから班ごとの自由行動に入る」
生徒たちの間から小さなどよめきが広がった。
「集合は午後五時三十分。直接ホテルへ集合すること。行動範囲は配布した地図のとおりだ。困ったことがあれば、すぐに先生へ連絡するように」
「「「「はい!」」」」
先生は周囲を見回し、大きく頷く。
「それじゃ、解散!」
その一言と同時に、生徒たちは一斉に動き始めた。
「あっ、やっと自由行動!」
優香が嬉しそうに両手を上げる。
「まずどこ行く?」
美咲が地図を開く。
「産寧坂を下りながら見て回って、そのまま二年坂へ行く?」
奈緒が確認する。
「最後に八坂神社だね」
麻衣も頷いた。
「八坂神社へ行く前に、お土産も買っておきたいね」
美咲が地図を見ながら言う。
「それなら、気になるお店を見比べながら歩こうか」
奈緒の提案に、優香が勢いよく手を挙げる。
「賛成! 食べ歩きもしたい!」
「そっちが本音でしょ」
奈緒が笑う。
「ばれた?」
優香がおどけると、三人も思わず笑みを浮かべた。
四人は笑い合いながら、賑わう産寧坂へ歩き出す。
両側には土産物店が途切れることなく並び、京扇子や清水焼、和柄の小物、色鮮やかなちりめん細工が店先を彩っていた。
「見て見て!」
優香が最初に立ち止まったのは、小さな和雑貨店だった。
「この猫かわいくない?」
棚へ並ぶ手のひらほどの置物を指差す。
「ほんとだ。表情が一つずつ違うね」
美咲も隣へ並んだ。
店内には猫の置物だけでなく、ちりめん細工や小さながま口などが所狭しと並んでいる。
どれも丁寧に作られており、同じように見える猫も、耳の角度や目の形が少しずつ違っていた。
「こっちの猫、お母さんが好きそう!」
優香が一つの置物を手に取り、嬉しそうに眺める。
「まだ先にもお店はあるよ」
奈緒が笑う。
「そうだった。候補にしておく!」
優香は置物を棚へ戻すと、忘れないように店の名前を確認した。
四人は再び通りへ出て、土産物店をのぞき込みながら先へ進む。
すると、通りの一角から香ばしい匂いが風に乗って漂ってきた。
「あっ、あそこ」
美咲が指差した先では、炭火の上でみたらし団子が焼かれていた。
こんがりと焼き色の付いた団子へ甘辛いタレが塗られ、香ばしい香りが通りいっぱいに広がっている。
「これは反則だよ……」
優香が思わず立ち止まる。
「さっき自由行動が始まったばかりだけど?」
奈緒が苦笑する。
「でも、この匂いは我慢できないもん」
優香は真剣な表情で店先を見つめた。
「食べてみる?」
麻衣が三人を見る。
「いいの!?」
優香の表情がぱっと明るくなる。
「私も気になってた」
美咲が笑顔で頷く。
「じゃあ決まりだね」
奈緒も小さく笑い、四人は列の最後尾へ並んだ。
順番を待つ間にも、炭火で焼ける団子の香りが漂ってくる。
「お腹空いてきた」
優香が小さく呟く。
「昼ご飯、ちゃんと食べたよね?」
奈緒がすぐに返す。
「甘いものは別腹だから」
「団子も?」
麻衣が笑う。
「もちろん!」
優香は迷いなく頷いた。
その答えに三人も思わず笑う。
やがて四人の順番が回ってきた。
「いらっしゃいませ」
「みたらし団子を四本お願いします」
麻衣が注文すると、店員は元気よく頷いた。
「はい、四本ですね」
炭火の上から焼きたての団子が取り上げられ、照りのあるタレがたっぷりと絡められていく。
四人は代金を支払い、温かな団子を一本ずつ受け取った。
「いただきます!」
優香が嬉しそうに声を上げ、息を吹きかけてから小さく一口かじる。
「おいしい! お団子がもちもち!」
「熱いから気を付けてね」
美咲も笑いながら団子を口へ運んだ。
「ほんとだ。タレもおいしい」
奈緒も静かに味わい、感心したように頷く。
「炭火で焼くと、香りが全然違うんだね」
麻衣も一口食べる。
外は香ばしく、中はやわらかい。
噛むたびに甘辛いタレと炭火の香りが口いっぱいへ広がっていく。
「人気なのも分かるね」
麻衣が笑うと、三人も大きく頷いた。
最後の一口を食べ終え、四人は店へ向かって手を合わせる。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
団子屋をあとにした四人は、通りに並ぶ店を順番に見て回った。
美咲は藍色の模様が描かれた清水焼に目を留め、優香は桜や紅葉を模した小さな箸置きを楽しそうに見比べる。
麻衣と奈緒も、家族への土産になりそうな品を探しながら棚を眺めていた。
「お店ごとに雰囲気が違うね」
美咲が店先を見渡しながら微笑む。
「同じような物でも、模様や形が少しずつ違う」
麻衣も並んだ品へ目を向ける。
「だから迷うんだよね」
優香が困ったように笑う。
「時間はあるけど、迷いすぎないでよ」
奈緒の言葉に、三人も笑った。
さらに歩くと、八つ橋の専門店が目に入った。
店先では試食用の生八つ橋が配られ、甘い香りが辺りへ漂っている。
四人は店員へ礼を言って一つずつ受け取り、口へ運んだ。
「もちもちしてる」
優香が嬉しそうに笑う。
「思ってたより柔らかいね」
美咲も頷いた。
「お土産にも良さそう」
奈緒が店内を見回す。
「候補はそろったし、そろそろ決めようか」
麻衣が言うと、三人も頷いた。
四人は気になった店をもう一度見比べ、産寧坂を離れる前に家族や自分への土産をそれぞれ選んだ。
買った品を鞄へしまうと、満足そうに顔を見合わせる。
「これでお土産も大丈夫!」
優香が嬉しそうに言う。
「買い忘れはない?」
美咲が確認する。
「たぶん大丈夫」
「また『たぶん』って言った」
奈緒が苦笑すると、麻衣も思わず笑った。
賑やかな産寧坂を抜けると、人の流れは少しずつ落ち着いていった。
二年坂には昔ながらの町家が静かに軒を連ね、風に揺れる暖簾が初夏の風を受けてゆっくりと揺れている。
四人は石畳を踏みしめながら、時折店先をのぞき込みつつ歩いていった。
二年坂から八坂神社へ続く道を進むと、その先に朱色の門が見えてくる。
「あっ、見えてきた」
美咲が指差した。
初夏の青空を背にした門は、遠くからでも鮮やかな朱色がよく映えている。
「八坂神社だね」
麻衣が微笑む。
四人は顔を見合わせると、そのまま門へ向かって歩いていった。
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