第73話【天城蓮 最新】
天城蓮。
今度は消さなかった。
画面の候補が出る。
「天城蓮 妻」
「天城蓮 配偶者」
「天城蓮 流出」
「天城蓮 第13妻」
「天城蓮 最新」
美緒の指が止まる。
第13妻。自分の番号。検索候補に、まだそれがある。
自分が検索した履歴なのかもしれない。世間が検索している言葉なのかもしれない。分からない。
どちらでも、胸が冷えた。
美緒は、検索ボタンを押さなかった。ただ、候補を見ていた。
最新。その言葉が、少しだけ引っかかった。
今の天城蓮。美緒が申請を出した後の天城蓮。流出騒動の後の天城蓮。
知りたい。そう思った。思ってしまった。
美緒は、自分に言い訳した。
元妻だから。関係者だったから。自分の流出事件がどう扱われているか、確認しておきたいだけ。手続きに影響があるかもしれない。ニュースになっていたら、知っておいた方がいい。もう好きだから見るわけじゃない。未練じゃない。ただ、確認するだけ。
そう言い聞かせるたび、嘘が濃くなる気がした。
美緒は、宮原の方を見た。
宮原は眠っている。
手を伸ばせば触れられる距離にいる。今の美緒を、美緒と呼ぶ人。分からないと言いながら、隣にいる人。
その宮原が近くにいるのに、美緒の指は天城蓮へ向かっている。
そのことに、少し罪悪感があった。でも、止まらなかった。
宮原は今の近さだった。天城蓮は、失われた中心だった。
近さでは、中心は埋まらない。
美緒は、検索窓に入った名前を見つめた。
天城蓮。
その名前だけで、まだ身体の奥が反応する。
推し。夫。対象者。元夫。まだ正式には元夫ではないかもしれない人。
前に、最近、無理してない?と送ってきた人。あの個室で、お前といると楽だ、と言った人。流出の時には何も来なかった人。申請を出すまで、最後まで何も来なかった人。
それでも、美緒はその名前を打った。
美緒は、候補の「天城蓮 最新」を見た。
押せば、何かが出る。新しいニュース。古いまとめ。誰かの噂。流出の続き。何もないかもしれない。
何もなければ、それはそれで怖い。
自分が第13妻をやめようとしても、世界は何も変わっていないということだから。
美緒は、親指を検索ボタンの上に置いた。まだ押していない。
押したら、次の何かが始まる気がした。
まだ見つけていないもの。見たくないもの。でも、見なければいられないもの。
美緒は、短く息を吸った。
そして、検索ボタンを押した。
画面が白く切り替わる。
検索結果が表示される直前、美緒は一瞬だけ目を閉じた。
見ないと決めたはずだった。
それでも、名前を入れてしまった。
静かすぎる夜に耐えられなくて。
天城蓮の名前を。




