第一話『リスタート』
プルルルルル‥‥‥。その音は、悔しくも日常とは、離れがたい音だった。
明華雅にとってその音は使命感を高ぶらせる音だ。しかし、一方で腹を立たせる音でもある。その原因は毎回かけてくる奴の間が悪いだけ。
やかましい音色に急かされる状況に苛立ちを覚えつつ、手慣れた手付きでポケットからトランシーバーの改良品のようなもの‥‥‥名前は覚えるのが苦手な上、覚える気自体、さらさら起きないので適当に『とらっち』と呼んでいるものを開く。
前半はトランシーバーから来ており、後半はただのノリだ。そっちの方が可愛らしいだろう。
我ながらネーミングセンスがあるのではないか、と感嘆するのも束の間、その可愛らしいネーミングセンスは惜しくも、『とらっち』から聞こえてくるおっさんのマシンガンボイスに打ち殺されてしまった。
「誰の声がマシンガンボイスだって?」
「すみません、ショットガンレベルでしたね!」
いつものやり取り、繰り返しの連続。その日常茶飯事を華麗にスルー‥‥‥というご都合主義は起きない。が、習慣さんは皮肉なことに停滞を知らず、変化さえも見ず知らずのご様子だ。
――そう。それこそが、自然の摂理なのだから。
「わかったような口でお決まりのクサい台詞言ってんじゃねえよ、青二才」
「そういうボスこそ、『青二才』って言葉は女性に使うものじゃないんですよ? ミイラ取りがミイラになってます」
「――まぁいい。お前と言葉を交わすことほど、無駄な時間は存在しないしな。――さて本題に入るが、お前には新たな『任務』を受けてもらう」
‥‥‥無視したな。
「場所は『双鈴の花園』だ。‥‥‥あとは言わなくても分かるよな?」
『双鈴の花園』‥‥‥。それは、半年前に二人のとある少女と出会い、決別した場所だ。 ――しかし、それは『現実』の話ではない。それはとある空間の中での話だ。
「以前、お前が担当した場所だから任せた。なんつったって、同じ場所に二度も『記憶の巣窟』が発生するなんて前代未聞だからな。故に、お前が担当している。事の重大さを考えて挑め。場所は……そんなにアホではないと思ってっから、わざわざ、『トランスウォーリア』には送らねぇからな? それでは、『記憶の巣窟』の【破壊】を任命する」
手荒に話は簡潔に終わったが、トランシーバーのようなものは『トランスウォーリア』と呼ぶらしい。その長い名前のせいで尚更、呼ぶ気にはなれなくなったと雅は確信した。――無論、『とらっち』の方がかわいらしくて良いに決まっている。
しかし、それだけで話は済まされない。『記憶の巣窟』が同じ場所で発生するという事例は初。何より、同じ場所ということは最悪の事態も考えざるを得ない。
あの日、あのとき、出会った少女の安否を――。
安否の確認が出来ない以上、早急な対応を必要とする。あの二人には天寿を全うすることだけは最低でも義務であって欲しい。だが、これは彼女らに限った話ではない。対象とされた人物が誰であろうと等しく接する。それが雅の中で一貫した任務に対する心構えだ。ただ、彼女たちと過ごした時のことを思うと少し、身内贔屓してしまう。
少しは、私情を挟まないようになりたいものだ。それもこれも、今は考えることではないけど。考えることは一つのみ。
――さぁ、始めようか。【破壊】ではなく、【解剖】を。




