第12話 裏では表では、どっちが裏でどっちが表なんだか…
「…いやあ、これは凄いわ、完全に常識が通用してない上に、完璧な遺伝子じゃないか…!」
僕が居酒屋でバイト中に美恵さんはレポートを書き研究結果をみながらぼそりとつぶやく。不敵な笑みを浮かべながら、ぬるくなっている元ホットコーヒーを一気に煽り、今度は電卓を叩き始める。
「一般男性が3gのところを、香くんは『1発50g』だなんて…しかも『7発』、私に『9発』…うふふふふ、機械と女性でプラスの差が出るだなんて…逸材を超えてるわ…!しかもあんなに優しくて激しくて…疼くわ…!!」
恵比寿病院の院長専用研究室の一角で美恵さんの思考が危ない方向に向かい始めているだなんてつゆ知らず、僕はとにかく目まぐるしく仕事をこなしていく。
「餃子上がったよおー!!」
「はーい!」
店長の手作り餃子がこの居酒屋のオススメらしく、餃子だけでもう100皿は運んでるんじゃないか?客席50くらいのやや小規模な店で常に満員御礼、忙しくてとてもやりがいがある。残念なのはお客さんとお話をする暇が全くないところだけど。それに、この餃子美味しそうなんだよなあ、僕も食べたいというかお腹減ってきた。開店から3時間くらいかな、まだまだ忙しそうだけどちょっと休憩したいかな。
「店長ー、休憩いただいていいですかー!?」
「おっけー!賄い作るからちょっと待ってなぁ!飲み物は好きなのオーダーシートに書いといてね!」
「それと僕結構食べるんで期待してます!」
「ほほう、量はどのくらいー!?」
「人の十倍くらいでお願いしまーす!お金は払いますので!」
「よーし!十倍と言わず十五倍作るから覚悟しときなぁ!」
「望むところです!」
餃子なら100皿、いや200皿は行けそうだ。それとブドウ糖とプロテインも足りてない気がするので石島さんにそっとプロテインを5kg用意してもらっておこう。今だと粉よりもプロテインバーの方がよさそうだ。ついでにお酒も頂くとして…ああー居酒屋はやっぱりいいなあ…!
「お兄さーん!」
呼ばれたのでダッシュで行く!ダッシュだけどあんまり速くは行けない。右手には大生ジョッキを左手には餃子5皿載せたトレーを持っているので。
「はーいお待たせしましたー大生と餃子5皿でーす!いい飲み食いっぷりですね!」
とニッゴリ笑顔…いつか必ずさわやかな笑顔をマスターするんだ…でもお客さんは…
「君もいい顔だし丁寧な対応だし、お姉さんは君に抱かれたいよ!」
その一言で店内がシン、とした。急激に気温が下がっていくような感覚。それでも僕は態度を変えない。
「ありがとうございまーす、嬉しいお言葉頂きましたー!」
とあっさり躱す。酔ってると気が大きくなっちゃうし余計な事言っちゃうもんだからね。『僕は気にしてませんよ』アピールを忘れちゃいけないんだ。今度は温度が上がってきたような…?周りを見てみると、お客さんの目が肉を前にした猫科の生き物の目をしている。そんなに餃子を心待ちにしているのか、これは期待しちゃうな。あ、あそこのカウンターのお客さん、飲み物がそろそろなくなりそうだ、声をかけに行こう。
「そろそろお飲み物無くなりそうですが、お代わりします?」
「え?ぜ、是非おねがい!」
「かしこまりましたー生一丁頂きましたー!」
あいよー!と店長が返してくれる。働いてて気持ちがいい瞬間だ。今日の売上どんなもんだろうか?
「ふぅ、あと3箱くらいかなぁ…」
カズ姉ちゃんは独身寮の荷物をまとめ中。一方で唯姉ちゃんは僕がどうしても独身寮に行きたいんだ!!と力説した結果、まだ荷物はそのままにしてくれていた。生の女子寮を見てみたいという願いを、唯姉ちゃんが叶えてくれることになったんだ。カズ姉ちゃんは頑なに拒否したから…汚部屋でも、というか汚部屋に興味があったんだけどなぁ…しかしカズ姉ちゃんの部屋は汚部屋ではなく、ごみはちゃんと捨ててある、ちょっと大人のおもちゃが乱雑に置いてあるだけだったみたいだけど、僕には隠しておきたかったらしい。でも唯姉ちゃんから聞いちゃったので内緒にしておこうと思っている。
「さーて、かおちゃんバリバリ働き中だろうし、この部屋最期のシャワー行っとくかなー」
のんきな声で唯姉ちゃんがシャワーを浴びに行く裏で、同じタイミングでカズ姉ちゃんもシャワータイムらしい。
「一回さっぱりしてから詰め込み作業しようかな、きっと香くんの腰が止まらなさそうだし、うん」
見抜かれていたことなんて僕はわからない、なんなら僕にその気はなかった。けど、女子寮で男女、しかも二人って僕をくるわせる気満々だと思うんだ。僕が勝手にくるっちゃうともいえるんだけど。それぞれ動き回っている間に美恵さんがレポートを纏めて石島さんに資料を送ったようで、石島さんの顔つきが悪い顔に変化して行ってる。残念ながらその時僕は裏で餃子とビールとプロテインバーに夢中だったので気づいていない。




