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救国の英雄

 銃声が鳴り響き、会場の時が止まった。

 ヒルデガルドに放たれた凶弾は真っ直ぐ向かって行く。

 親衛隊の立ち位置では間に合わない。

 アーダルベルトも動いてはいるが間に合わないだろう。

 ヒルデガルドも死を覚悟したその瞬間、一人の漆黒獅子が凶弾の前に立ち塞がる。

 そして立ち塞がった漆黒獅子の右肩に凶弾は命中した。

 フリードリヒが再び引き金を引こうとした刹那、一発の銃声が再び鳴り響く。


「……がっ!?」


 フリードリヒが腹部を押さえながら吐血している。


「お前みたいな奴が……お前みたいな奴が戦争を起こすんだ!」


 蒼く輝く瑠璃色の瞳を持つ漆黒獅子が再び引き金を引いた。


「これはお前の所為で大切な誰かを亡くした分!」


 銃弾は胸部を撃ち抜き、引き金を引いた。


「これはお前にそそのかされたミカエラの分!」

「ま、待て! 私を殺すのか!? 私は沢山の情報を持っている……帝国の為に役立つ――」


 そして銃弾がフリードリヒの喉を撃ち抜き、彼は苦しみながら床に倒れ込んだ。

 もがき苦しむフリードリヒを見下ろす瑠璃色の瞳。


「これは死んだ義父さんの分だ。それに思い上がるなよ、お前の情報なんて当てには出来ない。所詮、お前も駒の一つに過ぎないのだからな。それにお前はヴィクトリアを殺そうとした。お前を殺す理由なんてそれだけで十分だ」

「ば……バカな……私を殺すなんて愚か……」


 フリードリヒの瞳から生気が失せ、ラインハルトも膝を着く。


「ラインハルト!?」


 ヴィクトリアが壇上から急いで駆け寄る。


「大丈夫……僕も中々ドジだな。また怪我するなんてね……」

「バカ! それにお前が撃たれた瞬間、私は……わたしは……」


 今にも泣きそうな顔のヴィクトリア。

 ラインハルトは泣きそうなヴィクトリアに言った。


「泣いちゃダメだよ、皇帝に成りたいならね。それでも泣きたいなら人知れず泣くか、見られない様に僕の胸の中で泣いていいから」

「黙れバカ……」


 ラインハルトの言葉に従う様に、ヴィクトリアは彼の胸に顔を埋めながらすすり泣く。

 そしてすすり泣く彼女の体をラインハルトは優しく抱き締める。

 フィリーネ元帥とエミリア元帥が憲兵隊と親衛隊に「遅い! 何の為の親衛隊かっ!! 憲兵隊は銃の許可証をちゃんと見たのか!!」と激を飛ばしていた。

 ヴィクトリアを抱き締めるラインハルトにヒルデガルドが近寄って膝を着く。


「また帝国を救ってくれたな、シュヴァルーヴェ。命を救ってくれて感謝する」

「いえ、陛下。気づいたら体が勝手に動いてました……。それに陛下に何かあったら僕の可愛い想い人が悲しみますからね」


 すすり泣くヴィクトリアの頭を撫でながらラインハルトは言った。

 するとヒルデガルドは笑みを溢し立ち上がる。


「そなたの勇気と忠誠に感謝を。流石は「繊細にして、大胆不敵の漆黒獅子(シュヴァルーヴェ)」だな」

「繊細? 大胆不敵?」

「そなた達一族の異名だ。アルムルーヴェと同じようにな」

「そういう事ですか……」


 ヒルデガルドが去り際に敬礼すると、ラインハルトも右手で返礼するが傷口が開いた為に痛みが走る。


「早く医者に診てもらうがいい。後で孫娘に看病させる為に部屋に向かわせる」


 笑いながら言うヒルデガルドに医者達に運ばれるラインハルト。

 そのラインハルトがヴィクトリアに囁いた。


「ヴィッキー……ライトさん達との約束を陛下に伝えて欲しい」

「わかってる。ちゃんと言っておくから安心しろ」


 そんな中、ヒルデガルドが拍手をして英雄を送り出す。

 するとヴィクトリアにフィリーネ、エミリアやアデリナ。そしてジークとシルヴィアが拍手で送り出す。

 その光景に軍衣を着た者、不平を言っていた貴族達も拍手で英雄を送り出した。

 反逆者シュヴァルーヴェは数百年の時を越えて、救国の英雄シュヴァルーヴェとして愛した帝国に凱旋したのだっだ。



 あれからラインハルトは治療を終え、部屋で休んでいた。

 撃たれた右肩も弾が運良く貫通して縫うだけで済んだ。

 ベッドに横になりながら本を左手でページをめくっていると部屋の扉を鳴きながら引っ掻いている者が現れる。

 ミルトとリーベだなと思った矢先、待ち人の声がした。


「ラインハルト……入って構わないか?」


 ラインハルトが「どうぞ」と言うと扉が開き、バスローブ姿のヴィクトリアが入って来た。

 だが扉が開かれた瞬間、一目散にミルトとリーベが走ってラインハルトのベッドに上がり込む。

 すると二匹はラインハルトのベッドに上がり込むなり、頭を擦りつけながら撫でてせがむ。

 ラインハルトが頭を撫でてあげるとミルトとリーベは喉を鳴らしながら、もっとやってくれと目で訴える。


「ずるいぞ。ミルト、リーベ!」

「子供達に妬かないでよ。ミルト、リーベ。お母さんの為に場所を空けてくれるかな?」


 ラインハルトの言葉が分かるのか、ミルトとリーベはラインハルトの左側を明け渡した。


「いい子だね。ほら、ヴィッキー。空いたから横に来ていいよ」

「うん……」


 ヴィクトリアはラインハルトの左側に横になり、ミルトとリーベは右側で体を寄り付かせる様に丸まる。

 それから二人は一緒に本を読みながら、ミルトとリーベをあやした。

 本を読み終わると二匹は二匹で寝たいのか、ソファで体を寄せあって寝ており、ヴィクトリアはラインハルトに頭を撫でなれながら彼の心音を聴いている。

 ラインハルトはヴィクトリアに優しく口づけを交わし、ヴィクトリアのバスローブをそっと脱がした。

 それから二人は互いを想う気持ちと愛を捧げ合いながら朝を迎えた。

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