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王女殿下の花嫁修行

 ヴィクトリアが厨房に行くと、厨房に居たシェフや侍女達に侍従達が驚きの表情を浮かべた。

 慌てふためく人達、そこにカリーナが現れ「姫様の花嫁修行です」と言い納得したが、逆にヴィクトリアが驚いてしまった。


「おい、カリーナ! 恥ずかしいだろ!」

「今さら何を恥ずかしがります、王女殿下。フィリーネ様からシュヴァルーヴェ様とは互いに愛の証が欲しいと誓いの契りを交わしたと聞きましたよ。それに、昨夜も朝まで――」

「頼むから、それ以上言うな!」


 顔を真っ赤に染めたヴィクトリアが懇願した。

 するとカリーナが冷蔵庫から卵とベーコンを取り出して、一斤の食パンを調理台の上に置いた。


「カリーナ?」

「シュヴァルーヴェ様に朝食を作ってあげるのでしょ? 王女殿下。言っときますが、私の指導はフィリーネ様も逃げ出すくらいに厳しいですよ」

「そ、そうなのか」


 自信に満ちた表情で王女殿下を見るが、ヴィクトリアもラインハルトの為に意を決する。


「よろしく頼む、カリーナ」

「かしこまりました、王女殿下。殿下も恋する殿方にはお可愛いこと。フィリーネ様を思い出しますね」

「カリーナ、恥ずかしいだろ!」


 こうしてカリーナの厳しい指導の下での花嫁修行?が始まった。



 厨房から出て来たヴィクトリア。

 手には熱々の目玉焼きとベーコンを焼いたお皿に、綺麗な狐色に焼けた食パンを四枚載せたプレートを持っている。


「今回は我らながら上手く出来た。ラインハルトが喜んでくれると良いな……」


 そんな事を呟いていると、ミルトがずっと鳴きながらヴィクトリアの前を歩いている。

 最初はお腹が空いているからかと思ったが、早く来てと言っているように聞こえてきた。

 ラインハルトが居る部屋の前では、リーベがしきりに扉に向かって鳴きながら引っ掻いている。


「まさか……」


 ラインハルトが魘されていると頭に浮かんだ。

 急いで部屋の扉を開けて、ミルトとリーベも一緒に部屋の中に入る。


「ラインハルト!?」


 ヴィクトリアの悪い考えは当たってしまっていた。

 ラインハルトはベットで魘されていて、しかも呼吸も荒い。

 ヴィクトリアはプレートをテーブルの上に置いて、ラインハルトを抱き起こした。


「お前は大丈夫だ。私がついてるから心配するな」


 ヴィクトリアがラインハルトを抱き締めながら言い落ち着かせた。

 その光景にミルトとリーベも心配なのか鳴きながら二人の周りを歩いている。

 思いが通じたのか、ラインハルトが目覚めた。


「ごめん……また魘されていたみたいだね。ありがとう、ヴィッキー。いっぱい寝汗をかいちゃったから、湯浴みが台無しになっちゃうよ」

「バカ、そんな事は気にするな。またお前の湯殿を借りれば大丈夫だ。今は心を落ち着かせろ……」

「そうだね、でもヴィッキーに抱き締められてると逆に落ち着かないかな。僕の理性が無条件降伏しちゃいそうだしね……」


 強がって笑うラインハルトをヴィクトリアは強く抱き締めた。


「黙れバカ。それに無条件降伏してお前が落ち着くのなら、私は構わないからな……」

「ヴィッキー……」


 ラインハルトを抱き締めると同じくらいヴィクトリアは自分が抱き締められていると感じて、それが意味する事を彼女は察して受け入れようとした瞬間。


「ニャー」


 ミルトとリーベがしきりに鳴きながら二人の体に頭を擦りつけてきた。


「こら、ミルトとリーベ。後でおやつをあげるから邪魔するな。良い雰囲気なんだぞ、少しは空気を読め」


 ヴィクトリアに怒られてもミルトとリーベは頭を擦りつけてきた。


「あはは。ミルトとリーベはお腹が空いているんだよね?」

「ニャー」


 二匹の猫が同意するように鳴いて、ラインハルトの顔に笑顔が戻った。

 それが嬉しかったのか、ヴィクトリアも部屋のテラスで朝食を食べようと提案する。

 ミルトとリーベは先にテラスに向かい、ヴィクトリアがベットから立ち上がろうとした瞬間、ラインハルトが後ろから優しく抱き締めて囁く。


「続きはまた今度だね……愛しのヴィクトリア」


 その愛の囁きにヴィクトリアは頬を紅潮させて頷く。


「うん……その時は優しく頼む。愛しのラインハルト」


 お互いに愛の囁きを交わして、二人は朝食を食べるべくテラスに向かった。



 優しい光が射し込む中、ラインハルトとヴィクトリアはテラスで朝食を楽しんだ。

 ミルトとリーベは足下に置かれた専用皿のキャットフードを勢いよく食べている。


「ありがとう、ヴィッキー。食べやすい様に細かくしてくれて」

「礼には及ばない。その方があまり手に力を入れなくて済むからな」


 ラインハルトのお皿にある目玉焼きやベーコンは食べやすい様に細かくしてある。

 その方が手に力を入れなくて震えなくて済むからだ。

 ふと、ミルトとリーベがテーブルの上に昇るとラインハルトにご飯をもっと欲しいとせがんで来た。


「わかったよ、ほら」


 ラインハルトが袋を開けてキャットフードを取り出して、ミルトとリーベに食べさせてあげた。

 その光景をヴィクトリアが羨望の眼差しを向ける。


「ずるいぞ。ミルト、リーベ。お前達だけラインハルトを独占するな。ラインハルト、私にも……」

「はいはい。君達は欲しがり屋さんだね。ほら、口を開けて」

「うん……」


 細かくした目玉焼きを口を開けて待っているヴィクトリアに食べさせてあげた。


「ラインハルト……もっと欲しい」

「わかってるよ。はい」


 ヴィクトリアに食べさせてあげると彼女は満面の笑みを浮かべて食べてくれて可愛らしい。

 そしてミルトとリーベがそれを見て、ラインハルトにもっと欲しいとせがんで来た。


「ミルトとリーベも!? 君達欲しがり過ぎ(強欲過ぎ)だよ。僕が食べられないじゃん」

「心配するな。私も食べさせてやるから。ほら、口を開けろ」


 ヴィクトリアがベーコンをラインハルトに食べさせてあげた。


「美味しいか?」

「うん……ヴィッキーが食べさせてくれるから」

「そうか。もっと食べさせてやるからな、ほら」


 二人と二匹だけの甘い愛の時間が過ぎていき、王女殿下お手製の朝食を食べ終えた。


「ラインハルト、じっとしていろ。口を拭いてやるから」


 手巾でラインハルトの口元を拭いてあげると、それを見たミルトとリーベが互いの口や顔をグルーミングして二人を和ませた。


「ラインハルト、御婆様の昼食会があるから体を拭いてやる」

「助かるよ、汗まみれのまま君の御婆様にはあえないからね。ヴィッキーも湯殿で湯浴みしてきなよ」

「そうさせてもらう。湯浴みしたら体を拭いてやるからな」

「わかった、待ってるよ」


 ラインハルトがベットに戻るのを手伝い、ヴィクトリアは湯殿に向かう際にミルトとリーベに言いつけた。


「いいか、ミルトにリーベ。またラインハルトが魘されたら構わず知らしてくれ。頼むぞ」

「ニャー」


 ヴィクトリアの言葉を理解したのか、ミルトにリーベはラインハルトのベットに登り、ラインハルトの横で二匹は体を丸めこませる。


「優秀な猫達だね。一緒に暮らしたいくらいだ」


 ラインハルトがミルトとリーベの頭を撫でながら言う姿に、ヴィクトリアは頬を赤らめて提案した。


「……だったら一緒に暮らす時に連れて行くか? 士官学校を卒業したらお前と、その……一緒に暮らすんだしな。その方がミルトとリーベも喜ぶから……」


 その言葉にラインハルトも顔が赤くなり、ヴィクトリアをベットに呼び寄せて隣に座らせた。

 そしてヴィクトリアの手を握りながら言う。


「いいね。じゃミルトとリーベが僕達の子供だね」

「バカ……二匹はまだ一歳だが、私達よりも歳が上だぞ」

「そっか。じゃ僕達の方が子供だね」

「黙れバカ……良い雰囲気が台無しだ」


 二人の瞳が見つめ合うと互いの瞳が閉じ、優しく口づけを交わす。

 そしてミルトとリーベも仲良く互いの顔をグルーミングし、二人と二匹の愛の時間がゆっくりと流れていく。

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