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新たな友人

 フィリーネ達との食事を終えて、ラインハルトはヴィクトリアの肩を借りて客間に戻って来た。

 ラインハルトがベットに横になると、まだヴィクトリアが立っている。


「どうしたの? もう大丈夫だからフィリーネさんの部屋に戻っていいよ」


 ヴィクトリアは頬を紅潮させ、ラインハルトのベットに座り手を握ってきた。


「愛しのラインハルト……今宵はお前の隣で夜を明かしたい……」


 恥ずかしそうに愛の言葉を言うと、ラインハルトは頷いた。


「もちろんいいよ、愛しのヴィクトリア」

「……失礼する」


 ヴィクトリアがベットに潜り込み、ラインハルトの隣に横になった。


「もっと近くに来て大丈夫だよ、ヴィッキー」

「うん……」


 ヴィクトリアがもぞもぞしながら近づき、ラインハルトに訊いてきた。


「ラインハルト……ちょっと恥ずかしいのだが、腕枕をしてくれないか……」

「もちろんって言いたい所だけど、怪我してるからちょっとね……」


 ラインハルトは要塞での負傷で満足に動かせない。

 その言葉にヴィクトリアがシュンとした表情を滲ませる。


「そ、そうだったな……流石に傷に良くないな」


 そのシュンとした表情が何とも言えない可愛さで、ラインハルトとしては願いを叶えてあげたくなり代替案を提案した。


「ちょっと腕枕は無理だけど、僕の胸を枕にするんだったらいいよ」

「本当か!?」

「うん、あんまり寝心地は良くないけどね」


 そういうとヴィクトリアはラインハルトの胸を枕代わりに頭を置いた。

 しかもラインハルトの心臓の辺りに。


「ヴィッキー!?」

「……私はお前の心音を聴きながら寝たいんだ。その……嫌だったか?」

「嫌じゃないよ。今日はやけに甘えてくるけど、どうしたの?」


 その言葉にヴィクトリアはラインハルトに体を密着させ、瑠璃色の瞳を焔の瞳が見つめる。


「別にいいだろ……私はお前に甘えたい気分なんだ。それに約束しただろ、いっぱい甘えると」

「そうだったね。じゃ好きなだけ甘えていいよ、愛しのヴィクトリア」

「うん、そうする……」


 するとヴィクトリアが訊いてきた。


「ラインハルトの心音は早いな……」

「そりゃ愛しのヴィクトリアに頬を密着されると、僕みたいな男は緊張するからね」

「黙れバカ。静かにしていろ、よく聴こえないだろ」

「はい、ごめんなさい……」


 それからは他愛ない会話をしながら二人だけの甘いひとときをしばらく楽しんでいると、ふとヴィクトリアがラインハルトの胸の傷を擦りながら訊いてきた。


「すまないな、ラインハルト。私や帝国を守る為にお前に消えない傷と痛みを負わしてしまった……」


 その言葉にラインハルトはヴィクトリアの体を強く引寄せ、頭を優しく撫でた。


「こんなの大丈夫だよ。ヴィッキーを守る為なら僕はどんな痛みにだって耐えてみせる。それにミカエラに拷問されてる時だって、ずっとヴィッキーの事が気になってた……無事に逃げられたかなって」

「ラインハルト……」


 自分の身を顧みず、ずっとヴィクトリアの心配をしていたと言われ胸の奥が熱くなる。

 そしてラインハルトに抱く愛しい想いが胸から込み上げて来て、ヴィクトリアは母フィリーネに教えられた、ある事をラインハルトの頬にやってみた。


「ヴィッキー、くすぐったいし……僕はミルトとリーベじゃないよ」

「ミルトとリーベはよくやってるし、以前母上からこうすると殿方は喜ぶと聞いた。それに何でも言うことを聞いてくれるって約束しただろ。嫌だったか?」


 伝家宝刀ならぬ約束という言葉を出されてはラインハルトも従うしかない。


「まぁ、約束だから好きにしていいよ。別に嫌じゃないから大丈夫。ミルトとリーベじゃないけどね……」


 ラインハルトがしきりにミルトとリーベじゃないと言っているのは猫達がよくやっているグルーミングの事だ。

 何か勘違いをしている様な気がするが、健気に頑張るヴィクトリアは凄く可愛く見えてしまい、訂正する気は何処かに飛んで行ってしまった。

 そしてラインハルトとヴィクトリアはお互いの愛情を確かめ合い、愛を深めながら一夜を共に過ごした。



 朝日が窓から部屋に射し込んでる頃。

 モゾモゾと動きながらベットから体を出したラインハルト。

 だが直ぐにベットの中から出て来たヴィクトリアに肩を掴まれてしまう。


「ラインハルト、何処に行くんだ」

「あはは……ちょっとお腹が空いてきたんだ」


 ラインハルトがお腹の辺りを擦っていると、たちまちお腹の住人が騒いでる音が聞こえた。


「だったら私が朝食を作ってやる」

「本当?」

「あぁ。簡単な料理なら出来るからな。厨房に行けば目玉焼きかベーコンエッグくらいなら作れるし、パンも焼いてやる。手料理を食べさせてやるって約束だからな」

「じゃヴィッキーにお願いするよ。君の料理は美味しいからね」


 厨房に行くべく二人はベットから出て、脱いだ寝間着を着込み部屋から出ると一人の淑女が声をかけた。


「王女殿下、何処に行くつもりですか?」


 ヴィクトリアが恐る恐る振り向くと侍従長のカリーナが立って居た。


「おはよう……カリーナ。なぜいるのか聞いていいか?」

「昨日も申し上げましたが、皇帝陛下と皇太女殿下からシュヴァルーヴェ様の御世話を言い遣っておりますので、侍女達と私が交代で部屋の前に待機しておりました。それが何か?」

「い、いや、何でも無い……」


 ばつが悪そうな表情をするラインハルトとヴィクトリアを察し、カリーナが再び訊いてきた。


「で、姫様達は何処に行くおつもりで?」

「いや……ちょっと厨房にな。ラインハルトに朝食を作ってやろうかと……」

「なりません。殿方と愛の(とき)を過ごしたのなら、まずは湯浴みを御願いします。貴女はアルムルーヴェ一族の姫君であり、また皇族なのですから。シュヴァルーヴェ様も侍女達が御体をお拭き致しますので御部屋にお戻り下さい」


 カリーナの毅然とした態度と言葉にヴィクトリアも小さくなってしまうが、侍女達がラインハルトの手伝いをすると聞きと食い下がってきた。


「それはダメだ! ラインハルトの世話は私がする」

「しかし、それでは私共の立場がありません。私はともかく、侍女達が陛下と皇太女殿下に怒られてしまいます」

「そうなったら私が話をする。いくら親しい侍女達でもラインハルトに触れられるのは嫌だ」


 ヴィクトリアの言葉と意思の強さを秘めた焔の瞳を見て、カリーナは『傲慢にして、強欲の黄金獅子(アルムルーヴェ)』の片鱗を感じ取り引き下がった。


「わかりました。ではシュヴァルーヴェ様の御世話は王女殿下にお任せ致します」

「あぁ。無理を言ってすまないな、カリーナ」

「いいえ。王女殿下も見ない間に立派なアルムルーヴェになられましたね。赤子の頃から御世話をしてまいりましたが、皇太女殿下と同じく立派なアルムルーヴェに成長されて嬉しく思います。やはり愛が人を成長させるのですね」


 ラインハルトとヴィクトリアを優しく見つめるカリーナの瞳。

 侍従長としてヴィクトリアが生まれた時から見てきた為に、一種の親心ならぬ情が沸いてしまうのだ。

 そんなヴィクトリアに背後から忍び寄る影。

 そして魔の手がヴィクトリアに迫り。


「ひゃう!?」


 ラインハルトもカリーナの言う愛の(とき)でしか聞いた事がないヴィクトリアの声に驚き、思わずヴィクトリアを見ると彼女の胸を背後から鷲掴みにする人物。


「ヴィクトリア、随分と成長したね。ちょっと前までは可愛らしい胸だったのに、お姉さんは驚きだよ」

「シルヴィア……」


 ヴィクトリアにシルヴィアと呼ばれた者。

 帝国軍の軍衣を纏い、黄金の長髪を赤いリボンでポニーテールに纏めている。

 彼女と同じ焔の瞳を宿し、白い雪肌には怪我をしたのか頬に薄い銃傷がある女性。


「久しぶりね、ヴィクトリア。君の数少ない親友、シルヴィア・フォン・アルムルーヴェが会いに来たよ!」

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