見守る獅子
医務室で治療を終えたラインハルトは客間のベットに横になりながらジークから託された本を読んでいた。
外界の可能性を提唱、つまりはこの惑星に居たかも知れないと言われる別の生命体を指している。
もしそうだとしたら大発見で、事実調査隊は発見した。
だが人類が触れるにはまだ早いと考えた調査隊の決断はさぞかし悩んだだろうなと考えていたら、誰かが扉をノックした。
「ラインハルト、私だ。入っていいか?」
声の主はヴィクトリアだ。
「もちろんいいよ。君に閉ざす扉は無いからね」
ラインハルトがそういうとヴィクトリアが恐る恐る入って来た。
「お邪魔します……」
しかも黄金の長髪は濡れて輝いており、寝間着を着ていたのだがちょっと変わった寝間着だ。
寝間着には珍しくフードが付いており、そのフードには何やら猫耳……もとい獅子の耳が付いている。
「ヴィッキー、ここは君の家なんだから遠慮は要らないよ。それにどうしたの? 濡れたままじゃないか」
「いや……早くお前に会いたくて急いで来たんだ。迷惑だったか?」
濡れた黄金の長髪で、しかも猫耳付きの寝間着で言うヴィクトリアが凄く可愛く見えた。
「嬉しいよ。こっちにおいで、風邪引くから濡れた髪を乾かしてあげる」
「うん」
ラインハルトは体を起こして、彼の近くにヴィクトリアは嬉しそうな表情をしながら座り込む。
そしてラインハルトは近くに在ったタオルを取って、怪我した痛みに耐えながら濡れた髪を優しく拭いてあげる。
「ヴィッキーの髪は本当に綺麗な髪色だね」
「本当か!?」
「僕は好きだよ、君の髪色」
ラインハルトからね不意打ちの言葉にヴィクトリアの鼓動が早くなる。
「わ、私もお前の黒髪は好きだ。もちろんお前もす……好きだぞ」
「うん。大好きだよ、愛しのヴィクトリア」
止めの一言でヴィクトリアの顔は真っ赤に染まり、それを隠す様にフードを被った。
「ずるいぞ。私も大好きだニャン、愛しのラインハルト」
「ニャン?」
「な、なんでもない! 気にするな!」
何やら獅子語か猫語が聞こえた様な気がするが、追及すると噛み殺されるので深く触れない様にした。
それからヴィクトリアの髪を乾かしてあげるとラインハルトが提案してきた。
「そうだ、ヴィッキー。ジークさんから託された本を一緒に読まない?」
「うん、お前の隣でいいなら読む」
「もちろんいいよ。でも出来れば『お前の隣で読みたいニャン』って言って欲しいな」
「なっ!?」
猫耳フードを被ったヴィクトリアの顔がみるみる内に赤くなる。
そして手を猫みたく丸めて物欲しそうな顔でラインハルトを見つめては猫語を喋った。
「お、お前の隣で読みたいニャン……お願いニャン」
頼んでもいないのにご褒美猫語まで言ってくれたヴィクトリア。
その猫耳フードを被ったヴィクトリアが凄く可愛く見えてしまう。実際凄く可愛いのだが。
ラインハルトが動いてベットにヴィクトリアが入れる様にしてあげた。
ヴィクトリアがベットに両手、両膝を着きながらベットに座ろうとすると、急にラインハルトが顔を赤らめて視線を逸らした。
「ヴィッキー……出来れば寝間着を直してくれるかな。その……見えちゃてるから……」
「え?」
ヴィクトリアが自身の寝間着を見ると、ボタンを開け過ぎていた為に胸が見えてしまっていた。
「す、すまない! 殿方に大変見苦しい姿を見せてしまったな……」
急いで寝間着のボタンを掛けている手にラインハルトの手が触れた。
「見苦しくなんかないよ、ヴィクトリアは凄く綺麗だ」
「ラインハルトがそう言ってくれるのは凄く嬉しい……」
「じゃ早く本を一緒に読もうよ。ほら、僕の隣で読むんでしょ」
ラインハルトが隣を叩くとヴィクトリアが座り込む。
そして背凭れ代りに大きな枕を二つ背中に置いて、二人はそれに背中を預けながら本を一緒に読んだ。
本を半分くらい読み終え、ラインハルトが眠そうに目蓋を擦っているとヴィクトリアが口づけをしてきた。
「ヴィッキー?」
「ラインハルト。その……山小屋での約束を果たしたいのだが……」
ヴィクトリアに山小屋での約束と言われ、ラインハルトは思い出した。
「いいよ。それに約束してなくても、僕も君と同じ気持ちだからね。愛しのヴィクトリア」
「うん。私も同じ気持ちだ、愛しのラインハルト」
ラインハルトは隣で横になっているヴィクトリアに口づけをした。
そして二人は山小屋での約束を果たし、お互いを愛を確かめ合った。
夕日の光りが二人が眠るベットにカーテン越しに射し込む。
お互いの愛を確かめた後、ヴィクトリアは横で眠るラインハルトの寝顔を見て楽しんでいた。
相変わらずヴィクトリアの想い人は寝顔が堪らなく可愛いらしく、彼女はラインハルトの頭を撫でたり頬を突いて楽しんだ。
そしてラインハルトの両親が写っている写真と彼を見比べてみた。
「髪は母君に似て、瞳の色は父君譲りだな」
そんな事を呟いていると、不意にラインハルトが魘され始めた。
「うっ……助けて義父さん……」
「ラインハルト、大丈夫か!?」
ヴィクトリアが体を揺さぶるがラインハルトの悪夢は覚めない。
ずっと魘され、ケヴィンの名前をうわ言の様に呟いている。
いても立っても居られず、ヴィクトリアはラインハルトの体を強く抱き締めた。
「大丈夫だ。お前はもう大丈夫だから」
その言葉が通じたのかラインハルトの瞳が薄っすらと開いた。
「ヴィッキー、僕……」
「大丈夫か? 魘されていたんだぞ」
「ごめん……ちょっと悪夢を見てたみたい……」
悪夢と言う言葉を聞いて、ヴィクトリアの頭に拷問されていた時の記憶が掘り起されたのだと思った。
そして思わず彼の頭を自身の胸に押しつけて囁く。
「もう大丈夫だから安心して眠れ。お前には私がついてる」
「……ありがとう。ヴィッキーの心音を聴いてると凄く落ち着くし温かいよ……」
「そうか。ならば好きなだけそうしていて構わないぞ。お前が安心出来るなら私は嬉しい」
安心しきった表情をして体を丸め込ませるラインハルト。
その愛くるしい仕種と末っ子気質にヴィクトリアの母性本能が擽られるのか、思わず強く抱き締めてしまう。
するとラインハルトが寝言を小さく呟いた。
「ヴィッキー……大好きだよ……」
その不意打ち過ぎる言葉にまたしてもヴィクトリアの母性本能が擽られてしまい堪らなく愛しくなる。
「私も大好きだ。ずっと一緒だぞ」
「……もちろんだよ」
ヴィクトリアの温もりを感じて安心したのか、静かに寝息を立てながら囁くラインハルト。
そして彼を守る様に頭を優しく抱き締め、また悪夢を見ても大丈夫な様にヴィクトリアはラインハルトが起きるまで彼を優しく見守った。
あれからのラインハルトはやはり悪い夢を見てしまうのか、魘されながら時おり息が荒くなってしまった。
その都度ヴィクトリアが安心出来る様に声をかけてながら手を握る。
実はヴィクトリアはラインハルトの部屋に行く前にフィリーネと一緒に医師から容態を聞いていたが、医師の考え以上に悪いと思ってしまう。
見るのが辛くなるくらいラインハルトの体は至る所に拷問された痕が残っている。
火傷の痕や鞭らしき物で叩かれた痕。
そして手の平の刺傷は両手で、電気拷問の痕まである。
医師の話だと訓練を積んだ軍人でも根を上げるくらい酷く、ラインハルトの意思の強さは並外れていると。
しかし幾ら意思が強くても、心に受けた傷は消えないし治りにくいと言われた。
心の支えがラインハルトには必要だとフィリーネからも言われ、ヴィクトリアは居ても立ってもいられず急いで湯浴みを終えて部屋に駆けつけて来たのだ。
魘されていてもヴィクトリアの手を握ると息が落ち着いてくれるので取り敢えずは一安心した。
「お前はよく頑張ったよ……流石は、私が惚れた男だ」
彼を落ち着かせ様と囁くと、寝ているラインハルトがヴィクトリアの手を強く握り反応した。
ラインハルトの愛くるしく、また末っ子気質の仕種にヴィクトリアの母性本能が擽られてしまう。
「まったく……敵に立ち向かって行く時のお前は凄く頼りになるのにな。まるで子供か赤ん坊の様だ。まぁ、そこがお前の可愛い所だがな」
その言葉にラインハルトがヴィクトリアの手を強く握りうわ言を呟いて反応した。
「酷いよ……ヴィッキー……」
「すまない。お前は凄く頼りになる男だ」
それを聞いて満足したのか、ラインハルトは再び静かに寝息を立て始めた。
夕日が山の向こうに行き始めた頃、ヴィクトリアの手を握りながら寝ていたラインハルトの瞳が薄っすらと開いた。
そして優しく微笑み返してくるヴィクトリアの顔が見えた。
「ラインハルト、大丈夫か? まだ眠いなら寝ていて大丈夫だぞ?」
「うん……大丈夫。それとごめんね、ヴィッキー。魘されていたからいっぱい寝汗かいちゃったし……」
「気にするな。どのみち夕食前には湯浴みをする気だったしな。お前が安心して眠れたのなら私は構わない」
お互いに横になっていた体を起こす。
カーテン越しに射し込む夕日の光りでラインハルトの傷痕が鮮明に見えてしまうと、ヴィクトリアの心が張り裂けそうになるが口には出さずに別の話題を振った。
「ラインハルト、悪いが湯殿を貸してくれないか? 湯浴みをしたいんだ」
「もちろんいいよ。僕も後でお湯で体を拭くから。豪華な洗面台で頭も洗いたいしね。医者から湯浴みをするなって言われてなければ一緒に湯浴みをしたけどね」
ラインハルトの体は傷だらけの為に医者から暫く湯浴みをせず、お湯で体を拭けと言われているのだ。
「ならば早く傷を治すんだな。私もお前と湯浴みをしたいし……」
最後の言葉は頬を赤らめて言った。
「じゃアルムルーヴェ王宮のお湯で傷を早く治すよ。湯浴み好きの僕としては流石に辛いからね」
腕を動かしながらアピールするが、ヴィクトリアにはそれが痩せ我慢だと直ぐに分かってしまう。
「ラインハルト、迷惑でなければ体を拭くのを手伝ってやろうか? 流石に背中を拭くのは辛いだろうからな」
その言葉にラインハルトは申し訳なそうな表情で頷く。
「じゃお願いしようかな。流石に背中をやろうとすると腕が痛いから……」
「わかった。直ぐに湯浴みをしてくるから大人しく待っていろ。いいか、大人しくだぞ。私の居ない間は絶対に無理をするなよ」
「わかってるよ、ヴィッキー。大人しく本を読んで待ってる」
「うん、良い子にしてるんだな」
そういうとヴィクトリアは脱いだ猫耳寝間着の上着を羽織る様に着こみ湯殿に向かった。




