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家族の絆

 あれからヴィクトリアとフィリーネは母と娘の話があると言い、ラインハルトはジークフリートに連れられてアルムルーヴェ王宮を歩いていた。

 アルムルーヴェ王宮の主、黄金獅子は猫科の類いのせいか、至る所に猫が歩いている。

 さながら黄金獅子の館ならぬ、猫の館だ。


「すまないな、我が家は黄金獅子の一族だから猫が多いんだ」

「いえ、僕の家でも猫を飼っていますので大丈夫です。ハッピーって言う猫で、お互い小さい頃から一緒に養父母の家に住んでます……から」


 一瞬、ゾフィー婆ちゃんやルクリエ姉さん、それにアメリア義母さんを思い出した。

 みんな無事でいるのかと。


「四季国に居る家族が心配か?」

「そうですね、心配してないと言ったら嘘になりますし……」

「なら心配は要らないと思う。四季国に進駐した連合軍は解放軍を謳っているからな。住民達には危害は加えてないと現地の工作員から報告も来ている」

「本当ですか!?」


 ラインハルトの期待を込めた言葉にジークは頷いた。


「本当だ。私もあの一族と同じ様に嘘が嫌いだから」


 その言葉に一安心したラインハルト。

 そしてジークフリートの書斎にたどり着いた。

 書斎の中は落ち着いた茶色を基調にした壁紙や家具。

 そして天井の高さまである本棚。

 ジークフリートは書斎にある机から一冊の本を取り出し、それをラインハルトに手渡した。


「ずっと借りっぱなしになっていたが、ようやく返す事が出来たよ」

「これって……?」


 本の題名は『外界の可能性』と書いてある。


「実は私やフィリーネは些か君とは縁があってな。亡くなったご両親とは、ガーデンリング調査隊で一緒になってから良き友人であった。この本は調査隊にいるとき君のお父上が貸してくれた物なんだ」

「知りませんでした……」


 本をめくると一枚の写真が出てきた。

 ラインハルトと同じ瑠璃色の瞳を宿した男性と、漆黒の長髪をポニーテールに纏めている女性が笑顔で写っている。


「父さんと……母さん?」

「あぁ、写真の二人がカイとエヴァだ。船内では、よく子供の話でお互い盛り上がったよ。二人が亡くなったと聞き、私とフィリーネは酷く心を痛めた」

「フィリーネさんは父さん達と友人だったなんて一言も……」

「彼女は言えなかったんだよ。自分の立案した作戦で友人が死んでしまい、一種の負い目を感じていたんだ」


 昔を懐かしむ様に語るジーク。

 そして本棚からアルバムを取り出し、ラインハルトに見せてくれた。


「これは最後の調査時の写真だ。最後は帝国と四季国しか参加しなかったがな」

「知ってます。確か調査は失敗し、写真一枚しか撮れなかったと」

「公にはな。だが事実は小説よりも奇なりだ。それに役者も揃ったみたいだ」


 書斎の扉が開かれヴィクトリアが入って来た。

 するとジークは二人を椅子に座らせ、壁のスクリーンに映像が映し出された。


「この記録映像は調査隊だけの極秘になっている。もちろん帝国では皇帝陛下と一部の者しか知らないし、四季国では皆無だ」


 映像に映し出された風景は自分達が知らない街並みだ。

 大きな橋に赤い鉄塔や、大きな建物がまるで森の様に生えているし、街並みを歩く映像には植物が生い茂り、建物を包み込んでいた。

 再び映像が海に戻ると軍艦らしき船が坐礁して錆び付いているが、自分達の乗る船と形がよく似ている。

 そして映像は途切れた。


「父上、これは?」


 ヴィクトリアが訊いてくるとジークは書斎の窓を開けて振り向いた。


「我々以外の生命体がこの星に居たという証拠だよ。もちろん生命体は居なかったが、確かに居たという証拠がある。また我々よりも科学技術は上だ」

「もう一つの生命体……」


 ラインハルトの言葉にジークは付け加えた。


「そうだ。科学技術は我々よりも上だとわかり、調査隊は何も発見出来ず失敗したと報告した。我々自身を守る為にな。再び我ら人類が母なる惑星を汚さないように。そして、この生命体の科学技術は今の我々には過ぎた物だと判断した」


 人類が再び惑星を汚さないように、当時の調査隊は結論に至った。

 この事実を公にすれば連邦に共和国、そしてアレグリア王国がこぞって自国の発展というお題目で乗り出してくる。

 そして行き着く先は破滅だと考えた。

 だから調査隊は写真一枚のみで調査は失敗したと報告した。

 人類を守る為に。

 二人はジークの書斎からでると一人の淑女と数人の侍女らしき女性達が二人を待って居た。


「ヴィクトリア王女殿下、湯浴みの支度が出来ております。シュヴァルーヴェ様も客間に医者を待たしておりますので」


 淑女が言うとヴィクトリアがラインハルトに説明した。


「ラインハルト。侍従長のカリーナだ」

「は、初めまして」


 ラインハルトが頭を下げるとカリーナはお辞儀を返した。


「皇帝陛下並びに皇太女殿下より、シュヴァルーヴェ様の御世話をするように仰せ遣っております。仮にも元皇族のシュヴァルーヴェ様に失礼が無いようにと言われておりますので」

「あ、大丈夫ですよ……僕は普通の人間なんですから。普通に扱ってもらって構いません」

「しかし……元皇族なのですから」


 カリーナが困っているとヴィクトリアが助け舟を出す。


「カリーナ、ラインハルトがいいと言っているから気にするな。普通の客人として扱って構わない」

「かしこまりました。しかし、仮にも元皇族の御方。客間はアルムルーヴェ王宮の中でも一番良い部屋を御用意致します」


 ラインハルトが頷くとヴィクトリアは数人の侍女を従えて湯殿に向かった。


「ラインハルト、母上がお前と夕食を一緒に取りたいと言っていたから後で迎えに行くからな」

「わかったよ」


 ヴィクトリアと別れを告げ、ラインハルトはカリーナの案内によりアルムルーヴェ王宮の中でも一番良い部屋を案内された。

 部屋の中にはカーテンの仕切りが付いた大きなベット。

 大人二人は余裕で足が伸ばせる湯殿に、窓からは夕日に照らされた綺麗な庭園が見える。

 さながらチシマのスイートが霞むくらい豪華な客間。

 医者と看護師が待っており、早速ラインハルトの診察と治療を始めた。

 手の平の刺傷は縫われ、体中の火傷や電気拷問の痕、打撲などの治療を終えた頃には包帯ぐるぐる巻きにされてしまった。

 さながらミイラみたいだ。

 カリーナから医者の言伝で、暫くは湯浴みは駄目で体をお湯で拭くだけに留めておいて欲しいと言われた。

 ラインハルトが二つ返事で頷くと、カリーナは呼び鈴を鳴らせば侍女か侍従が直ぐに駆け付けると言い部屋を後にした。

 そしてラインハルトはベットに横になり、ジークから返された本を読みながら時間を潰す事にした。

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