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愛の言葉 そして開戦

 飛行艇は一路、帝国に向かって飛んでいた。

 ライトやミヤビ、そして仲間達と再開を果たしたラインハルト。

 ライトからは「ガキの癖によく拷問に耐えたな」と褒められたが、空かさずヴィクトリアが「ガキと言うな! ラインハルトは誇り高き男だ!」と言って、噛みつきながら抗議した。

 そんな中で緊張の糸が切れたのか、ラインハルトが倒れ込んでしまう。


「ラインハルト!?」


 ヴィクトリアが駆け寄ったが、急いでミヤビが駆け寄って来た。


「任せて! 私は元看護官だから」


 ミヤビが救急バックを持って治療を始めた。

 ライトの話では、ミヤビは元国防軍に所属していたらしい。

 ラインハルトの体は拷問の所為で至る所に火傷や刺傷、打撲に電気を使った特有の拷問痕が残っていた。

 その光景に思わずライトも「あいつら、ヒデェ事しやがる……」と言わしめてしまう程だ。

 ミヤビが治療をしているとラインハルトが手で制止して、ミヤビに何かを話している。

 ミヤビは頷き、ヴィクトリアの方を見た。


「ヴィクトリア……ラインハルトが呼んでる」


 その言葉を聞いてヴィクトリアは急いで駆け寄った。


「ラインハルト……」

「やぁ、可愛いヴィクトリア……どうしても君に伝えたい言葉が……あってね。あの砂浜で言えなかった言葉……オホッ!オホッ!」


 ラインハルトが苦しそうに咳き込み、ヴィクトリアは見ていられなかった。


「何も言うな。今は治療に専念しろ……」


 ラインハルトの手を握りながらミヤビを見るがミヤビは首を横に振るだけだった。

 それはラインハルトの意思を尊重してだ


「ダメだよ……僕も男だから、ちゃんと伝えないといけないから……」


 ラインハルトが何か言おうとしているが、声がかすれて聞き取れない。

 ヴィクトリアがラインハルトの口元に耳を傾けると。


「この世界で誰よりも愛している……ずっと一緒にいようね……。それに……泣いた顔よりも、笑った顔が僕は好きだよ……世界で一番可愛いヴィクトリア」


 ラインハルトが囁いた愛の言葉にヴィクトリアは頬を紅潮させ、涙を流しながら小さな声でラインハルトに言った。


「黙れバカ……だが私もお前と同じ気持ちだ」


 ヴィクトリアが流した涙をラインハルトは手で拭い、ラインハルトに口付けした。



 八月十五日午前五時 海岸線を飛行し、飛行艇はようやく帝国の誇る帝都ユグドラシルにさしかかる。

 だが近付いた瞬間、飛行艇は高射砲の弾幕に飛び込んでしまった。


「帝都北西部に湖がある! そこに着水しろ!」


 ヴィクトリアの指示に従い、ライトは操縦桿を握りながら主機関を全開にする。

 高度を下げると高射砲が止み、今度は機関砲や重機関銃の曳光弾が火線を描く。


「みんな掴まれ! 荒い着水になるぜ!」


 ライトが叫び、みんなが身構える。

 そんな中、飛行艇の着水進路には進水したばかりの二隻の船舶が航行していた。

 船舶は警笛を鳴らしながらライトは飛行艇を真横に飛ばす。

 二隻の間を縫うように駆け抜けていき、着水した。


「ミヤビ! 主機関逆噴射!」

「了解!!」


 主機関のプロペラ角度が変ると減速していき、飛行艇は湖のど真ん中で止まった。

 すると直ぐに帝国軍の駆逐艦が接近してきて主砲で威嚇射撃して警告する。


『こちらは帝国軍大将アデリナ・フォン・ブリューゲル。お前達の所属を明らかにせよ! ここを帝都と知っての狼藉か!』


 その声と名前を聞いて、ラインハルトとヴィクトリアは扉を開けて主翼の上で手を振る。


『ヴィクトリア王女殿下!? 全軍武器を納めろ! あれは王女殿下だ!』


 駆逐艦から降ろされた連絡艇が飛行艇に接舷し、二人を駆逐艦に連れて来た。

 すると一目散にアデリナの元に二人が駆け寄る。


「アデリナ、急ぎ帝国軍と皇帝陛下に報せろ! 四季国の反乱軍と連邦が攻めて来るぞ!」

「連邦と反乱軍って……四季国の国防軍が?」

「本当だ!」


 半信半疑のアデリナにケヴィンから託されたメモリースティックとシュネーヴィの一件を話してアデリナの顔が蒼くなる。


「急ぎ皇帝陛下に報せろ! 最高司令部とアルデンヌ要塞に緊急通信!」


 その瞬間、駆逐艦に緊急通信が入る。


『こちら帝都防衛艦隊! 敵艦隊に包囲攻撃されている! 至急来援を乞う!!』

『アルデンヌ要塞から司令部! 現在、敵大部隊の攻撃を受けている! 敵の中に鉄騎を確認した! 繰り返す――』


 ラインハルトとヴィクトリアは間に合わなかった。

 悪夢が現実となり帝国に襲いかかる。

 だが悪夢は終わらない。

 東部アルデンヌ要塞だけで収まらず、西部ライン要塞に南部ニュルンベルク要塞からも敵襲の緊急通信が入り乱れて入って来た。

 そしてアデリナは二人を見て重い口を開く。


「私は最高司令部に向かいますので、二人は急ぎ皇帝陛下に事情の御説明をお願いします」


 アデリナの言葉に二人は無言で頷き、手配された車に乗り込むなり王宮に向かった。



 あれから何時間待っただろうか。

 二人は王宮に着くなり謁見の間で待たされていた。

 目の前には深紅の玉座があるが皇帝は不在だ。

 ヴィクトリアがしびれを切らしそうだったので落ち着かせる為に手を握った瞬間、玉座の後ろ扉が開かれた。


「待たせたな、二人とも」


 皇帝ヒルデガルドと軍務長官のアーダルベルト元帥が現れる。

 ラインハルトとヴィクトリアはヒルデガルドが現れるなり一礼し、ヒルデガルドもまた手を上げて挨拶した。


「さて、何から話せばいいか。まずフィリーネから託されたペンダントをよく守ってくれた、礼を言う。そしてシュヴァルツ候補生の父君から渡されたメモリースティックのお陰で帝国は助けられた」

「皇帝陛下、では――」


 今回も帝国が無事だと思ってヴィクトリアが期待の言葉を発するが、アーダルベルトが付け加えた。


「残念ながら帝国は多くの報国を失いました。四季国を始め、要塞防衛ライン外側の報国は敵の手中に……」


 四季国は敵の手中に落ちた。その言葉にラインハルトは頭が真っ白になってしまう。


「並びに敵は連邦だけではなく、共和国にアレグリア王国。そしてそれに追随する諸外国の連合軍によって、軍事力は帝国の倍で攻めて来ました。それによって帝都防衛艦隊は連合艦隊の攻撃で壊滅。指揮を執ったヴィルヘルム上級大将のお陰でキール運河は守れましたが、ヴィルヘルム閣下は船と運命を共にされました。そして今、帝国に連合軍を押し返せる程の戦力はありません」


 アーダルベルトの淡々とした言葉に二人は沈黙してしまう。

 早く知らしていればと。

 ヒルデガルドがそんな二人に言う。


「そなた達は救国の英雄で、そなた達のお陰で帝国は致命傷を負わずにすんだのだ。メモリースティックの情報により、敵の作戦展開を妨害出来たからな。今回は完全に我らが騙されたんだ……」

「騙された?」


 ラインハルトの言葉にヒルデガルドは頷く。


「ああ。敵は自分達が宣戦布告する前に攻撃を開始した。いわば騙し討ちだな」


 帝国は連邦に対し宣戦布告を午前九時にすると大使達に通達したが、慌てふためいた連合軍が自分達が宣戦布告する前に攻撃を開始したのだ。

 帝国の外務省に宣戦布告の文書が送られてきたのは連合軍が攻撃開始をしてから一時間後の事だった。


「この戦争は長く辛い戦争になるだろう。だがそなた達が無事に帰って来たのは嬉しく思う。明日の晩にでも二人の英雄の生還を祝した晩餐会を開く予定だ。それまで二人はアルムルーヴェの王宮で長旅の疲れを癒せ。特にシュヴァルツ候補生は傷の手当てが必要だからな。話しは以上だ」


 ヒルデガルドが玉座から立ち上り退室しようとしたが、何かを思い出した様に振り替った。

 そして微かに笑いながら檀上から降りてラインハルトの肩を掴む。


「我が()()()孫娘の数々の窮地を救ってもらい厚く感謝する。()()()()()()()()()()


 その言葉に二人は思わず呆けてしまうが、直ぐにラインハルトが頭を下げた。


「ヴィッキーの……ヴィクトリアの想い人として当然の事をしました。彼女の為なら喜んで僕の命を危険に晒してでも守り抜きます」

「そうか、そなたなら安心して孫娘を託せるな。良かったな、ヴィクトリア。彼の様な男はそうそういないぞ」


 笑顔でヴィクトリアに語りかけ、彼女もまた頭を下げた。


「陛下、私もそう思います」

「ここには私とそなた達二人、アーダルベルトしか居ない。だから御婆様で構わないぞ、ヴィクトリア」

「は、はい……御婆様」


 恥ずかしそうに言うヴィクトリアの肩を微かに笑いながらヒルデガルドは叩いた。


「いずれそなた達とはゆっくり話がしたいな。明日の昼食会にでもどうだ?」

「はい、御婆様!」


 ヒルデガルドにラインハルトが認められて嬉しかったのか、ラインハルトが答える前にヴィクトリアが即答してしまう。


「では明日の昼食会にまた会おう。シュヴァルツ候補生は養生するように。アルムルーヴェ王宮の湯浴みの湯は傷に良く効くぞ。それと外にアデリナを待たしている。そなた達に会わせたい人がいるからな」

「はい、陛下」


 ラインハルトが一礼するとヒルデガルドは手を上げて挨拶し、アーダルベルトは頭を下げて退室した。

 帝国軍と連合軍、世界を巻き込んだ世界大戦が勃発してしまったが、野戦訓練から続く困難もようやく終わりを迎え、ラインハルトとヴィクトリアは我が家(帝国)に帰って来た。

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